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プロジェクトの概要

 

研究プロジェクト

法と倫理のコラボレーション
―活気ある社会への規範形成―

実施期間 2009~2011年度(第3年次)
研究代表者 服部 高宏 京都大学大学院法学研究科教授
研究目的要旨

多様な専門領域に分化した現代社会では、専門職倫理や組織倫理など、各専門領域において独自に形成・維持される倫理規範の意義が高まっており、人々の価値ある生活を実現・維持していく上で不可欠のものとなっている。本研究は、法と専門職倫理・組織倫理との関係など、現代社会における法と倫理との間の適切なコラボレーションの在り方に考察の焦点を合わせ、活気のある社会を可能にする秩序形成の在り方を模索することを目指す。

研究目的 ① 背景:

「法」は広義の社会の基本構造であり、専門・分化した社会領域のすべてを規律対象とすることができる。しかし法がこれらをどのように規律するかは、対象たるサブ・システムの特性やそのコードの独自性、適切な規律手法の選択といった困難のため、法学にとって困難な問題となっている。今日では、法的規制の緩和ないし撤廃が大きな趨勢であるが、それはサブ・システムの無秩序化を意味するわけではない。むしろ社会のサブ・システム内部での規範形成が活性化し、法はそれを支援し、それと適切な協働関係に立つことが求められる。昨今、社会秩序形成の原理として「補完性」に関心が集まっていることも、このような文脈において理解できるであろう。

この点との関連で注目されるのは、専門職倫理や組織倫理など、各専門領域において独自に形成・維持される倫理規範の意義が高まっていることである。周知の通り、企業倫理・経営倫理、環境倫理、情報倫理、生命倫理・医療倫理、看護倫理、技術倫理、法曹倫理、研究倫理、社会福祉倫理など、様々な社会領域で起こる特有の問題に焦点を合わせた、独自の倫理が展開されている。個人としての専門職が担い、また専門的な組織それ自体に求められる責任も、多様な専門領域に分化した現代社会において人々の価値ある生活を実現・維持していく上で、不可欠のものとなっている。

このような社会の種々のサブ・システムで見られる倫理の再評価、倫理の復権による秩序形成の動向に対して、法の側ではこれをどのように受け止め、評価し、さらに法自身がそれとどのような仕方でかかわりを持ち、また持つべきか。また、かかる倫理の基盤となる価値・価値秩序は、いったいどのようなものであり、また何に由来するか。本研究がターゲットとするのは、まさにこの点にある。

② 必要性:

すでに企業の社会的責任や医療倫理・生命倫理などをめぐる議論において、法と専門職倫理・組織倫理との関係について検討が行われているが、個別的な問題検討に限られている。本研究ではその裾野をさらに拡げ、現代社会における法と倫理との間の適切なコラボレーションの在り方全体に考察の焦点を合わせることに、独自の意義がある。その際の基本的なコンセプトは、決して抑圧的なものではない、活気のある社会を可能にするための秩序形成の在り方を模索することである。こうした視点に基づく研究は、現代の機能分化した社会における各サブ・システム内の倫理の展開と、全体社会の構造である法とのありうるべき適切な協働関係を探求するうえで不可欠である。

③ 方針:
  • 各専門領域でどのような規範形成がなされており、その中で倫理規範の意義がどのように高まっているか、またその専門領域における行動規制において、法はどの程度のまたどのような類の役割を担うことが期待されているか、について明らかにするため、各専門分野の識者を招き、意見交換を行い、また問題状況に検討を加える。
  • 伝統的に法が規律の役目を担ってきた領域で、あるいは新たに秩序形成の問題が生じてきた領域で、むしろ専門領域の自主的な秩序形成に委ねることで、秩序問題の解決への糸口を探ろうという傾向が見られる。この問題を法と倫理のコラボレーションという観点から解明するため、法学内部においても専門横断的な検討を加える。
キーワード 法、組織倫理、専門職倫理、価値秩序、補完性原理
参加研究者リスト15名
服部 高宏 京都大学大学院法学研究科教授
石本 傳江 山陽学園大学看護学部教授
岩田 一明 大阪大学名誉教授・神戸大学名誉教授
大野 達司 法政大学法学部教授
亀本  洋 京都大学大学院法学研究科教授
齊藤 真紀 京都大学大学院法学研究科准教授
霜田  求 京都女子大学現代社会学部教授
高山 佳奈子 京都大学大学院法学研究科教授
瀧川 裕英 大阪市立大学大学院法学研究科教授
田中 成明 国際高等研究所副所長
那須 耕介 摂南大学法学部准教授
平野 仁彦 立命館大学大学院法学研究科教授
松尾  陽 近畿大学法学部特任講師
宮崎 真由 玉川大学文学部人間学科助教
若松 良樹 成城大学法学部教授
2011年度
研究活動予定
① 研究会開催予定:

1泊2日の研究会を年に3回開催(於:高等研)。

その他に、とりまとめのための打ち合わせ会合を1回開催(於:京都大学)

② 話題提供者:
中村 直美氏 (熊本大学名誉教授)
他2名(国内)
研究活動実績 2009年度:

本プロジェクトの趣旨・方法について参加者で意見交換をし、問題意識の共有を図った上で、①本プロジェクトが想定するあるべき社会の姿について意見交換をするとともに、②各専門分野における専門家や専門家倫理の現状と意義について検討を開始した。

②については、那須耕介氏の話題提供により、環境政策の立案・形成における専門家の役割に民主主義との関連で検討を加え、また、石本傳江氏の話題提供により、看護教育における看護倫理の構築と実践の現状と意義について意見交換を行った。さらに、桂木隆夫氏の話題提供により、江戸時代の商人道の中にある「自由」の意味とその現代的意義について検討を行い、吉岡剛彦氏の話題提供に基づき、子どもに対する医療ネグレクトをめぐる法と倫理の交錯した領域の問題について議論をした。また、本プロジェクトの柱となる責任という観念について、瀧川裕英氏の話題提供に基づき、意見交換を行った。

①については、大野達司氏の話題提供により、NPOなどの新たな公共性の誕生が市民社会にどのような変容をもたらすかについて検討を加え、毛利透氏の話題提供により、市民社会から国家権力へのインプットの諸類型について、その可能性と限界の観点から議論を行った。

他のプロジェクトとの相互交流については、亀本洋教授が代表をされるプロジェクト「スンマとシステム」とは、各々の研究参加者の相互乗り入れを行い、また岩田一明教授が代表をされるプロジェクト「21世紀における文化としての設計科学と生産科学」の研究会に、服部が参加させていただき、また岩田教授には本プロジェクトの研究会に参加していただいて、それぞれ意見交換を行った。

研究会開催実績:
第1回: 2009年12月18日~19日 (於:高等研)
第2回: 2010年3月5日~6日 (於:高等研)
話題提供者:5名
石本 傳江 山陽学園大学看護学部教授
桂木 隆夫 学習院大学法学部教授
那須 耕介 摂南大学法学部准教授
毛利  透 京都大学大学院法学研究科教授
吉岡 剛彦 佐賀大学教育学部准教授
その他の参加者:9名
岩田 一明 国際高等研究所フェロー、大阪大学名誉教授、神戸大学名誉教授
大西 貴之 立命館大学大学院法学研究科博士課程
加藤 正明 京都大学大学院法学研究科研究員(学術創成)
近藤 圭介 京都大学大学院法学研究科博士後期課程
佐橋 謙一 京都大学大学院法学研究科博士後期課程
重本 達哉 京都大学大学院法学研究科研究員(学術創成)
霜田  求 大阪大学大学院医学系研究科予防環境医学専攻(医の倫理学分野)准教授
中林 良純 京都大学大学院法学研究科博士後期課程
平野 仁彦 立命館大学法学部・法科大学院教授

2010年度:

昨年度より引続き、各専門分野における専門家や専門家倫理の現状と意義について検討を継続した。

第1回目の研究会では、社会福祉について、佐藤彰一教授の話題提供により、成年後見と自己決定支援に関する問題点について意見交換を行い、生命倫理について、田中成明教授の話題提供により、生命倫理の議論の正当化論にかかわる論争状況を確認し、脳科学について、霜田求教授の話題提供により、脳科学の展開を背景に自由意志と責任概念の再構成について意見交換を行い、また、犯罪予防について、松尾陽氏の話題提供により、状況的犯罪予防論などポスト規制国家の犯罪予防について意見交換を行った。

第2回目の研究会では、田中成明教授の話題提供により、法曹倫理と生命倫理を比較しつつ、専門職倫理の実効性確保と法化について検討し、齊藤真紀准教授の話題提供により、企業活動における倫理問題の所在をめぐって意見交換し、最後に、宮崎真由助教の話題提供により、米国における議論の展開を素材にして、法と道徳の関係について議論した。

研究会開催実績:
第1回: 2010年6月18日~19日 (於:高等研)
第2回: 2011年3月4日~5日 (於:高等研)
話題提供者:1名
佐藤 彰一 法政大学法科大学院教授
その他の参加者:9名
石塚 武志 京都大学大学院法学研究科研究員(学術創成)
岩田 一明 国際高等研究所フェロー/大阪大学・神戸大学名誉教授
大西 貴之 立命館大学大学院法学研究科博士課程
栗田 昌裕 京都大学大学院法学研究科特定助教(学術創成)
近藤 圭介 京都大学大学院法学研究科博士後期課程
小石川 裕介 京都大学大学院法学研究科研究員(学術創成)
佐橋 謙一 京都大学大学院法学研究科研修員
野崎 亜紀子 広島市立大学国際学部准教授
野々上 敬介 京都大学大学院法学研究科研究員(学術創成)
研究成果報告書
の出版
2012年7月出版予定