このページの情報は2015年2月時点の情報になります。


プロジェクトの概要

 

研究プロジェクト

21世紀における文化としての設計科学と生産科学

実施期間 2009~2011年度(第3年次)
研究代表者 岩田 一明 大阪大学・神戸大学名誉教授
研究目的要旨

近年における人工財(ハードウエア、ソフトウエアや仕組み・仕掛けなど人間が生み出す有形、無形のもの)の創出に関わる設計科学と生産科学分野は、人口・資源・エネルギーなどの諸問題や価値規範の多様化の中で、新たな状況に直面している。このことは人工財の設計科学と生産科学の役割や責務などを、生活様式や社会通念、制度などを含む文化の視点より再考する必要性を示唆している。本課題では、文化としての設計科学と生産科学(製造文化)を検討するために、前提となる現代的課題や制約条件などを抽出するとともに、それらの関係性を総合的に考証する。同時に、そこから生まれてくる新しい製造文化の姿についても議論を行う。

研究目的 ① 背景:

20世紀は科学技術の世紀といわれ、社会生活に占める重みが増大した。その後も、科学技術への傾斜は続いているように見える。同時に、科学技術がもたらす問題点も、多数、顕在化した。科学技術に対する精神面の不安定さが拡大することへの懸念も少なくない。21世紀初頭の現在、これら社会と科学技術の関係性において生起する問題の本質が混沌として明確でない状況にある。

従前より、多様な文明論、文化論が展開されてきた。今後、グローバル化した世界の視点を包含した、わが国の文化的存立の構築と維持に関する検討、すなわち21世紀の文化像や文明をどのように考えればよいかが希求されている。このとき、文化・社会と科学技術とのInter-disciplinary、Trans-disciplinary(超領域的)、また、Cross-disciplinaryな諸相への深層的な検討の重要性が指摘されている。その際、科学/技術、とくに「広義の人工財創出」を対象にするとき、どのような「系、目的、制約条件、合意形成」を考慮すべきかを検討し、制度やルールの設計という視点も融合させて取り扱うことが不可避と考えられる。

上示のように、現在、21世紀における「人工財創出」の新しい枠組みの深耕が希求されている。たとえば、人工財創出の系そのものの捉え方、人工財としてのロボットと人間との連続性・不連続性の問題、また人間社会・文化の枠組みの中でのロボット・人工臓器の位置づけと役割など、学術研究や開発に先立つ考え方が深く検討され、合意されておくことが不可欠である。

② 必要性:

この課題は、とくに人工財創出面における根源的なものであり、人類の将来に向けて緊要で避けることができないものと考えられる。いいかえれば、科学技術に関わる部分問題から全体問題への視点の変化の中での俯瞰的・根源的課題と理解され、そこに新たな学術の芽が隠されている。

大学など研究機関で実施されている研究開発課題は、多くが部分問題であり、価値規範の本質的変遷を意識したものは限定されている。これに対し、本課題では多様な専門分野の卓越した専門家による知の融合と触発の中に、この種の問題への解決を導く。すなわち、個別専門分野適応問題というよりも多分野融合型のアプローチである。本課題は、戦略性とともに緊要性を有する課題であり、遅滞は人類の生存、また、わが国の歴史性を踏まえた持続的発展と生存に大きな支障をきたす可能性がある。近未来のわが国の文化形成における根幹的問題を内蔵している。同時に、学術領域にも社会一般にも、理念のみでなく、より具体的な検討と合意への素案が必要である。この意味で、本課題に対する今後のアプローチの枠組みの提案は新たな学術の芽としての枠組みの提案であり、その検討は学術領域で知の蓄積を図ってきた研究者の、未来に向けての貢献課題であり、義務ともいえる。

③ 方針:

多分野の識者の学術的討議を通して、「21世紀における文化としての設計科学と生産科学」の前提とすべき基本的な考慮の視点ならびにベースとなる系や制約条件、また課題のモデルや解決手法などの諸点を提示・集約し、今後に向けて考究すべき新学術領域の候補課題とその枠組みについて検討したい。例えば、醸成すべき新しい文化(技術文化、製造文化)や科学技術と社会とのかかわりの問題などである。

キーワード 設計科学、生産科学、製造文化、持続可能性、生存可能性
参加研究者リスト11名
岩田 一明 大阪大学・神戸大学名誉教授
上田 完次 産業技術総合研究所理事/東京大学名誉教授
梅田  靖 大阪大学大学院工学研究科教授
苧阪 直行 京都大学特任教授
小野里 雅彦 北海道大学大学院情報科学研究科教授
北原 和夫 東京理科大学大学院科学教育研究科教授/東京工業大学名誉教授
児玉 皓雄 株式会社先進知財総合研究所代表取締役会長
小林 傳司 大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授
中島 秀人 東京工業大学大学院社会理工学研究科教授
堀  浩一 東京大学大学院工学系研究科教授
松島 克守 俯瞰工学研究所代表/慶応大学訪問教授/
東京大学名誉教授
2011年度
研究活動予定
① 研究会開催予定:

5月、11月に午後半日の研究会を、8月、2月に一泊二日の研究会を開催予定。会場は全て高等研で実施。

② 話題提供予定者:4名

科学技術公共学、価値の科学、共感と縁の科学など、本プロジェクトで提案する新学術領域に関連の深い専門家を国内より4名程度招へい予定。

研究活動実績 2009年度:

「21世紀における文化としての設計科学と生産科学」に関して今後検討すべき基軸となる課題を抽出選定するために、外部の話題提供者、および、研究会参加者による話題提供、ならびにそれら内容に対する討議を中心に活動を行った。討議を行った話題の概要は以下のように整理できる。

    ○現代的課題への役割:
  • 「Sustainability研究」:Sustainability実現に向けて必要なものづくりの在り方
  • 「交渉による合意形成-方法論(ハーバード流交渉術)と事例」:合意形成に至るための、原則立脚型交渉の方法論
  • 「水素経済と社会 -燃料電池開発を軸として-」:水素社会、燃料電池開発を例題とした、科学と技術の本質、科学技術政策の役割
  • ○人工財と人間との関係性の問題:
  • 「人工知能と心」:機械と心の関係性、心を豊かにする機械、人工知能倫理学の提唱
  • 「『倫理レベル』からの設計と『言説による設計』」:倫理レベルまで溯って、どのような人工物をどのように設計すべきかを議論する必要性、倫理レベルを表現できる言語の創造
  • 「ミンスキーの『脳の探検〜常識を持つロボットマシンの実現に向けて』」:機械との対比における、人間の自我、感情、思考過程
  • ○ものづくりと社会・文化の関係:
  • 「価値論と人工物」:価値観の歴史的系譜と、これからの設計科学・製造科学に求められる価値観
  • 「日本の科学/技術はどこへいくのか」:科学技術史から見た、科学と技術の相違、関係性、20世紀における科学と技術の意義
  • 「ものづくりと文化/科学/21世紀についての7つの問いかけ」:ものづくりの定義、および、ものづくりと文化、価値、日本の固有性との関係についての議論

これらの結果から、これまでの設計科学、生産科学が議論してきたような、与えられた目的関数のもとで、いかに効率良く、コストパフォーマンス良く、人工財を創出するかという課題ではなく、前提となる現代的課題や制約条件が大きく変化しつつある中で、人工財の設計科学と生産科学の役割や責務が大きく変貌し、我々は人工財として何を作るべきかが問われていることを明確にすることができた。

研究会開催実績:
第1回: 2009年7月1日    (於:高等研)
第2回: 2009年9月18日~19日(於:高等研)
第3回: 2009年11月14日   (於:高等研)
第4回: 2010年1月22日~23日(於:高等研)
第5回: 2010年3月19日    (於:高等研)
話題提供者:3名
関口 海良 東京大学大学院工学系研究科大学院生
竹林 洋一 静岡大学情報学部教授
松岡  博 国際高等研究所フェロー/帝塚山大学法政策学部教授/大阪大学名誉教授
その他の参加者:6名
合志 陽一 国際高等研究所フェロー/筑波大学監事
関口 海良 東京大学大学院工学系研究科大学院生
畠山  実 財団法人機械振興協会技術研究所生産技術部・技術協力センター
服部 高宏 国際高等研究所企画委員/京都大学大学院法学研究科教授
日比野 浩典 財団法人機械振興協会
松島 克守 俯瞰工学研究所代表理事

2010年度:

2009年度に抽出された課題の方向性、すなわち、前提となる現代的課題や制約条件が大きく変化しつつある中で、人工財の設計科学と生産科学の役割や責務がどのように変貌しつつあるなか、我々は人工財として何を作るべきか、を探るための主要なキーワード、今後への問題点、新しい概念やモデルなどを検討するために、外部の話題提供者、および、研究会参加者による話題提供、ならびにそれら内容に対する討議を中心に活動を行った。討議を行った話題の概要は以下のように整理できる。

    ○科学技術と教育の今後の姿:
  • 「科学技術リテラシーと高等教育のデザイン」(北原和夫委員):科学技術の智、Science for all Japanese、持続可能性に向けた高等教育について
  • 「俯瞰工学の現状と展望」(松島克守委員):俯瞰工学、知の構造化、地域クラスターについて
  • ○持続可能性に向けた科学技術の役割:
  • 「エネルギー政策の目指すもの」(国吉浩先生):エネルギーを取り巻く状況、日本のエネルギー政策、エネルギー学の試みについて
  • 「自然に学ぶ粋な暮らしとものつくり」(石田秀輝先生):エコ・ジレンマ、ライフスタイルの変革、ネイチャー・テクノロジーについて
  • ○科学技術と社会:
  • 「コミュニティ・ガバナンスに基づく都市景観の設計方法」(門内輝行先生):景観・環境における関係性の設計、京都の都市景観を守る活動を通じたコミュニティ・ガバナンスについて
  • 「技術と社会:技術の創造性と設計の原理」(村田純一先生):技術哲学、工学倫理、ユニバーサルデザイン、設計の原理について
  • 「人工生命研究の含意 -科学史・科学論の立場から-」(林真理先生):人工生命、合成生物学の動向と科学史・科学論からどう読み解くかについて
  • 「文化受容体による“ガラパゴス”からの逆襲 -グローバル・リンケージの可能性と課題-」(北嶋守先生):工業製品における文化受容体、海外地域との双方向的なコミュニケーションであるグローバル・リンケージについて
  • 「科学技術と社会 意志決定に科学はどう関わるか」(小林傳司委員):科学技術と社会、その事例としての遺伝子組み換え作物、BSE問題、科学と政策にまたがるトランス・サイエンスについて

今年度は特に、変革しつつある社会における科学技術の役割の変化、社会と科学技術の関係性の変化を中心に討議を行った。これらに基づき、来年度に中心的に検討すべき課題、新しい学術領域について第6回研究会において議論を行い、三つの方向性に集約した。一つは、科学技術が社会に与える影響はこれまで以上に今後増大する可能性があり、このとき、科学技術の開発、発展には何らかの倫理的方向付け、規範がますます必要となってくる。本課題は、例えば、ユニバーサルデザインにその兆しが見受けられるような、倫理に根ざしたイノベーションや技術革新の可能性を探る「科学技術公共学」である。第二は、「価値の科学」である。設計科学・生産科学は使用者に対して価値を創造し提供するための科学であるが、世代間、世界における地域間で価値観が多様化しており、今後ますます発散する危険性が高い。このような状況のもとで、設計科学・生産科学の基礎論として「価値」をどのように理解すればよいのかを探る。第三は、第二の課題とも関係するが、現代において価値は、従来的なモノの提供よりもむしろ、共感であったり、個と個の関係の成立であったり、個人の体験や関与することから生じる傾向がある。このような価値を社会で増幅する仕組みを検討する「共感と縁の科学」である。

研究会開催実績:
第1回: 2010年5月28日~29日(於:高等研)
第2回: 2010年7月3日(於:高等研)
第3回: 2010年9月4日(於:高等研)
第4回: 2010年10月15日~16日(於:東京)
第5回: 2010年12月17日~18日(於:高等研)
第6回: 2011年3月5日(於:高等研)
話題提供者:6名
石田 秀輝 東北大学大学院環境科学研究科教授
北嶋  守 機械振興協会経済研究所調査研究部長
国吉  浩 近畿経済産業局地域経済部長
林  真理 工学院大学工学部教授
門内 輝行 京都大学大学院工学研究科教授
村田 純一 東京大学大学院総合文化研究科教授
その他の参加者:2名
国吉  浩 近畿経済産業局地域経済部長
鈴木 順一 近畿経済産業局産業部サービス産業室文化産業係長
研究成果報告書
の出版

成果報告書に関しては作成の方向で検討しているが、正式には3年度の活動状況や委員のご意見を踏まえて、最終的に判断する。