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プロジェクトの概要

 

研究プロジェクト

単分子エレクトロニクスの現状認識と
近未来実現へ向けての中核体制構築

実施期間 2010~2011年度(第2年次)
研究代表者 夛田 博一  大阪大学大学院基礎工学研究科教授
研究目的要旨

電子素子の微細化、高集積化技術の進歩はめざましくユビキタス社会の発展を支えている。一方で、素子の微細化に伴う誤動作の確率の増加や素子作製に必要な設備および素子そのものの消費電力が増大するといった問題が顕在化しており、高度情報化社会を引き続き発展させるためには早急に解決する必要がある。単一分子を構成要素とする分子エレクトロニクスの実現は、量子性の活用により、電気を流すエレクトロニクスからの脱却を可能とし、さらには誤動作を自己修復したり、誤動作そのものを利用する新しい情報処理素子の創出が期待できる。分子設計・合成技術、計測技術、理論の進展により、単一分子の電気伝導度をようやく定量的に議論できるようになりつつあるが、それでもなお現象の正しい理解はきわめて困難である。本プロジェクトでは、分子エレクトロニクスの創成に熱意をもって取り組む研究者を中心に、スピントロニクスやフォトニクス、クォントロニクスの分野において第一線で活躍する研究者が自由にかつ積極的に行き来するハブ機能を持つ組織を構築し、現状の詳しい分析に基づいたロードマップの導出を行うことを目的とする。

研究目的 ① 背景:

単一分子エレクトロニクス(Molecular-scale Electronics : Molectronics, Moletronics ともよぶ)は、有機EL等の有機薄膜エレクトロニクス(Molecular-based Electronics)とは異なり、ひとつまたは数えられるほどの分子を取り扱って究極のナノデバイスを構築しようとする研究領域である。1974年に単一分子ダイオードの概念が発表され注目を集めたが、その実験的検証は困難をきわめ、ようやく2009年に信頼できる結果が報告されるに至っている。分子設計・合成技術、計測技術、理論が飛躍的に進歩したことによるが、それでもなお現象の正しい理解のためには未解決の問題が山積しており、現状の詳しい分析に基づいたロードマップの導出が不可欠であるとの認識が広がっている。

② 必要性:

現在のコンピューターはエラーが許されず、ひとつのエラーが生命・財産を脅かすことになる。また、ユビキタス社会の発展は、同時にエネルギー消費量の増大をもたらしている。単一分子エレクトロニクスの進展は、量子性の活用により、電気を流すエレクトロニクスからの脱却を可能とし、さらにはエラーを自己修復したり、エラーそのものを利用する新しい情報処理素子の創出が期待でき、高度情報化社会の発展に資するところが大きい。しかしながら、その研究は極めて萌芽的・挑戦的であり、ブレークスルーをもたらすためにはナノ物質科学に関連するさまざまな分野の英知を結集して問題解決にあたる必要がある。

③ 方針:

まず単一分子の電気伝導度特性を正しく理解するとともに、分子の量子機能をどのように活用するかを探索し、新しい情報処理素子の設計指針を導出する。そのため、分子エレクトロニクスの実現に熱意をもって取り組む研究者を中心に、スピントロニクスやフォトニクス、クォントロニクスの分野において第一線で活躍する研究者が自由にかつ積極的に行き来するハブ機能を持つ組織を構築し、下記の課題を設定して問題の解決にあたる。

(ア) 分子エレクトロニクスに適した分子の量子化学設計・合成
(イ) ナノギャップ電極作成・プロセス開発
(ウ) 走査プローブ顕微鏡でのイメージングとスペクトロスコピー測定
(エ) 分子・電極間の接合(電極問題)と量子輸送現象に関する第一原理計算を含む理論的解明と実証
(オ) 単分子の光学特性、磁気特性等の理論予測と実証
(カ) 単分子デバイス化へ向けての、特有のデバイスの動作予測と実現へ向けての課題抽出、エレクトロニクス実装への課題抽出
キーワード 単一分子エレクトロニクス 電極問題  キャリア輸送
参加研究者リスト25名
夛田 博一 大阪大学大学院基礎工学研究科教授(デバイス作成、計測)
浅井 美博 産業技術総合研究所ナノシステム研究部門副研究部門長(理論)
安蘇 芳雄 大阪大学産業科学研究所教授(分子合成)
岡本 裕巳 自然科学研究機構分子科学研究所教授(光計測)
小川 琢冶 大阪大学大学院理学研究科教授(分子合成、デバイス作成)
木口  学 東京工業大学大学院理工学研究科准教授(デバイス作成、計測)
桑原 裕司 大阪大学大学院工学研究科教授(作製、計測)
米田 忠弘 東北大学多元物質科学研究所教授(STM)
齋藤 軍治 名城大学総合研究所教授(有機物性化学)
高尾 正敏 大阪大学大学院基礎工学研究科特任教授(材料・デバイス)
高木 紀明 東京大学大学院新領域創成科学研究科准教授(STM)
田中 彰治 自然科学研究機構分子科学研究所助教(分子合成)
谷口 正輝 大阪大学産業科学研究所准教授(バイオナノテクノロジー)
中村 恒夫 産業技術総合研究所ナノシステム研究部主任研究員(理論計算)
橋詰 富博 株式会社日立製作所中央研究所主管研究員
東京工業大学大学院理工学研究科連携教授(表面物性)
森川 良忠 大阪大学大学院工学研究科教授(理論)
山田  亮 大阪大学大学院基礎工学研究科准教授(デバイス作製、計測)
横山 利彦 自然科学研究機構分子科学研究所教授(表面磁性)
吉澤 一成 九州大学先導物質化学研究所教授(量子化学)
渡邉  聡 東京大学大学院工学系研究科教授(物性理論)
魚崎 浩平 物質・材料研究機構国際ナノアーキトニクス拠点主任研究者(表面物理化学)
川合 真紀 理化学研究所理事(ナノ化学)
田中 一義 京都大学大学院工学研究科教授(量子化学)
塚田  捷 東北大学原子分子材料科学高等研究機構教授(物性理論)
藤平 正道 東京工業大学大学院総合理工学研究科教授(ナノ化学)
2011年度
研究活動予定
① 研究会開催予定:
第1回 2011年6月中 いずれも高等研
第2回 2011年9月中
第3回 2011年12月中
② 話題提供予定者:7名

2011年度は、ロードマップの作成と Hub 組織の構築を目指す。

前者に関しては,2010年に調査を行っていない分野(熱電機能:2名、光機能:2名)に関して調査を行う。単一分子熱電素子、単一光子光源は、極めて萌芽的な分野である。

後者に関しては,NIMS や NICT、AISTより戦略担当者の方を招聘し討論を行う。3名。

外国からの招聘は考えていないが、国際会議等での来日する外国人と日程があえば話題提供をお願いする。

研究活動実績 2010年度:

第1回(6月)では、単一分子エレクトロニクスにおいて最も基本的で重要な課題である「電極と分子の接合」について集中的に討論を行った。数年前までは手探りの状態であったが、分子合成、ナノ計測技術、理論計算の進展により、分子エレクトロニクス構築のための界面設計指針が明確になっており、本プロジェクトの遂行に自信を深めた。

第2回(10月)では、単一分子エレクトロニクスの出口をイメージすることを目的とし、量子演算素子やノイズ利用演算素子に焦点をあて、分子の活用を検討した。従来の半導体エレクトロニクスを模倣する方向からの脱却が可能であるとの確信を得た。

第3回(2月)では、DNAを分子配列の鋳型として利用するナノテクノロジー技術について学ぶとともに、スピントロニクスにむけた分子設計技術および計測技術に関する討論を行った。

以上の3回の研究会活動を通して、分子エレクトロニクスの現状と問題点と出口に関するイメージ、ならびに利用可能な要素技術とその限界が明確となった。

研究会開催実績:
第1回 2010年6月25日~26日 (於:高等研)
第2回 2010年10月22日~23日 (於:高等研)
第3回 2011年2月25日~26日 (於:高等研)
話題提供者:7名
家  裕隆 大阪大学産業科学研究所准教授
遠藤 政幸 京都大学物質-細胞統合システム拠点准教授
葛西 誠也 北海道大学大学院情報科学研究科准教授
神吉 輝夫 大阪大学産業科学研究所助教
北川 勝浩 大阪大学大学院基礎工学研究科教授
多田 朋史 東京大学大学院工学系研究科助教
松下 未知雄 名古屋大学大学院理学研究科准教授
その他の参加者:3名
石田 敬雄 産業技術総合研究所ナノシステム研究部研究グループ長
多田 朋史 東京大学大学院工学研究科助教
中村 恒夫 産業技術総合研究所ナノシステム研究部主任研究員
研究成果報告書
の出版
2012年10月出版予定