ごあいさつ

 

国際高等研究所に集まる高度の知の出会いに触れながら、人類の未来に貢献する。

財団法人国際高等研究所 所長 尾池 和夫プロフィール
財団法人国際高等研究所 理事・所長 尾池 和夫

2009(平成21)年4月1日、財団法人国際高等研究所所長に就任しました。 2008年9月末までは国立大学の運営に従事し、教育と研究と社会貢献を仕事の合言葉にしておりましたが、この研究所に来て、研究に専念する場であるということの意味を、あらためて噛みしめております。

世界は今、イノベーション人材を求め、産業の競争は国際化し、資源、エネルギー、地球環境、持続可能な社会の実現というような地球規模の人類の共通課題を持つ時代にあります。その中でこの研究所に求められるものは何なのかという大きな問いを持って、身に余る大役と心得えつつ就任しました。私の専門分野は地球科学の分野ですが、上に述べた人類の共通課題の基盤は地球あるいは宇宙という人類の住む場であります。そのことを意識して、2009年4月から新しく「天地人-三才の世界」と題する研究プロジェクトを代表者となって立ち上げました。これは自らの実践を通じて国際高等研究所の役割を充実させいくヒントを得ることを狙っているものでもあります。

国際高等研究所は基礎研究を行う場所ですが、どのような基礎研究を中心とするかを私は考えてきました。 吉川弘之*さんは、基本法則、基本原理を発見しても、それだけではすぐには製品化に結びつかないような従来型の基礎研究を「第1種基礎研究」と呼び、そのような研究と製品開発の間に、製品化につながるための多様な知識の集積、合成をシステマティックに行う研究を「第2種基礎研究」と呼ぶことを提唱されました。これは「応用研究」とか「目的基礎研究」と呼ばれてきた分野の見方を変えたものと言えるかもしれません。ともあれ、問題解決型の研究活動をも基礎研究と捉えるべきだという吉川さんの主張が、たいへん現代に合ったものであると私は思っています。

このような考えを基本にすると、国際高等研究所で行う研究の姿が見えてくると思います。 第1種基礎研究にしても、第2種基礎研究にしても、近未来の人類のためにどのような課題を設定して研究を進めるべきかということを考えている必要があります。新しい研究課題を設定するまでの過程の中に、世代を超越し、既存の研究分野を越えて、自由な発想にもとづく活発な議論の中から大きな飛躍が生まれる時があり、その時を意識して創り出す仕組みが必要です。それを吉川さんに見習って私は仮に「第0種基礎研究」と呼んでみようと思います。

研究の場には、大学のように教育、研究、社会貢献を総合的に進める場や、国策によって目的を置いて研究を行う国立の研究所、製品を生み出すという目的を持つ企業の研究所などがあります。これらの場で行う研究の課題の新しい芽を生み出すのが、まさに国際高等研究所に与えられた使命であると思います。このように考えると、設立のときに描かれた「何を研究するかを研究する」という表現の意味が、私なりに「第0種基礎研究」という呼び方で理解できるように思います。このような研究活動を行う人材を広く求めることも今後意識的に実行しなければと思っています。

また、新しい課題を生み出すとしても、その議論の蓄積や、議論の中から得られた学問分野相互の理解や知の共有の成果が、多くの人びとに見えなければ、貴重な宝が生きてこないということもあるでしょう。国際高等研究所の中で行われている研究を市民に見えるように、広報の機能を充実するということも、現代の世界の要請であり、それも私に与えられた役割であると思っています。

先人たちの積み上げてきた知の蓄積に含まれる深い意味がわかるまでには、それ相当の経験と時間が必要だと思いますが、国際高等研究所に集まる高度の知の出会いに触れながら、人類の未来に貢献していきたいという思いを強くしています。

従来にもまして、皆さま方の強力なご支援とご協力をお願いして、就任のご挨拶といたします。

2009年6月16日
高等研ニュースレター66号
(2009年6月発行より)

*吉川弘之氏:(独)産業技術総合研究所 最高顧問
元 東京大学総長