プロジェクトの概要

 

研究プロジェクト

近代精神と古典解釈:伝統の崩壊と再創造

実施期間 2008~2010年度(第2年次)
研究代表者 手島 勲矢 国際高等研究所企画委員/同志社大学大学院神学研究科教授
研究目的要旨

19世紀から20世紀にかけて、ヘブライ語聖書とホメロスの伝統的な著作理解は「科学的」批判の下に大きく変容し、それにより、それぞれテキストの統一性は否定されるようになるが、その近代の古代テキスト批判(モーセ五書の資料説とホメロス問題)には共通したある種の思考的傾向があるとU. Cassutoは指摘する。当該プロジェクトは、したがって、近代精神が古典研究に及ぼした影響の特質を考察するべく、ホメロス研究また旧約研究において「伝統」がどのように変化し崩壊していったか、1)テキスト、2)言語、3)文脈、において検証し、その近代精神の傾向性を質しながら、古典研究における「科学」と「伝統」の新たな関係構築に努めたい。

研究目的

近代精神と古典解釈の相互関係を再考する分野横断プロジェクト。地球規模の環境危機が論じられる私たちの時代(21世紀)、「科学」の概念を客観的に捉えなおすことは、これまでになく切迫した課題となっている。また技術の急速な発達が文明間の距離を急激に縮めつつある反面、近代の世俗的精神を形づくった欧米諸国やそれを受け入れた地域と、今も宗教的伝統を諸価値の核とする文明圏との間には、かえって思想の疎通をめぐる困難が深まっている。当該研究は、新時代の文明コミュニケーションとしての古典学の創造を念頭に置きつつ、近代革命期の古典解釈に生じた本質的かつ急激な変化を総合的に理解し、その含意を言語化することにより、欧米近代の知をその最も深い背景から多視点的に反省・評価しようとする人文学の基礎的プロジェクトである。欧米近代の知的変革に迫るひとつの場として古典解釈を取りあげるにあたって、とりわけホメロスおよび旧約聖書研究に生じたテクストへの近接態度の決定的変化はきわめて重要である。これらのテクストの成立過程の説明をめぐっては、19世紀に「科学」的な研究方法が提案され、それまでの伝統的な認識を根底から覆す様々な仮説と知見とが生み出された。しかし今日、20世紀後半に拓かれた新たな資料と新たな研究パースペクティブ(History of Interpretation)によって、「人文科学」の前提の再検証が始まりつつある。こうした進行中の反省は、聖書文献学を例に説明するなら、キリスト教文明による研究視座の占有が相対化されたことに与る点が大きいのだが、この変化により、聖書研究においては、「伝統」に対する「合理/非合理」という科学的判断が、ときにパラドキシカルで、ときにパロキアルなものでもあることが認識され始めている。当該研究は、「科学Wissenschaft」という概念に代表される欧米の古典(古代)研究革命の特質を、文献学的・考古学的・哲学的・社会学的・宗教学的・科学/文明史的に検証することにより、古典解釈という鏡面に映った近代(科学)精神の反射像から、その歴史的実像を見定めようとする人文科学のための努力である。同時に、この努力は、時代の要請に応える新しい古典研究/教育のあり方を模索するものであり、自然科学との対話的連携の枠組み作りを意識しながら、長期的には近代科学の特異性を深く理解するがゆえに今日のイノベーションに最もよく適応しうる知的精神の涵養と、人間的未来の展望に資する古典学の再構築を目指す。

前年度の研究の概要

古典研究と近代の関係性の見直しの意義と必要性を考えるための第一回研究会おいて、久保正彰氏より17世紀の古典学者ヤコブス・ホイエルの先駆的本文批評の問題意識と彼の時代の空気(スピノザ他)との関連性の可能性をお聞きした。また池田裕氏の聖書学と自然(植物)の視点を結びつけることで異文化に属する人々も聖書を遺産として抱える当事者(欧米)に対して対等な発言の立場を得るという発想をお聞きした。第二回研究会では、ロフェ氏のカスート氏の業績に対する極めて俯瞰的にして詳細な評価を学ぶことができた。またティゲイ氏の経験重視のアプローチによって行われたギルガメッシュ編集の研究から、アプリオリとしてではない資料仮説のあり方が提示された。両者の発表は最終報告書に掲載予定である。第三回研究会では、京大に滞在中のケアンズ氏を招待し、アガメムノン王イメージの近代的解釈の思い込みとテキスト細部の相違についてお聞きした。いずれの研究会でも活発な意見交換がなされ、その中で、西洋古典研究と聖書研究の意外な結びつきと同時に、両分野の重要な研究背景の違いなどが明らかにされた。

キーワード ヘブライ語聖書、ホメロス問題、高等批評、近代精神
研究計画・方法

2009年度は、古典言語の理解と近代主義の関係を考えることを一つの主眼に置く。その点で、時代の哲学的知見と古典解釈の相互関係を切り口に、ホメロス・テキストの近代的受容について、また古典ユダヤ教資料に表れるヘブライ語文法理解の状況について、また時代精神が及ぼす言語理解への影響の事例(ストア派)などから、近代と古典研究の関係を考えていく予定。

研究会開催予定

2009年4月17日 (金)-18(土)にMalcolm Davies (Dr.), Fellow and Tutor in Classics at St. John's College, University of Oxfordを迎えてワークショップ開催予定。

村岡崇光氏とのワークショップは、2009年10月下旬(20-24日?)に開催する予定。

参加研究者 15名
手島 勲矢 国際高等研究所企画委員/同志社大学大学院神学研究科教授
安西  眞 北海道大学大学院文学研究科教授
池田  潤 筑波大学大学院人文社会科学研究科准教授
池田  裕 筑波大学名誉教授
伊藤 玄吾 同志社大学言語文化教育研究センター助教
内田 次信 大阪大学大学院文学研究科教授
石川  立 同志社大学大学院神学研究科教授
佐野 好則 国際基督教大学教養学部上級准教授
新免  貢 宮城学院女子大学学芸学部教授
竹内  裕 熊本大学文学部准教授
西村 賀子 和歌山県立医科大学保健看護学部教授
広川 直幸 京都大学文学部非常勤講師
安村 典子 金沢大学文学部・大学院人間社会環境学研究科教授
山田 重郎 筑波大学大学院人文社会科学研究科教授
渡辺 浩司 大阪大学大学院文学研究科助教
話題提供者
Malcolm Davies (Dr.) Fellow and Tutor in Classics at St. John's College, University of Oxford
村岡 崇光 ライデン大学名誉教授
神崎  繁 専修大学文学部教授
他1名海外より西洋古典研究者(Bob Fowler氏を含む複数と交渉中)
研究成果報告書 研究成果報告書は2012年3月出版予定