プロジェクトの概要

 

研究プロジェクト

細胞履歴に基づく植物の形態形成

実施期間 2007~2009年度(第3年次)
研究代表者 鎌田  博 国際高等研究所企画委員/筑波大学大学院生命環境科学研究科教授
研究目的

高等生物における形態形成においては、個々の細胞がそれまでに辿ってきた発生過程(履歴)や細胞同士の位置情報が極めて重要であることが明らかにされており、このような情報をここでは細胞履歴と呼ぶこととする。細胞壁で囲まれた状態で煉瓦積みのような形式で形態形成を行う高等植物では、細胞履歴は極めて重要な因子と考えられているものの、細胞履歴に基づいてどのような機構を介して形態形成を引き起こすかについてはほとんど解明されていない。


例えば、受精を経ずに体細胞から直接胚が発生する不定胚形成では、発生途中の未熟種子胚では簡単な外部刺激で不定胚発生が誘起されるが、種子発芽した後、栄養成長期へと移行するにつれて葉や根等からの不定胚形成誘起は徐々に困難になる事例が多い。また、栄養成長期にある植物体であっても頂芽からは容易に不定胚が誘起されるものの、根では不定胚形成は容易ではない。さらに、頂端分裂組織における細胞の位置情報によって葉序(互いの葉が着く位置関係)が決定されることもよく知られている。しかし、実際に細胞履歴をどのような形で情報として(細胞内に)蓄えているか、その細胞履歴がどのような仕組で形態形成を決定するのか、また、位置情報を決定する機構や隣接あるいは近隣の細胞間での位置情報に基づく情報の伝達を担う実体分子についてはほとんど明らかにされておらず、この点の解明が植物の形態形成機構の本質を理解する上で最も重要な課題となっている。実際、最近ではこの点に焦点を当てた先駆的な研究の成果が徐々に報告され始めた。そこで、本プロジェクトでは、このような分野で先駆的な研究をしている研究者を班員とし、植物・動物を問わず、関連する研究を実施している研究者を演者として招へいし、最新の研究成果や先駆的な考え方について話題を提供していただき、参加者全員で議論し、関連分野の研究の今後の飛躍的な発展、特に植物形態形成を理解するための新しい考え方や概念の構築を目指す。

前年度までの研究の概要

細胞履歴の解析において、DNAやヒストン等のメチル化・アセチル化等を介したグローバルな遺伝子発現制御(クロマチンリモデリング機構を含む広義の意味でのエピジェネティクス)やタンパク質間相互作用やタンパク質—RNA相互作用による細胞・組織・器官分化決定機構の解明が進んでおり、細胞履歴を担う重要な機構と考えられるようになってきた。本プロジェクトの第2年目においては、第1年目の討議を踏まえ、動物および植物におけるこのような制御機構について、以下のように、先端研究の成果に基づく討議が行われた。


マウスにおける体節形成においては、胎仔形成期に、約2時間の周期で体節が作られ、その過程では、タンパク質を主とする複数の主要な因子間の相互作用によって、前後軸に沿って、segmentation、re-segmentation、cell fusionが一定の場所で続いて起こる。この現象では、mRNAおよびタンパク質の不安定性に基づく機能タンパク質の存在部位・存在量が重要であり、また、その存在量が部位によって波のように変動することで周期性が生み出されているモデル(wave-front model)が説明された。一方、植物(シロイヌナズナ)の側根形成では、主要因子のタンパク質としての不安定性(分解性)に基づくタンパク質間相互作用の変化が生理機能発現に重要であることが示され、タンパク質の不安定性に基づくこの機構の動物との類似性が認められた。さらに、この側根形成では、このような特定因子間相互作用ばかりでなく、グローバルな遺伝子発現制御機構であるクロマチンリモデリング因子を介した制御機構がタンパク質間相互作用とは別に機能することも説明された。ところで、動物における動植物極、前後軸、背腹軸、左右軸等の軸決定機構についても最新の成果が報告され、卵形成時の母体との接着や卵形成時に取り込まれた母性因子の片寄りがその後の軸決定に重要な役割を持っていること、この分布の片寄りがさらに別な因子の片寄りを引き起こし、こうした連続的な片寄りの維持が発生過程の中で一定の発生パターンを生み出していくことが示された。植物では、動物とは異なる因子によって軸決定が行われているが、植物と動物における軸決定機構の類似性が議論された。一方、同一遺伝子座間の相互作用に基づくDNAのメチル化修飾による遺伝子発現制御機構や時期・部位特異的なゲノム全体に渡るダイナミックなDNAメチル化変動について、アブラナ科植物に見られる自家不和合性における事例が紹介され、優劣性のある非翻訳型低分子RNAによって特定部位のDNAメチル化が誘起される機構が示された。また、この機構は広い意味でのエピジェネテックな機構であり、部位・時期特異的に引き起こされることから、細胞履歴としての1つの機構と考えられる。このような議論を通じて、細胞履歴の概念形成における重要な示唆が得られた。

キーワード 植物形態形成、発生過程、細胞位置情報、エピジェネティクス、細胞履歴
研究計画・方法

年に4回、細胞履歴に関連する動物・植物の最新の研究成果および概念について討論するための研究会を高等研で開催する。研究会においては、班員、アドバイザーに加え、毎回、適宜適切な話題提供者を1〜2名招へいし、プロジェクトに関連する話題を提供していただき、参加者全員で議論する。また、2009年度が最終年度となるため、3年間の活動成果(討議内容や今後の研究の方向性等)をまとめるための方策について討議し、報告書作成の準備を進める。

研究会開催予定 年4回を予定
第1回:2009年 6月
第2回:2009年 9月
第3回:2009年 11月
第4回:2010年 2月
参加研究者 14名(予定)(*アドバイザー)
鎌田  博 国際高等研究所企画委員/筑波大学大学院生命環境科学研究科教授
岡田 清孝 自然科学研究機構基礎生物学研究所長
岡田 益吉 筑波大学名誉教授
角谷 徹仁 情報・システム研究機構国立遺伝学研究所教授
小林  悟 自然科学研究機構基礎生物学研究所教授
佐々木裕之 情報・システム研究機構国立遺伝学研究所教授
佐藤 文彦 京都大学大学院生命科学研究科教授
田坂 昌生 奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科教授
塚谷 裕一 東京大学大学院理学系研究科教授
西田 宏記 大阪大学大学院理学研究科教授
長谷部光泰 自然科学研究機構基礎生物学研究所教授
原田  宏 国際高等研究所フェロー/バイオインダストリー協会会長/筑波大学名誉教授
福田 裕穂 東京大学大学院理学系研究科教授
古谷 将彦 奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科助教
話題提供者 毎回1~2名程度
阿部 訓也 理化学研究所バイオリソースセンター副センター長
芦刈 基行 名古屋大学生物分子応答研究センター准教授
町田 泰則 名古屋大学大学院理学研究科教授
今泉(安楽)温子 農業生物資源研究所研究員
研究成果報告書 2010年11月出版予定(出版形態は2009年度に決定)