

新しい年を迎えて、国際高等研究所ニュースレターを通じて、ご挨拶申し上げます。
金森前所長のもと、基礎研究を行う研究所としての在り方が確立された財団法人国際高等研究所を基本的にしっかりと継承しながら、2009年4月に所長に就任して以来、志村学術参与、田中副所長、川北副所長とともに、新体制としての議論を重ね、研究所の運営方針や研究所で実施する新しい研究プロジェクトなどの検討を進めてきました。
財団法人国際高等研究所は、学術のさまざまの分野で人類の財産として長い間に蓄積されてきた知をもとに、さらなる学術の芽を見つけ、それを育てるということを特長としています。その目的を実現するために、異分野の研究者間の交流を基本の形とし、研究者の議論の積み重ねによって、近未来の研究課題とすべき学術の課題を見つける努力を中断することなく着実に続けています。
このような研究は、基礎研究のさらに基礎研究ということができ、私はそれを第0種基礎研究と呼ぶことにしています。このような研究は、既存の課題や、国の政策課題を中心とする研究所などで行われる基礎研究や応用研究とは異なり、また、学会で行われる特定の分野の中での議論とも異なるものです。さまざまの場所から、さまざまのタイプの研究者が、所属学会や所属機関の枠を超えて、あるいは世代を超えて、自由に参加することが必要で、大学や国立研究所、あるいは企業の研究所などでは実現の困難な面をもっています。
このような、学術の芽を見つけ、それを育てるという国際高等研究所は、他に類を見ない機能を持つ研究所であり、その成果はたちまち目に見えるというような性格のものではありませんが、国のどこかで継続していなければならないものです。もし中断すると、基礎研究の芽が残っている間には、影響がすぐには見えませんが、やがて5年もするとその影響が現れてきて、以後の数十年にわたって国の基本的な発展を遅らせてしまうことになるのは確実です。学術の芽を見つけて育てる研究が続けられていれば、つねにそこから次の基礎研究の具体的な課題が生み出されて、国際高等研究所での議論に参加した研究者の一人ひとりを通じて、さまざまの場所で研究の発展を支えているということになります。それらがやがて新しい物質を生み出し、新しい原理の発見につながり、日本のみならず世界の人類の福祉のために役立つ成果をもたらせます。
新しい年を迎えた機会に、他の研究所には見られない国際高等研究所のこのような役割をしっかりと認識し、その活動を一時でも中断することなく、近未来の人類の発展に対して連続的に学術の芽を育てて供給し続ける目的を果たすよう、決意を新たにするものであります。
さて、2010年は具体的にはどのような年であろうかと、この原稿を書きながら考えています。
天文の分野では、元日早々に部分月食が見られる年です。 食分8.2%で、欠け始めは03h52m、04h23m にピークとなり、04h54m に終わると予測されています。
SFの世界では、『2010年宇宙の旅』(2010: Odyssey Two)が知られています。アーサー・C・クラークが1982年1月に出した小説で、『2001年宇宙の旅』(原題 2001: A Space Odyssey)の続編にあたるものです。2010年を背景に宇宙船レオーノフで宇宙を突き進む米ソ3人の飛行士の姿が描かれています。
暦の上では、年内立春の見られる年です。旧暦で、年が明けるよりも先に立春が来るという現象で、2010年の立春は旧暦12月21日です。『古今和歌集』の巻頭にある歌が有名です。

医薬の世界では、2010年前後に相次いで特許切れを迎えるということがあり、いっせいにジェネリックに置き換われば、大手製薬企業の収益が激減する可能性が大きいという、いわゆる「2010年問題」があります。他の業種に比べると、少ない品種で利益を得ている業界であるという特性からくる問題です。
ドラマでは「龍馬伝」が始まります。私は高知の出身で、龍馬は好きな人物の1 人です。坂本龍馬は、「世界の海援隊」を夢見た人物で、高知城下に郷士坂本家の次男として生まれました。龍馬は自由で合理的な町人気質の中で育ったといわれています。また、その親友、岩崎弥太郎は、土佐藩井ノ口村に生まれ、吉田東洋に入門を許され、維新後には一代で三菱財閥の基礎を築いた人物です。
東アジアでは、2010年上海万博が開催されます。5月1日から10月31日まで、上海市都心部、南浦大橋から盧浦大橋までの黄浦江両岸地区の面積328haでの催しで、200ヶ国、7000万人の参加を目標としています。「より良い都市、より良い生活」がテーマです。上海万博のロゴは、漢字の「世」に似て、万博の理念を表現しています。中華圏を中心として発展する経済活動が注目されます。
国際高等研究所で私が代表で行っている天文学、地文学、人文学の出会いである「天地人」プロジェクトに関係しますが、国連では2008年の「国際地球年」、2009年の「世界天文年」に続いて、2010年は「国際生物多様性年」とさだめられています。さらに、2011年は「国際森林年」でもあります。国際生物多様性年(The International Year of Biological Diversity) の焦点は、名古屋市で開催される生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)です。地球の生態系のための保全戦略を検討する機会となる行事です。
京都府では、2011年に開催される「国民文化祭」に向かって、今年はさまざまの準備が進められます。関西学術研究都市でも、京都府としていくつかの行事を行うことが検討されています。今、京都府ではこの2011年の国民文化祭の愛称を募集中です。マスコットキャラクターの「まゆまろくん」は、これからさまざまの場面に登場して活躍してくれることと思います。
皆さま方のご健康とご多幸を祈りつつ、さまざまのことを思い浮かべつつ、新しい年を迎えるにあたっての私のご挨拶といたします。今年もどうかよろしくご支援とご協力をお願い申し上げます。
高等研ニュースレター69号
(2010年1月発行より)
