

2009( 平成21)年4 月1 日から学術参与( 副所長待遇)に就任いたしました。ひょんなことで国際高等研究所に籍を置くことになりました。しかし、2010年3月末まで大学共同利用機関法人・自然科学研究機構の運営の仕事があるため、本研究所での本格的な活動は、4月以降になります。
私は遺伝子の分子生物学を専門にしておりましたが、その昔(1986年)、京都国際会議場で開催された国際高等研究所の第一回国際シンポジウム「遺伝子の発現」のオーガナイザーをやらせて頂いたのが、私の本研究所との最初の関わり合いでした。
尾池所長は、就任のご挨拶の中で、「第0種基礎研究」という言葉を述べておられます。この「第0種基礎研究」は、私が用いる「学術研究」という言葉に、限りなく近いのではないかと思います。近年、科学技術という言葉が横行しておりますが、これは元はと言えば「科学と技術」であった筈が、科学と技術の間の「と」が抜けて、当初は「科学・技術」となり、更にその「・」が取れて「科学技術」になったと思われます。現在、巷で使われる「科学技術」なる言葉は、英語でいえばScience-based Technology という意味の場合が多いと思います。因みにScience and Technology という英語はありますが、Science Technology という表現はありません。つまり、「科学技術」という言葉は純日本産であり、その主体は「技術」にあって、「科学」はそれを修飾する言葉になっているとも言えるのです。これまでに政府が出した「科学技術基本法」も、このような考え方が背景としてあるようです。
近年、科学技術の振興という国の政策に基づき、トップダウン的なプロジェクト研究が著しく増加されましたが、その内容は、簡単にいえば「問題解決型」の研究です。それに対して研究者のアイディアを基礎にして展開するボトムアップ的研究は、基本的には「問題発掘型」の研究が中心で、これが学術研究なのです。一般には「問題発掘型」の研究の中から新しい芽が出て、やがてそれが成長して「問題解決型」の研究のプロジェクトなり、大きく展開していくことが多いのです。従って、二つの型の研究がバランス良く存在することが大切だと思います。私が専門の分子生物学は、20世紀前半から半ばにかけて、遺伝学者等と物理学者が中心になって、遺伝子の謎を明らかにしようとしたことから始まりました。それは純粋に学問的な興味からであって、応用などを考えてのことではありませんでした。しかし、この遺伝子研究の結果は、現在、バイオ研究にとどまらず、医療・医学、薬学、農学、工学等、様々な分野に応用され、極めて有益な技術を提供しております。
また、最近のもう一つの傾向として、法人化後の国立大学等において、研究者は評価や研究費の獲得、加えて学内外の会議や集会等で、以前に比べて格段と忙しくなり、専門分野の問題しか考えることが出来なくなってきています。従って分野を超えるような広い視野に立って、新たな分野や問題を思考することや全く新しいアイディアに挑戦することが、殆ど不可能な状態になってきています。
このような我が国のアカデミアの現況において、国際高等研究所が今後の研究のキーワードを「学術研究の種を探す」としたのは、まさに時宜を得ていると思います。自然科学、人文科学、社会科学の枠を超えて、新しい学術の種を探すことのもつ意義は、計り知れないくらい大きいと信じています。そのような努力の積み重ねや試行錯誤の中から、我が国の将来の学術研究にとって、極めて大きな問題を提起するようなものが発掘され、ひいては新たな学術分野を創成することにも繋がっていくことになるかも知れません。いずれにせよ、そうすることによって、単に研究者のサロンというイメージを超えて、国際高等研究所のアイデンティティは明確になり、その存立の意義は国際的にも認知されていくでしょう。新しい学術を創成していくことこそが、次の世代へのかけがえのない遺産となることを確信しています。
高等研ニュースレター69号
(2010年1月発行より)
