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2012年度のプロジェクトの概要

 

研究プロジェクト

老いを考える

研究代表者 松林 公蔵  京都大学東南アジア研究所・教授
研究目的要旨

我が国では、75歳以上の後期高齢者人口は今後20年間に倍増(1千万人増)し、65-74歳の前期高齢者人口を数においてはるかにうわまわる。近年、老化に関する分子遺伝学的研究は急速に進んでいる。一方、臨床老年医学の領域では、高齢者の慢性疾患の増加によって、Diseaseの治療だけでなく、Diseaseが結果としてもたらすDisabilityの予防・介護に重点が移ってきた。申請者たちは、臨床老年医学、認知症学、分子遺伝学、老年心理・社会学、進化学など、それぞれ老化に関する個別Disciplineの学問研究を推進しつつも、これらを統合し止揚する観点が重要であるとの認識から、本研究では、「老い」に関する領域横断的な新たな学問パラダイムの構築をめざす。

研究目的 ① 背景:

我が国では、75歳以上の後期高齢者人口は今後20年間に倍増(1千万人増)し、65-74歳の前期高齢者人口を数においてはるかにうわまわる。従来、日本の人口構成は、子ども4人に対して高齢者1人の割合で推移してきたが、2055年には、高齢者5人に対して子ども1人とその割合が逆転する。少子高齢化は日本において特段に顕著ではあるが、人口の高齢化はアジアでも急速に、アフリカでも緩やかに進行しているグローバルな現象である。
 近年、老化に関する分子遺伝学的研究は急速に進んでいる。線虫や哺乳類を用いて老化に関与する遺伝子が同定され、また染色体末端の構造変化等の事象も観察されている。基礎生物老化の研究領域では、抗老化という概念さえ生まれ、老化をコントロールしようとする研究も盛んである。
 一方、臨床老年医学の領域では、高齢者では急性疾患のみならず、認知症や骨粗鬆症、脳血管障害などの慢性疾患の増加によって、Diseaseの治療だけでなく、Diseaseが結果としてもたらすDisabilityの予防・介護に重点が移ってきた。
 このような現実が、世界中で進行してゆくのが21世紀である。  申請者たちは、臨床老年医学、認知症学、分子遺伝学、老年心理・社会学、進化学など、それぞれ老化に関する個別の学問研究を推進しつつも、これらを統合し止揚する観点が重要であるとの認識にいたっている。

② 必要性:

生命進化のうえでの基本原理は、「繁殖するのに十分なほど長く生きる」ことにあった。しかし、21世紀の人類は、「繁殖後にも十分長く生きる」という、生命進化のプリンシプルでは解けない課題に遭遇している。「老い」の問題には、単にその生物学的機構の解明だけでは済まされない多くの問題が包含されている。そこで問題になるのは、もはやガン・脳卒中、心臓病といった疾病の発症解明や延命の科学だけではない。加齢にともなって不可避な老人性認知症といかに向き合うか、要介護者をいかに遇するかといった課題が老年医学に課せられている。さらにもっと深刻なことは、高齢社会が、全体としてどのように生き延びていくかという社会システムの構築の問題でもある。私たちは、20世紀後半になって、農業革命以降最大規模の人口革命、人類史上初の寿命革命の渦中にいる。高齢者が、生の終わるその最後の瞬間まで、豊かな生きがいと従容とした自得をもって生き、そして尊厳をもって安らかな最期を迎える、という事態は、すぐれて個人的問題ではあるのと同時に、そういった社会の枠組みを、進化の産物である私たちの「脳—叡智」がはたしてつくりだせるか否かにかかっている。
 そのためには、要素還元的な単一Disciplineの研究では不十分と思われ、分野融合的な新たな学問パラダイムの構築が喫緊の課題として要請されている。

③ 方針:

私たち人類の「脳—文化的遺伝子」は、それまでの歴史上のあまたの課題よりもさらに深刻な多くの生存基盤にかかわる課題と対峙せねばならなくなっている。21世紀、地球社会の生存基盤を考えるにあたっては、エネルギーや地球環境の問題と同時に、今後進展してゆく高齢社会をどのように構築するかという課題がそれである。本プロジェクトにおいては、「老い」の問題を、老年医学、認知症学、分子遺伝学、老年心理・社会学、進化学等の諸分野の研究者が、多面的に科学する議論・考究を通して、日本発の「老いの科学」という領域横断的な新たな学問パラダイムを創成することを目的としている。

キーワード 高齢社会、老化、疾病、進化
参加研究者リスト
16名
松林 公蔵 京都大学東南アジア研究所教授(老年フィールド医学)
秋山 弘子 東京大学高齢社会総合研究機構教授(社会心理学)
井口 昭久 愛知淑徳大学教授(老年医学)
大塚 邦明 東京女子医科大学東医療センター教授(時間医学)
奥宮 清人 総合地球環境学研究所准教授(フィールド医学)
小澤 利男 東京都健康長寿医療センター名誉院長(老年医学)
坂本 龍太 京都大学白眉センター・東南アジア研究所特定助教(フィールド医学)
佐倉  統 東京大学大学院情報学環教授(進化生物学)
佐々木英忠 仙台富沢病院顧問(老年医学)
瀬戸 嗣郎 静岡県立子ども病院院長(小児科学)
出水  明 出水クリニック院長(在宅終末期医療)
藤澤 道子 京都大学野生動物研究センター助教(老年医学)
藤本 直規 藤本クリニック院長(老年精神医学)
松田  実 滋賀県立成人病センター老年内科部長(神経心理学)
米原  伸 京都大学生命科学研究科教授(分子遺伝学)
和田 泰三 京都大学東南アジア研究所特任准教授(終末期医療学)
2012年度
研究活動予定
① 研究会開催予定:
2泊3日の研究会を2012年度に2回開催予定(国際高等研)。
② 話題提供予定者:3名(2012年度)
第1回は、外部招へい話題提供はなしとする。
第2回は、3名を予定する。