プロジェクトの概要
研究プロジェクト | 受容から創造性へ |
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実施期間 | 2009~2011年度(第3年次) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
研究代表者 | ジュリー・ブロック 京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科教授 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
研究目的要旨 | 近現代日本文学の作家たちは直接間接を問わず外国文学をまず受容することによってその仕事を開始した。とくにフランス文学の影響がこの点において顕著である。しかし日本文学が自立するためにはそこに独自の創造性を生み出さねばならなかった。この「日本的創造性」とは何か、本研究の目的はそのことを個々の作家に即して検討することにある。 |
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研究目的 | ① 背景:
日本では、スタンダールが幾度かに渡り顕著に流行した時期がある。最近もまた『赤と黒』(野崎歓訳)により新たな流行の波が起きている。一方、スタンダールに深く傾倒していた大岡昇平は、2008年3月に『ながい旅』(1982)が映画化され (『明日への遺言』小泉堯史監督)、同年4月には『俘虜記』(1948)はフランス語で翻訳出版されたばかりである(Journal d'un prisonnier de guerre, trad. François Compoint, Paris, Belin)。私たちはこのような社会現象から受容・創造理論をあらたに立ち上げることを狙っている。 ② 必要性:本研究は、フランス文学、とくにスタンダールの受容に影響された作家大岡昇平を取り上げる。その理由は、大岡がスタンダールの翻訳者、紹介者、研究者、すなわち「受容者」であっただけではなく、同時に偉大な小説家として活動していた点にある。その点で大岡は、受容と創造の関係性を比較文学的に解明するための大きなモデルとなる。 日本の作家たちは海外からの影響を受けながらも、そこに「日本的創造性」と呼べるものを生み出している。それは具体的に何であるのか。こうした問題は、本プロジェクトのなかで文学の受容–創造理論立ち上げることによって解明されるだろう。 ③ 方針:小説における創造性とはなにか。この問いに答えるために本研究会はマルク=マチュー・ミンシュの「生きているという感覚」(Marc Mathieu Münch, L’Effet de vie ou Le singulier de l’art littéraire, Paris, Honoré Champion, 2004)の概念を借りる。フランス語でこれは「エフェ・ド・ヴィ」といわれているものであり、文学によって呼び起こされる気持ちや感覚の高揚を扱うための、これまでにない斬新な理論である(この高揚こそがエフェ・ド・ヴィであり、ミンチュによれば、時代や地域を問わずあらゆる文学作品の基礎となるものである)。そうした効果を生む表現は、作家が影響を受けた西洋の作品にも見られるとともに、何らかのかたちで、彼が自ら創作する日本語作品のなかにもあらわれる。その合致点を読み解きながら表現手法や方法論について探求し、新しい学術研究の芽を見つけ出すことを願っている。 |
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キーワード | スタンダール受容、影響、創造性、真の生命感、大岡昇平、近現代日本文学、比較文学 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
参加研究者リスト16名 |
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2011年度 研究活動予定 |
① 研究会開催予定: 第6回研究会「作家、評論家、編集者、出版社の視点」
第6回研究会
第7回研究会
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研究活動実績 | 2009年度:
2009年度は、三回の研究会を開催し、まずはじめの二回は日本でのスタンダール受容の分析に充てられた。第一回目の会では、世界におけるスタンダール受容について概観し、スタンダールの影響性を確かめた後、日本におけるスタンダール受容について概観しながら、多角的に議論を進めた。そのなかで、方法論上の問題として、マルク・マチュー・ミュンチュが言う「生の作用」理論を軸に据えることを提案した。第二回目のケース・スタディーにおいてはこの理論の応用が目指された。第三回目の研究会は大岡昇平を主たるテーマとして行われた。各回とも、様々な専門領域の優れた研究者たちが読書という現象に充てた文学研究の方法を提示している。研究会は全て日本語とフランス語で行われてきた。第三回研究会では、元NHKプロデューサーのドキュメンタリー作家を招き、彼が制作した大岡昇平に関するドキュメンタリーの抜粋を上映した。上映後のディスカッションにおいて、「エフェ・ド・ヴィ」が映像作品においても働くことを確認できた。すでにピーター・ラング出版社とのあいだでフランス語版の議事録の出版交渉が進められている。同じく日本語版の議事録出版のために、フランス国際交流基金に補助金を申請した。 研究会開催実績:第1回: 2009年 5月29日(金)~30日(土)(於:高等研) 第2回: 2009年 11月13日(金)~14日(土)(於:高等研) 第3回: 2010年 3月5日(金)~3月6日(土)(於:高等研) 話題提供者:8名
2010年度は二回の研究会を開催した。まずはじめの研究会では、大岡昇平、上田敏、バルザック、ドストエフスキーの翻訳において「生の作用」がいかに働いているかをみた。続く会では、「翻訳者の視点から」と題し、大岡昇平のフランス語訳、またシャトーブリアンとスタンダールの日本語訳、スタンダールのドイツ語訳に考察の目を向けた。この二回の会は「生の作用」の現象が具体的作品、翻訳のなかにいかに現れているかを問うたものである。こうした作業により、本研究の主軸となる理論である「生の作用」のはたらきが実践的な文学研究をなす中で確認され、よって日本文学研究においてマルク=マチュー・ミュンシュの理論が実証され、かつ補強されたといえる。「受容から創造性へ」という本プロジェクトの骨子は固まったといえよう。コアメンバー、話題提供者に加え、何人かの翻訳者たちの参加を得たことも収穫である。イブ=マリー・アリュー(中原中也のフランス語訳)、ブリジット・アリュー(小林一茶のフランス語訳)、コリーヌ・アトラン(村上春樹ほか多くの日本現代文学のフランス語訳)など、すべて小西財団翻訳部門の最優秀賞の受賞者たちである。こうした多彩参加者の間で、本プロジェクトはこれまで通り日仏両言語にて議論を深めてきた。 補足しておけば、本研究は内容面の水準を保ちつつ、出来うる限り経費を削減するよう務めてきた。フランスから話題提供者を招聘する際、フランス大使館と協力(マルク=マチュー・ミュンシュの場合)しプロジェクトからの出費を渡航費の面で半額に抑え、また日本在住のコアメンバーの三名が私費参加による協力を受諾、さらに外部からの研究会参加者にも私費での参加を要請するなど、高等研からの負担額を可能な限り抑えるべく務めている。 研究会開催実績:
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研究成果報告書 の出版 |
『日本近現代小説における真の生命感—影響と創造性をめぐって』(仮題)2巻 (可能ならフランス語で更に1巻) 2011年度末出版予定 |