| 研究プロジェクト |
心の起源 |
| 研究代表者 |
松沢 哲郎 国際高等研究所学術参与/京都大学霊長類研究所教授 |
| 研究目的要旨 |
本研究の目的は、日本から発するオリジナルな「心の起源」の先端研究である。日本語の「心 kokoro」という概念は、欧米でいうmind、emotion、intelligence、heart、psychological、will、intention、consciousness等を、すべて含んでいる。本研究においては、「心」や「人」といった1文字に集約される日本人が無意識にもっている全体観、対象に対する全体的アプローチをたいせつにする。心を担う器官が脳だということは自明である。しかし、欧米が主導してこれまでおこなわれてきた要素還元的アプローチの対極として、新しい心と脳の研究につながる萌芽を育てる必要があるだろう。それが心の働きを社会や文化や生態環境や進化といった視野から捉える全体的アプローチである。さらに、現代社会が直面する課題としての発達障害のように、現実に立脚した課題を視野に入れた基礎科学研究を推進する必要がある。そうした研究萌芽の創出に応える「心の起源」の先端研究を推進することを目的とする。
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| 研究目的 |
本研究の目的は、日本から発するオリジナルな「心の起源」の先端研究である。日本語の「心 kokoro」という概念は、欧米でいうmind、emotion、intelligence、heart、psychological、will、intention、consciousness等を、すべて含んでいる。本研究においては、このような欧米の要素還元的に細かく分析するアプローチではなく、より大きな枠組みの中で人間の心の働きおよびその基盤である脳の機能を研究しようとするものである。心を担う器官が脳だということは自明である。また脳を含む身体の物質的基盤がゲノムすなわち全遺伝情報にあることも論を待たない。心の働きを脳機能に還元し、脳機能を神経細胞活動と神経伝達物質に還元し、それをまた遺伝的基盤としてのゲノムに還元するのがひとつの理解の方法だ。すなわち欧米でさかんな要素還元的アプローチである。それに対して、より大きなシステムの中で心の働きを理解することも重要だろう。人と人のあいだに成り立つ心の働きや、社会のなかでの心の働き、さらに生態環境から来る心の働きの制約に目を向けることも重要だ。この全体的ないし反還元的なアプローチは、日本から世界に向けて発信してきた霊長類学という学問の成果でもある。「心も進化の産物である」という視点から、人間の心の進化的起源を問う研究だといえる。全体構想の特徴は、心のまるごと全体を対象とし、全体的アプローチを採ることである。そこで、霊長類、脳、ゲノム、社会といった4つのキイワードを掲げて、異なるレベルでの独創的な研究を同時並行的に推進しつつ、相互討論と共同研究を通じて止揚する。
本研究を実施すべきとの着想に至った経緯として、わが国におけるこれまでの研究、他国でおこなわれている研究への反省がある。従来の心や脳の研究とくに欧米主導の研究に何が欠けているか。今後の研究に必須な日本独自の科学貢献は何かを考えた。その結果、脳を包みこむ身体全体、それを包み込む2人の間に成り立つ関係、さらにそれを包む社会や文化、その基盤である生態環境、そうした大きなシステムの中に心や脳の機能を位置付けて研究することがきわめて重要だという着想に到った。こうした全体的アプローチは、欧米にはない発想だ。しかし現在、欧米の脳研究者の中には、こうしたユニークな全体論の枠組みに多大な関心を寄せている人が少なくない。心の働きの包括的理解は、今後、学問として大きく発展していくことが予想される。
研究期間において何をどこまで明らかにしようとするのか、そのために採る方針について焦点を絞って説明する。具体的には、この問題を比較認知科学、神経科学、進化心理学、発達心理学、実験社会学、老年学、フィールド医学、認知ロボティクス、認知神経科学、比較ゲノム科学等の研究者や仏教哲学の専門家等が集まり、問題を深化・発展させる。そのなかで、オリジナリティの高い新たな学術の「芽」を生み出し、心の働きの包括的理解を目指した「心の起源」の先端研究を発展させる。具体的には、脳と心が不可分の一体だとして、その心が、①ひとつのまとまりとしてどう機能するか。②その脳と心の特徴として、より大きな系(人と人との間)の中で、どう機能するか。③さらにもっと大きな系、つまり社会や文化や生態環境のなかで、どう機能するか。④それがまた進化という歴史のなかでどう形作られてきたか、について明らかにする。
期待される研究成果としては、こうした心の全体的アプローチから、現実の社会が直面している課題への対処、「心の健康」「健やかな心とは何か」という素朴で切実な問いに対する答えが見つかるだろう。生物学的に妥当な指針の提言である。基礎科学としての心や脳の科学研究も、その研究目的を対社会的に説明する責任がある。例えば子供の心の発達について、教育現場で七五三という表現がある。小学校で3割が落ちこぼれ、中学校で5割が落ちこぼれ、高校へ行くと7割が落ちこぼれるという意味だ。また「発達障害」という言葉で最近くくり出される問題も増大しているう。平成17年には発達障害者支援法も制定された。そこでは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥・多動性障害などの発達障害を持つ者の援助等について定められている。これらの障害に至るメカニズムがわかったとして、その先に、どう対処するのかという視点が用意されていなければならない。教育のあり方や社会制度の設計までも視野に入れる必要がある。すなわち、これが「日々の暮らしの中から発する基礎科学」という視点である。従来の脳科学の範疇を越えて、心の科学的研究は、人間の心のまるごと全体を理解するとともに、 現実の暮らしの中から発想するような基礎科学というものを目指す必要があるだろう。そのためにも、「アウトグループの発想」ないし「問題をより大きな文脈の中で捉える」という視点が有効だと考えている。
高等研カンファレンスの開催に関連する補足
国際高等研究所は、当面は毎年1回、1テーマに関する国際シンポジウムを開催する。このテーマは、研究企画会議によって立案・選定され、分野を超えた視野に立って、広い領域から選ばれることを原則とする。国際的にも一流の研究者に参加してもらうものである。第1回のカンファレンスは、「意識は分子生物学でどこまで解明できるか:神経科学の最前線」について、平成23年12月に開催した。第2回のカンファレンスは、「心の進化的起源」について、平成24年度に開催を計画している。この二つのカンファレンスは、極めて密接に関連した問題を扱うものである。すなわち、前者は還元的なアプローチで意識の問題に迫ろうとするのに対して、後者は非還元的なアプローチで心や脳の問題に迫ろうとしている。初回のカンファレンス「意識は分子生物学でどこまで解明できるか」においては、後半、次第に問題を高次な脳機能に展開させていき、第2回の「心の進化的起源」へと繋げるようにすることを考えて実施された。現時点で、最初から両者を一緒に議論させるのは、おそらく混乱を招く恐れもあるので、当初は二つに分けて行い、やがて両方の研究者が一同に会して議論するような第3の国際カンファレンスが開催されるようにする予定である。
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| キーワード |
心、進化、全体的アプローチ |
参加研究者リスト 25名 |
| 松沢 哲郎 |
京都大学霊長類研究所教授 |
| 浅田 稔 |
大阪大学大学院工学研究科教授 |
| 足立 幾磨 |
京都大学霊長類研究所国際共同先端研究センター助教 |
| 伊佐 正 |
自然科学研究機構生理学研究所教授 |
| 石黒 浩 |
大阪大学大学院基礎工学研究科教授 |
| 入来 篤史 |
理化学研究所脳科学総合研究センター
象徴概念発達研究チームシニアチームリーダー |
| 内田 伸子 |
お茶の水女子大学大学院特任教授 |
| 亀田 達也 |
北海道大学社会科学実験研究センター教授・センター長 |
| 幸島 司郎 |
京都大学野生動物研究センター教授 |
| 坂上 雅道 |
玉川大学脳科学研究所教授 |
| 積山 薫 |
熊本大学文学部教授 |
| 高橋 里英子 |
日本科学未来館サイエンスコミュニケーター |
| 友永 雅己 |
京都大学霊長類研究所准教授 |
| 西田 眞也 |
NTTコミュニケーション科学基礎研究所主幹研究員 |
| 長谷川 寿一 |
東京大学大学院総合文化研究科教授・研究科長 |
| 平田 聡 |
京都大学霊長類研究所特定准教授 |
| 藤田 和生 |
京都大学大学院文学研究科教授 |
| 松林 公蔵 |
京都大学東南アジア研究所教授 |
| 明和 政子 |
京都大学大学院教育学研究科准教授 |
| 山川 宗玄 |
正眼短期大学学長 |
| 山岸 俊男 |
玉川大学脳科学研究所教授 |
| 吉川 左紀子 |
京都大学こころの未来研究センター教授・センター長 |
| 吉田 正俊 |
自然科学研究機構生理学研究所助教 |
| 渡辺 茂 |
慶応義塾大学文学部教授 |
| 渡邊 正孝 |
東京都医学総合研究所特任研究員 |
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2012年度 研究活動予定 |
① 研究会開催予定:
- 第1回: 2012年4月26日~4月27日(於 高等研)
第2回: 2012年7月15日~7月16日(於 京都大学吉田泉殿、祝休日のため)
第3回: 2012年11月10日~11月11日(於 高等研)
第4回: 2013年2月23日~2月24日(於 高等研)
② 話題提供予定者:4回の総合計で25名
第1回は、海外からの来訪者5名(招聘ではなく、犬山からの国内旅費だけ必要です)
@行動学・生態学・考古学の若手研究者を海外から招いており、それを中核に会合をもつ。
第3回は、海外からの来訪者1名(これも招聘ではなく、東京からの国内旅費だけ必要です)
@認知哲学の研究者を海外から招いており、それを中核に会合をもつ。 以上の専門分野を活かしつつ、心の起源研究に迫る「研究萌芽の創出」や「学術の芽を見つけ、学術の芽を育てる」こととする。日本人の話題提供者については現時点で特定できない。予想される人数としては、4回の合計で約20名。最終的には第4回目の会合で調整する。海外からの参加者は上記の5名を予定しているが、いずれも招へい費用は生じない。「諸謝金支給規程」では、10,000円/回で、特別に謝金額を必要とすることはない。
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| 研究活動実績 |
2011年度:
2011年度(本年度)の実施状況や成果について記入する。当初の研究目的は、日本から発するオリジナルな「心の起源」にかんする先端研究である。日本語の「心 kokoro」という概念は、欧米でいうmind、emotion、intelligence、heart、psychological、will、intention、consciousness等を、すべて含んでいる。本研究においては、このような欧米の要素還元的に細かく分析するアプローチではなく、より大きな枠組みの中で人間の心の働きおよびその基盤である脳の機能を研究しようとするものである。「心も進化の産物である」という視点から、人間の心の進化的起源を問う研究だといえる。全体構想の特徴は、心のまるごと全体を対象とし、全体的アプローチを採ることである。研究期間において、この問題を認知科学や神経科学だけでなく、霊長類学や認知ロボティクスなど日本発のユニークな研究分野を交差させて、活発な討議をおこなった。もうひとつ特記すべきは、宗教の取り込みである。禅や浄土宗など異なる立場からの話をきき、そこに現代の終末期医療の実態もからませながら、生老病死のまるごと全体をとりだして議論の俎上に乗せようとした。「日々の暮らしの中から発する基礎科学」という視点である。従来の科学の範疇を越えて、人間の心のまるごと全体を理解するとともに、現実の暮らしの中から発想するような基礎科学というものを目指している。そうした問題意識を参加者のあいだで共有することができたのが2011年度の実績だといえるだろう。
研究会開催実績:
- 研究会
第1回 2011年4月23 日 (於:高等研)
第2回 2011年10月15日 (於:高等研)
第3回 2012年1月28日~29日 (於:高等研)
幹事会
第1回 2011年10月15日 (於:高等研)
第2回 2012年1月28日 (於:高等研)
話題提供者:22名
| 秋田 光彦 |
大蓮寺住職・應典院代表 |
| 有田 菜穂 |
京都大学大学院教育学研究科修士課程2年 |
| 伊村 知子 |
京都大学霊長類研究所特定助教 |
| 兼子 峰明 |
京都大学霊長類研究所後期博士課程3年 |
| 狩野 文浩 |
京都大学霊長類研究所後期博士課程3年 |
| 木下 こづえ |
神戸大学大学院農学研究科研究員 |
| 酒井 朋子 |
京都大学大学院理学研究科後期博士課程3年 |
| 瀧本 彩加 |
京都大学大学院文学研究科大学院生 |
| 田中 正之 |
京都大学野生動物研究センター准教授 |
| 出水 明 |
出水クリニック理事長・院長 |
| 服部 裕子 |
京都大学霊長類研究所ポスドク研究員 |
| 藤澤 道子 |
京都大学野生動物研究センター助教 |
| 藤田 和生 |
京都大学大学院文学研究科教授 |
| 松井 三枝 |
富山大学大学院医学薬学研究部准教授 |
| 明和 政子 |
京都大学大学院教育学研究科准教授 |
| 村上 郁也 |
東京大学大学院総合文化研究科准教授 |
| 山本 真也 |
京都大学霊長類研究所ヒト科3種比較研究プロジェクト特定助教 |
| 横山 紘一 |
正眼寺短期大学副学長 |
| 吉田 正俊 |
自然科学研究機構生理学研究所助教 |
| 渡辺 茂 |
慶應義塾大学文学部教授 |
| Christoph Dahl |
京都大学霊長類研究所ポスドク研究員 |
| Chris Martin |
京都大学霊長類研究所後期博士課程3年 |
その他の参加者:12名
| 亀田 達也 |
北海道大学社会科学実験研究センター教授・センター長 |
| 桑子 朋子 |
日本科学未来館サイエンスコミュニケーター |
| 佐藤 弥 |
京都大学霊長類研究所白眉プロジェクト特定准教授 |
| 高橋 里英子 |
日本科学未来館サイエンスコミュニケーター |
| 辻本 雅史 |
京都大学大学院教育学研究科教授 |
| 中村 美穂 |
京都大学野生動物研究センター准教授 |
| 服部 裕子 |
京都大学霊長類研究所PD |
| 開 一夫 |
東京大学大学院総合文化研究科教授 |
| 水野 壮 |
日本科学未来館 |
| 宮原 裕美 |
日本科学未来館 |
| 山本 真也 |
京都大学霊長類研究所特定助教 |
| 吉田 正俊 |
自然科学研究機構生理学研究所助教 |
学術道場生:3名
| 大杉 直也 |
東京大学大学院総合文化研究科大学院生 |
| 本林 良章 |
神戸大学大学院人文学研究科大学院生 |
| 堀川 裕之 |
京都大学大学院医学研究科大学院生 |
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