• 高等研ライブラリー
  • 高等研報告書
  • アーカイブ
  • 寄付

2023年春季IIAS塾ジュニアセミナー

当日の様子

2023年3月25(土)、26日(日)、27日(月)の3日間の日程でオンラインにより開催しました。 
学習テーマは、2022年の「人物学習型」に替え「課題探究型」とし、基本テーマを「『生命観・死生観を考える』-科学技術の発展の下での人間の在り方を問う」として、コロナ・パンデミック禍を背景に哲学・科学・技術の各分野に渡って、分野横断的討議を推進しました。
受講生は26人(高校生22人・大学生4人)で、その地域は、これまでの京都、大阪、奈良、兵庫、東京などに加え、新たに富山、島根、沖縄からの参加もあり、地域的拡大が更に進みました。
なお、グループ討議は、引き続き大学院生によるTAのサポートを得ました。

第1日目。哲学分野のグループ討議に先立ち鈴木晶子先生の質疑応答。グループ討議では、AI・ロボットの「人権」の有無、AIの「感性」と人間の「感性」の違いに関してなど、「AI」、「人間」そして「生命」を巡って、その探究が続きました。
討議終了後は、グループに分かれZoomミーティングによるTAを交えて自由に交流・懇談。AI・ロボットとの付き合い方など課題討議を継続し、あるいは進学・進路、趣味などへの話題も飛び交い、活発な交流・懇談が続きました。

第2日目。科学分野のグループ討議に先立ち藤原辰史先生の質疑応答。グループ討議では、分解者としての自然界(動植物)の多様性を受け入れることは、精神文化(人間)の多様性を受け入れることと連動しているのではないか。など、「分解の哲学」の理解に関わって白熱した議論が交わされました。
午後からは技術分野の学習。グループ討議に先立ち木下タロウ先生、そして森孝之先生が受講生の質問に関わってご発言。グループ討議(その1)では、人の道として、利他心をもって世のため、人のために働くことの意義とモチベーションの維持などに関して、緒方洪庵の生き様に照らして議論が交わされました。続いて、(その2)では、パンデミック(コロナ禍)は「生命観」「死生観」にどのような影響を与えたか、北里柴三郎の「死」に対する考え―科学的現象であるとの意見などを踏まえ、「生命」の重みと「死」に対する理解について議論が交わされました。

第3日目。全体討議での意見交換の後、午後のレポート報告に備えて、それぞれの考えを整理。午後からは、TAの司会の下にセミナーに参加して学んだことなどを受講生一人ひとり、グループ単位に発表。異口同音に、多様な意見に触れる機会を得て、新たな学びへの意欲を掻き立てられた、また新たな思考回路を見出すことができたなど、「学校」では学び得ない事柄を多く学ぶことができたとの発言がありました。

最後に、4人の講師(鈴木晶子・藤原辰史・木下タロウ・森孝之先生)から講評をいただきました。受講生の学びに対する積極的姿勢を大いに評価しつつ、「死生観」など若くして心に湧いた根源的・本質的問題を問い続けることの意義、多様な学びと、その自由な表現・発信に寛容であることの重要性、更に、創造的活動には、豊富な思考材料と上等な情報の獲得が不可欠であることなど様々な示唆的な言葉をいただきました。

閉講に当たって、松本紘先生(IIAS塾ジュニアセミナー開催委員会委員長)から本「セミナー」などの機会を求め、大いに議論し自己を鍛えてほしい、また、多様な人々との交流を通じて分野を超えた学びを意識的に追及してほしいなどの励ましの言葉が添えられました。

最後に受講生は、三日間にわたる学習プログラムを終え、TA を交えての交流・懇談に臨みました。今回のセミナーでの学習の感想のほか、目指す大学での学びの情報交換など話が弾みました。

  • 質疑応答(鈴木晶子先生)
  • 1日目グループ討議の様子
  • 質疑応答(藤原辰史先生)
  • 質疑応答(木下タロウ先生)
  • 質疑応答(森孝之先生)
  • 全体写真

開催概要

講師とテキスト主題

鈴木 晶子

京都大学名誉教授
メインテキスト
『生命とは何か。自然観・生命観、彼我の違いと変遷』
サブテキスト
鈴木晶子著「AI 時代の技術文明と人間社会 ―AI 技術と人間の未来」総務省 学術雑誌『情報通信政策研究』第2巻第1号(AI特集号) 

京都大学学際融合研究教育推進センター・人工知能研究ユニット特任教授/ 理化学研究所革新知能統合研究センター客員主管研究員/ 総務省情報通信政策研究所特別研究員。文学博士。京都大学大学院教育学研究科教授を経て現職。ベルリン自由大学客員教授。日本学術会議会員(第一部)、京都市教育委員などを歴任。
教育哲学、科学哲学、歴史人類学、死生学が専門。主な著書に『イマヌエル・カントの葬列 ―教育的眼差しの彼方へ』(春秋社)、『智恵なすわざの再生へ ―科学の原罪』(ミネルヴァ書房)、”Pandemics in the Anthropocene. Paragrana Internationale Zeitschrift für Historische Anthropologie” Vol.30/2 (De Gruyter Verlag; Berlin 2021)、“Takt in Modern Education” (Waxmann; Münster/ New York 2011)など。現在、人新世(Anthropocene)を生きる人間のあり方やAIによる技術革新に伴う人間性の再定義に関する研究プロジェクトに取り組んでいる。

人類は今や、ゲノム技術、核技術、AI技術など身の丈を超えた技術を手に入れるに至った。技術文明の担い手である人間は、技術のもたらす不測の事態を予測し、それへの対処法を講じなければならない。想像力を超えるほどの長期にわたる責任体系に生きざるを得ない私たちは、この惑星の未来を左右するほどの力を手にしてしまっている。この世に生を享けた人間が生きとし生ける他の生物や無生物とともに過ごす、この惑星での日々。この有限の時間に私たちは何を思い、何を考え、生きていったらよいだろうか。生命について考えることは、人間について、この私について考えることに他ならない。多様な様相を呈する生命にアプローチするには、近代科学的世界観だけでなく、前近代的、非西洋的な思考にも耳を傾ける必要がある。講義では、自然、機械、そして生命(いのち)と向き合う智恵を掘り起こしたい。

藤原 辰史

京都大学人文科学研究所准教授
メインテキスト
『食と分解から世界をとらえなおす-「いのち」をめぐる文理芸融合的研究』
サブテキスト
藤原辰史著『分解の哲学-腐敗と発酵をめぐる思考』青土社(2019年)

1976年生まれ。日本の農業史研究者、京都大学人文科学研究所准教授。専攻は、農業史・食と農の思想・ドイツ現代史。1999年京都大学総合人間学部国際文化学科卒業。2013年京都大学人文科学研究所准教授。
2013年 - 『ナチスのキッチン』で第1回河合隼雄学芸賞219年 - 『分解の哲学 ― 腐敗と発酵をめぐる思考』でサントリー学芸賞。『ナチス・ドイツの有機農業―「自然との共生」が生んだ「民族の絶滅」』柏書房2005、『カブラの冬―第一次世界大戦期ドイツの飢饉と民衆』人文書院 レクチャー第一次世界大戦を考える 2011

2019年冬から世界に広まり、多くの人の命を奪ったパンデミックは、経済と止めると世界中の都市の空気が澄みわたること、低賃金の移民労働者が働く食肉工場の実態、さらに、熱帯雨林伐採による大規模農場の開発が病原菌と人間のコンタクトを増やすといった現象など、これまで広く知られていなかった問題を私たちに示しました。近年のエネルギー危機も化石燃料に頼らない農業のあり方の模索が、各地で検討されるきっかけとなっています。また、身近なところでは、人とおしゃべりしながら食べることが禁止されたり、制限されたりしたことで、あらためて食を通じて人と触れ合うことが人間存在において本質的な行為であることが明らかになりました。この講義では、新型コロナウイルスの蔓延が私たちにはからずも示した「いのち」と「世界」の抜き差しならない関係を、人間から微生物まで「食べる」(あるいは「分解する」)という行為に着目し、人文科学と自然科学双方の視点から新しい学問のあり方について考えてみたいと思います。

木下 タロウ

大阪大学感染症総合教育研究拠点特任教授
メインテキスト
『感染症に向き合った日本人、偉大な先人、二人の軌跡』 (その1)天然痘に挑んだ緒方洪庵
サブテキスト
『緒方洪庵に学ぶ~ただ己を捨てて人を救わんことを希うべし~ (IIAS塾「ジュニアセミナー」TEXT(VOL.60))※主催者より配布

大阪大学感染症総合教育研究拠点特任教授。東京大学農学部卒業(1974)、同大学院農学系研究科修士課程修了(1977)、大阪大学大学院医学研究科博士課程修了(1981)。医学博士。日本学術振興会奨励研究員(1981)、ニューヨーク大学博士研究員(1982)、大阪大学医学部細菌学助手(1982)、同講師(1988)を経て、大阪大学微生物病研究所教授(1990)。同研究所所長(2003)、同大学免疫学フロンティア研究センター副拠点長(2007)、同大学微生物病研究所籔本難病解明寄附研究部門教授(2017)。2022年から現職。
大阪科学賞(2001)、文部科学大臣表彰(2010)、IGO Award 2015、武田医学賞(2017)、日本免疫学会ヒト免疫研究賞(2017)、紫綬褒章(2018)受賞。生化学と免疫学の基礎研究のかたわら適塾の顕彰活動に携わってきた。

私たちは新型コロナウイルスのパンデミックにより、感染症が蔓延したときに社会そして個々人がどれほど大きな影響を受けるかを実体験しています。幕末の頃、人々は致死率が極めて高い天然痘の脅威にさらされていました。大坂で蘭学塾「適塾」を主宰していた医師の緒方洪庵は、英国で発明され50年かかってようやく長崎にもたらされた天然痘ワクチン (種痘)を関西一円で大規模に接種するシステムを作り天然痘の予防に尽力しました。洪庵は「世のため人のため」をモットーに自ら生き、門下生を導きました。講義では、緒方洪庵と適塾について学び、社会が困難な時期にいかに生きるべきかを考察する手がかりとしたいと思います。

森 孝之

北里柴三郎記念室臨時職員
メインテキスト
『感染症に向き合った日本人、偉大な先人、二人の軌跡』 (その2)「病を未発に防ぐ」予防医学を目指した北里柴三郎
サブテキスト
森 孝之著『徹底解剖 北里柴三郎 不撓不屈の精神で予防医学の礎を築いた人』株式会社出版文化社(2022年)

横浜市出身。医学博士。
北里大学卒業後、社団法人北里研究所入所ウイルス研究部に配属(1979年)、
学校法人北里研究所北里柴三郎記念室へ異動(2008年)。2020年に定年退職し現職。
医学研究者・北里柴三郎博士の生涯を医史学の観点から研究している。なお、北里大学一般教育部の「北里の世界」の講義を担当している。他方、学外からの講演依頼も多数あり、幅広い年齢層を対象にした講演活動も実施している。

明治・大正時代は伝染病により毎年、数万人規模の犠牲者を出していた。特にコレラ、赤痢、結核は死因の上位にあり、医師や研究者も感染し命を落とす危険に晒されていた。北里柴三郎は東京大学医学部を卒業後、ドイツへ留学しローベルト・コッホ博士から細菌学を学んだ。帰国後、日本初の伝染病研究所を創設し病原体の研究と医薬品・ワクチン等の開発を推進した。一方、予防医学を標榜し公衆衛生の普及に努め、『伝染病予防法』制定にも大きく貢献している。北里柴三郎は、「人の命を救う」という単純明快ではあるが重大な使命感に燃えていた。「衣食住の事を完全にして病気を予防して無病息災延命にする」という信念を抱いており、さらには「一人ひとりが感染対策をすることで地域社会全体での被害を最小限に食い止めることが出来る」と確信していたのである。
この様な先人の理念や行動は現代の感染症対策に有効な指針を与えるのだろうか。

募集要項

募集対象 国内に所在する高校及び大学の学生で、IIAS塾ジュニアセミナー開催委員会において、受講を認めたもの概ね35名。ただし、インターネットが利用できる端末を準備でき、WEBによる受講環境を有するものと認められた者に限る。
応募対象 申込フォーム(Googleフォーム)より必要事項を入力のうえ送信。ただし、高校生にあっては、当該高等学校の教員の推薦及び保護者の同意を得たうえで「推薦書・同意書」を郵送またはE-mailにて送付。いずれも提出締め切りは、2023年1月17日(火)。
受講決定 選考結果は、2023年1月下旬、応募者本人宛て、申込時に「Googleフォーム」に登録された住所へ郵送により通知。
開催日 2023年3月25日(土)~3月27日(月)
※オンライン開催いたします!
開催場所 <メイン会場>公益財団法人国際高等研究所 <パーソナル会場>原則として受講生の自宅アクセスマップ
宿泊場所
参加費用 メインテキスト代は主催者が負担。サブテキストは各自で入手。
また、インターネットを利用する端末、通信回線については各自で負担。
問い合わせ・申込先 公益財団法人国際高等研究所
IIAS塾ジュニアセミナー開催委員会事務局
〒619-0225 京都府木津川市木津川台9-3
Tel:0774-73-4000/Fax:0774-73-4005
E-mail:iias19-2015@iias.or.jp
URL:http://www.iias.or.jp/
共催、後援、協力 【主催】公益財団法人国際高等研究所(IIAS塾ジュニアセミナー開催委員会)
【後援】京都府・奈良県・滋賀県・和歌山県の各教育委員会
【協力】京都大学、大阪大学

日程

最新に戻る