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2023年夏季IIAS塾ジュニアセミナー

当日の様子

8月2日(水)、3日(木)4日(金)、3日間の日程で2泊3日の対面式(合宿型)により開催しました。 

学習テーマは、2023年春季と同様「課題探究型」で、基本テーマを「『生命観・死生観を考える』-科学技術の発展の下での人間の在り方を問う」として、哲学・思想、科学・技術の各分野に渡って、コロナ・パンデミック禍の経験を踏まえて議論していただくこととしました。

5月から募集開始。応募者数は、高校生16人。その地域は、募集対象地域を全国に広げてきたこともあって、これまでの京都、大阪、奈良、兵庫などに加え、新たに和歌山のほか岐阜、広島からの参加もあり、地域的拡大が更に進みました。

運営の拡充に関しては、引き続き、印刷教材のメインテキストの配布に加えて講義動画を配信しオンデマンド学習を称揚し、事前学習を求めるとともに、7月23日(日)にはプレミーティングを開催し、当日の討議時間を保証する措置を執るなどグループ討議の更なる充実を期すこととしました。

なお、学習分野は、これまでどおり、リベラルアーツを旨とするものですが、具体的には「哲学・思想」、「科学・技術」分野に加えて、新たな試みとして「体験学習(心身の学)」の分野を取り入れ、分野横断的討議を推進するとともに、「もう一つの知、身体知」への関心を誘うこととし、全人教育への道を探るものです。

各分野の個別テーマ及び指導講師は、次のとおりです。ただし、グループ討議は、引き続き大学院生によるTAのサポートを得て運営しました。
①哲学・思想分野:「生命とは何か。自然観・生命観、彼我の違いと変遷」(鈴木晶子先生・京都大学名誉教授)
②科学・技術分野:「感染症に向き合った日本人、偉大な先人、二人の軌跡」
(その1)天然痘に挑んだ緒方洪庵 (木下タロウ先生・大阪大学特任教授)
(その2)「病を未発に防ぐ」予防医学を目指した北里柴三郎(森孝之先生・北里柴三郎記念室臨時職員)       
③体験学習(心身の学):「武道を通じて体得する「もう一つの知、身体知」
ー生命活動における客観知と主観知に触れてー」(藤原広臨先生・京都大学大学院医学研究科講師)

主な学習日程は、第一日(8月2日)は、午前10時30分からガイダンス、自己紹介、午後1時から開講式の後、哲学・思想分野のグループ討議。第二日(8月3日)は、午前9時から昼食を挟んで午後3時まで科学・技術分野のグループ討議、午後3時30分から体験学習(心身の学)、第三日(8月4日)は、午前9時から全体討議、午後1時30分からレポート報告、そして講評と続き、午後4時30分閉講しました。オンデマンド学習により、またプレミーティングにより問題意識を深めてきた受講生は、3日間熱い討議を続けてきましたが、閉講式後は、開放感と共にそれぞれに充実感を覚えながら、そして今後の学習交流を誓い合いながら、別れを惜しみつつ高等研を後にしました。

  • グループ討議の様子
  • グループ討議の様子
  • 全体討議【3日目)の様子
  • 体験学習(心身の学)の様子
  • 懇親会(2日目)の様子
  • 講師(4名)からの講評の様子

参加者の声

様々な考え方の人と意見を交換しあい、当初の目的であった新たな視野の獲得ができた。また、言語化の能力が鍛えられたと実感した。
高校2年生男子
違う環境にいる同世代の考えや意見が刺激的だった。大学の教授やTAの方など普段は関われない立場の方と関わることが出来た。
高校3年生女子
応募時に期待していた以上の充実した三日間と、新たな仲間に出会えた。
高校2年生女子
いろんなバックボーンを持った人たちに出会い、死生観に関してのみにとどまらないいろんな交流を通じて、ひたすらに生きる力と知識をもらった。
高校2年生女子
真剣に討論を重ねたり、知らない人と宿泊するなど、今までにない経験が出来た。
高校1年生女子

開催概要

講師とテキスト主題

鈴木 晶子

京都大学名誉教授
メインテキスト
『生命とは何か。自然観・生命観、彼我の違いと変遷』
サブテキスト
鈴木晶子著「AI 時代の技術文明と人間社会 ―AI 技術と人間の未来」総務省 学術雑誌『情報通信政策研究』第2巻第1号(AI特集号) 

京都大学学際融合研究教育推進センター・人工知能研究ユニット特任教授/ 理化学研究所革新知能統合研究センター客員主管研究員/ 総務省情報通信政策研究所特別研究員。文学博士。京都大学大学院教育学研究科教授を経て現職。ベルリン自由大学客員教授。日本学術会議会員(第一部)、京都市教育委員などを歴任。
教育哲学、科学哲学、歴史人類学、死生学が専門。主な著書に『イマヌエル・カントの葬列 ―教育的眼差しの彼方へ』(春秋社)、『智恵なすわざの再生へ ―科学の原罪』(ミネルヴァ書房)、”Pandemics in the Anthropocene. Paragrana Internationale Zeitschrift für Historische Anthropologie” Vol.30/2 (De Gruyter Verlag; Berlin 2021)、“Takt in Modern Education” (Waxmann; Münster/ New York 2011)など。現在、人新世(Anthropocene)を生きる人間のあり方やAIによる技術革新に伴う人間性の再定義に関する研究プロジェクトに取り組んでいる。

人類は今や、ゲノム技術、核技術、AI技術など身の丈を超えた技術を手に入れるに至った。技術文明の担い手である人間は、技術のもたらす不測の事態を予測し、それへの対処法を講じなければならない。想像力を超えるほどの長期にわたる責任体系に生きざるを得ない私たちは、この惑星の未来を左右するほどの力を手にしてしまっている。この世に生を享けた人間が生きとし生ける他の生物や無生物とともに過ごす、この惑星での日々。この有限の時間に私たちは何を思い、何を考え、生きていったらよいだろうか。生命について考えることは、人間について、この私について考えることに他ならない。多様な様相を呈する生命にアプローチするには、近代科学的世界観だけでなく、前近代的、非西洋的な思考にも耳を傾ける必要がある。講義では、自然、機械、そして生命(いのち)と向き合う智恵を掘り起こしたい。

木下 タロウ

大阪大学特任教授
メインテキスト
『感染症に向き合った日本人、偉大な先人、二人の軌跡』 (その1)天然痘に挑んだ緒方洪庵
サブテキスト
『緒方洪庵に学ぶ~ただ己を捨てて人を救わんことを希うべし~ (IIAS塾「ジュニアセミナー」TEXT(VOL.60))※主催者より配布

大阪大学感染症総合教育研究拠点特任教授。東京大学農学部卒業(1974)、同大学院農学系研究科修士課程修了(1977)、大阪大学大学院医学研究科博士課程修了(1981)。医学博士。日本学術振興会奨励研究員(1981)、ニューヨーク大学博士研究員(1982)、大阪大学医学部細菌学助手(1982)、同講師(1988)を経て、大阪大学微生物病研究所教授(1990)。同研究所所長(2003)、同大学免疫学フロンティア研究センター副拠点長(2007)、同大学微生物病研究所籔本難病解明寄附研究部門教授(2017)。2022年から現職。
大阪科学賞(2001)、文部科学大臣表彰(2010)、IGO Award 2015、武田医学賞(2017)、日本免疫学会ヒト免疫研究賞(2017)、紫綬褒章(2018)受賞。生化学と免疫学の基礎研究のかたわら適塾の顕彰活動に携わってきた。

私たちは新型コロナウイルスのパンデミックにより、感染症が蔓延したときに社会そして個々人がどれほど大きな影響を受けるかを実体験しています。幕末の頃、人々は致死率が極めて高い天然痘の脅威にさらされていました。大坂で蘭学塾「適塾」を主宰していた医師の緒方洪庵は、英国で発明され50年かかってようやく長崎にもたらされた天然痘ワクチン (種痘)を関西一円で大規模に接種するシステムを作り天然痘の予防に尽力しました。洪庵は「世のため人のため」をモットーに自ら生き、門下生を導きました。講義では、緒方洪庵と適塾について学び、社会が困難な時期にいかに生きるべきかを考察する手がかりとしたいと思います。

森 孝之

北里柴三郎記念室臨時職員
メインテキスト
『感染症に向き合った日本人、偉大な先人、二人の軌跡』 (その2)「病を未発に防ぐ」予防医学を目指した北里柴三郎
サブテキスト
『徹底解剖! 北里柴三郎-不撓不屈の精神で予防医学の礎を築いた人』森 孝之著、株式会社出版文化社、2022年。

横浜市出身。医学博士。
北里大学卒業後、社団法人北里研究所入所ウイルス研究部に配属(1979年)、
学校法人北里研究所北里柴三郎記念室へ異動(2008年)。2020年に定年退職し現職。
医学研究者・北里柴三郎博士の生涯を医史学の観点から研究している。なお、北里大学一般教育部の「北里の世界」の講義を担当している。他方、学外からの講演依頼も多数あり、幅広い年齢層を対象にした講演活動も実施している。

明治・大正時代は伝染病により毎年、数万人規模の犠牲者を出していた。特にコレラ、赤痢、結核は死因の上位にあり、医師や研究者も感染し命を落とす危険に晒されていた。北里柴三郎は東京大学医学部を卒業後、ドイツへ留学しローベルト・コッホ博士から細菌学を学んだ。帰国後、日本初の伝染病研究所を創設し病原体の研究と医薬品・ワクチン等の開発を推進した。一方、予防医学を標榜し公衆衛生の普及に努め、『伝染病予防法』制定にも大きく貢献している。北里柴三郎は、「人の命を救う」という単純明快ではあるが重大な使命感に燃えていた。「衣食住の事を完全にして病気を予防して無病息災延命にする」という信念を抱いており、さらには「一人ひとりが感染対策をすることで地域社会全体での被害を最小限に食い止めることが出来る」と確信していたのである。
この様な先人の理念や行動は現代の感染症対策に有効な指針を与えるのだろうか。

藤原 広臨

京都大学大学院医学研究科講師
メインテキスト
【体験学習】『武道を通じて体得する「もう一つの知、身体知」』 ー生命活動における客観知と主観知に触れてー
サブテキスト
Martial Arts “Kendo” and the Motivation Network During Attention Processing: An fMRI Study (翻訳版:武道としての「剣道」と注意処理中のモチベーション・ネットワークについて:fMRI研究) ※主催者より配布

理化学研究所 革新知能統合研究センター 社会における人工知能研究グループ 分散型ビッグデータチーム客員研究員、大阪大学社会技術共創研究センター総合研究部門 招へい教員
幼少期7歳より剣道を習い始め、途中ブランクがありましたが継続的に稽古を続け、現在教士七段、最高段位八段に挑戦中です。職務面では、精神科医として20年余のキャリアの中、様々な疾患の患者の診療に従事しています。一方、医学生・若手医師の指導、教育(医学教育)の経歴があることや、剣道指導にも関わることを通じた経験から、自身の学びを踏まえていこうという試み・取り組みを続けていきたいと思っています。研究面では、各種精神疾患(不安症・うつ病)および、行動嗜癖(薬物等の物質によらない、行動面での依存症)をテーマとしていますが、これに関連して、我々の生活習慣の「最適化」について、インターネットのリテラシー、適度な運動習慣等とメンタルヘルスの関連や、背景にある脳のメカニズムを調べています。運動習慣の中で、とりわけ武道についての取り組みを、今回ご紹介・情報共有できれば幸いです。

医学・認知心理学にも携わる精神科医という視点から、また、剣道の愛好家としても長年キャリアを積んできたことも踏まえ、「身心一如」「武道によるメンタルヘルス維持増進の可能性」について、自験例における脳MRI研究、特に、集中力やモチベーションという観点からの結果・考察についての紹介・説明をします。その情報を共有した上で、武道、及びメンタルヘルスにおける「エクササイズ」の意義や「呼吸」の重要性を意識した体験を共有できれば幸いです。その後、講義内容及び体験を通じた内容の若干の振り返り、及び意見交換にて締めくくりとすることができれば、と思います。

募集要項

募集対象 高校及び大学の学生で、IIAS塾ジュニアセミナー開催委員会において、受講を認めたもの概ね20名。
応募対象 申込フォーム(Googleフォーム)より必要事項を記載のうえ送信。ただし、高校生にあっては、当該高等学校の教員の推薦及び保護者の同意を得たうえで「推薦書・同意書」を郵送またはE-mailにて送付。いずれも提出締め切りは、2023年6月18日(日)
受講決定 選考結果は、2023年6月下旬、応募者本人宛て、「申込フォーム」に入力された住所へ郵送により通知。
開催日 2023年8月2日(水)~8月4日(金)
開催場所 公益財団法人国際高等研究所(京都府木津川市)アクセスマップ
宿泊場所 国際高等研究所の施設内にある宿泊棟(予定)
参加費用 10,000円(食費を含む宿泊費)
問い合わせ・申込先 公益財団法人国際高等研究所
IIAS塾ジュニアセミナー開催委員会事務局
〒619-0225 京都府木津川市木津川台9-3
Tel:0774-73-4000/Fax:0774-73-4005
E-mail:iias19-2015@iias.or.jp
URL:http://www.iias.or.jp/
共催、後援、協力 【主催】公益財団法人国際高等研究所(IIAS塾ジュニアセミナー開催委員会)
【後援】京都府・奈良県・滋賀県・和歌山県の各教育委員会(予定)
【協力】京都大学、大阪大学

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