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第13回 けいはんな「エジソンの会」

開催概要

インテリジェント農業について

講師
  • 井熊 均
    株式会社日本総合研究所 専務執行役員
  • 若林 毅
    富士通株式会社 イノベーティブIoT事業本部 Akisai事業部 エキスパート
開催日時 2017年8月29日(火) 13:30~19:30
開催場所 公益財団法人 国際高等研究所
概要 大地と人との対話であり、長年の勘に基づく労働集約的な従来型農業は、その姿を一変させ、IoTによって収集された圃場や農作物の詳細かつ大量のデータを基に、AIが適切な農作業を判断し、作業そのものを自動化、効率化するだけでなく、収量増大や品質向上を、天候や気温等外部環境の変化に左右されず行うことをも企図したインテリジェントな農業の時代が始まろうとしています。
スマート農機は、環境に応じた最適な動作を予測し自律運転を行い、ドローンは効率的に圃場全体の発育状況や外的環境情報を収集し、自律型の植物工場は季節や外部環境の影響を受けず、人手を必要とせずに、種々のセンシングデータの解析結果から育成レシピを作成し、光、温度、湿度、水、肥料などを最適に制御して安定的に収穫を得ます。さらには、生物系(遺伝子組み換え)と化学系(農薬)のビジネスから脱却し、そこにICTやサービスを取り込むことで、「収量保障」という農業の“As a Service”化に乗り出す企業まで現れてきています。
今回はAIやIoT、ビッグデータを駆使した全く新しいインテリジェント農業の全容について、成長産業としての農業の第4次革命(アグリカルチャー4.0)で世界をリードするという観点から日本総合研究所の井熊均氏に解説いただきます。
また、ICTの観点からは、IoT、AI、ビッグデータとそれらをサイバー・フィジカル間で連携するクラウドネットワークを駆使したインテリジェントな農業のインフラストラクチャについて、内閣府「農林水産戦略協議会」、農水省「スマート農業の実現に向けた研究会」等の委員であり、農業クラウド事業のエキスパートである富士通の若林毅氏に解説いただきます。
農業における先進事例に触れていただくことによって、AIを中心とした新たなテクノロジーがどのように活かされ、どのように新たなエコシステムが切り拓かれるのか、従来型産業をその構造から大きく革新していく事例は、農業に直接関わりのない研究者や企業の皆様にも大いに参考にしていただけるものと期待しています。
配布資料
講師:井熊均 「IoT、ビッグデータ、AIは農業をどう変えるか」
PDF [5 MB]
講師:若林毅 「農業×ICTによるイノベーション ~アグリインダストリー創生に向けて~」
PDF [5 MB]

タイムテーブル

13:30~14:50
IoT、ビッグデータ、AIは農業をどう変えるか井熊 均 株式会社日本総合研究所 専務執行役
15:00~16:20
農業×ICTによるイノベーション ~アグリインダストリー創生に向けて~若林 毅 富士通株式会社イノベーティブIoT事業本部Akisai事業部エキスパート
16:30~17:50
インタラクティブセッション
18:00~19:30
懇親会

当日の様子

けいはんな「エジソンの会」第13回会合では、長年にわたり衰退の一途を辿ってきた日本の農業を再生させるためには、農業全体のバリューチェーンを見直し、データに基づいた儲かる産業への転換が最も重要であることを学びました。そのためには、これまでの作業の機械化という視点にとどまらず、消費者のニーズにリアルタイムに対応できる情報の把握と連携が必須であり、それを営農者にとって使いやすい形で実現するスマート農業とはどのようなものかを共有することができました。また、データドリブンでのPDCAによる改善活動や、統合環境制御、機能性野菜の開発生産など、AIやICTを駆使せずしては実現できない新たな取り組みについては、農業分野を超えて、他の産業分野においても参考となる有益な事例の紹介となりました。ご講演頂いた内容は下記の通りです。

「IoT、ビッグデータ、AIは農業をどう変えるか」

井熊 均 株式会社日本総合研究所 専務執行役員

日本の農業は長期にわたり衰退傾向が続き、生産額は30年間で3/4にまで落ち込んだ。就業者の平均年齢は66歳を超え、女性と高齢者が支えているのが現状であり、就業人口も毎年減り続け2016年には200万人を下回った。それは、農業がきつくてリスクがあり、儲からない商売だからだ。農業改革による法人の参入は5年で10倍に急増し、株式会社の参入により資金調達と投資行動は変化している一方、農業生産者個々の所得は伸び悩んでおり、かなり大きな露地栽培農家であっても、サラリーマン男性の平均収入を大幅に下回っている。その上、設備投資が必要で、災害等のリスクも負っている。また北海道を除くと圃場は分散しており、農機の稼働率低下や圃場間の移動時間やコストの増加のため、規模拡大による生産性の向上は見込めない。日本の農業を改革するには、現状の特性を頭に入れて進めることが必要であり、如何にボリュームゾーンに対して生産性を上げるかが重要である。
ICTの進歩により、高速情報通信網やスマホに代表される携帯端末の普及、スパコンから端末までの分析機能の飛躍的進歩、センサー・アクチュエータ類の革新的進化と、日本農業特有の背景が相まって、スマート農業への期待が高まってきた。農機の自動運転化については、農業は私有地内で行えるため、法的な縛りが少なく、既得権争いも少ないことが取り組み易い理由であるが、ICT化の対象としては、自動化に加え、生産・流通・需要までの全体を見据えたバリューチェーン改善による儲かる農業モデルの構築、いわゆる「アグリカルチャー4.0」の取り組みが必要となる。
世界的に見ても農業は、紀元前からヨーロッパに農業革命がおこった18世紀まで、ほとんど変化がなく、1940年代以降の化学肥料実用化、農機普及による大規模農業化、一部のICT利用による植物工場や生産管理システムの導入を経て、ようやく2010年代後半から本格的なICT利用が検討されてきた経緯から見ると、農業のICT化は未だ始まったばかりであり、これから農業の本格的なスマート化が図られていくだろう。我々は、ICTを活用した農業従事者みなが儲かる農業モデルの実現に貢献したいと考えている。
我々はスマート農業の基本コンセプトとして、「匠の技」のシステム化に取り組んでおり、
匠の農家の「眼」「頭脳」「手」の3つの分野を代替・支援することで、効率化と付加価値向上の両面から、農業の競争力の向上を図っている。技術系の発想では、「手」の部分を一生懸命やるが、たとえ、素晴らしい農機を作ったとしても利用は収穫期のみで稼働時間が少なく、それにより日々仕事を抱えている農家の方々に本当に役立てるかを考えた上でのシステム作りが求められる。ICT化の中核となるのは、「匠の頭脳」として農業生産プロセスの見える化、記録、計画策定等を行うシステムであり、データによる農業の管理は非常に重要である。
スマート農業を実現するために乗り越えるべきハードルとしては、①投資額の高さ②付加価値の低さ③共通化、互換性の欠如④法規制 が挙げられる。全てに対応できなくても、マルチ対応で付加価値を上げていくことが必要である。特に、個々の農家の損益計算書を調べ、どこにお金がかかっているかを見つけ出して対応することが重要である。
従来のバリューチェーンを見てみると、農家と消費者との間に、農協があり、出荷・流通・販売の過程で多くの事業者が介入することにより、農家の方々はマーケットに対する情報がこれまでは不十分であった。持続的で「儲かる農業」に的を絞った研究開発、匠の技と農業ICTとの融合を図り、仕様の共通化・連動性と互換性を確保しつつ、規制緩和を行えば、日本のスマート農業は世界をリードすることが出来ると確信しており、その先にアジアを中心とした海外展開も視野に入れて進めている。
スマート農業を実現する為には、農家をより理解し、サプライサイドの発想に陥らず、何が問題であるかを見つけ出すためのデザインシンキングの考え方を取り入れることが重要であると考えている。儲かる農業を実現し、農業従事者1人当たり1000万円稼げるようになることを目標に掲げて取り組んで行きたい。

「農業×ICTによるイノベーション ~アグリインダストリー創生に向けて~」

若林 毅 富士通株式会社 イノベーティブIoT事業本部 Akisai事業部 エキスパート

富士通は農協(現在のJA)を通じて、全国47の都道府県の内、約20都道府県で40年以上にわたりシステムを提供してきた。その経験を基に2008年から全国の農業法人との実証実験を経て、2012年より「食・農クラウドAkisai(秋彩)」サービスを始めている。
「Akisai」は、現場から経営までの企業的農業経営を実現するサービスの提供に加え、土地利用型、施設園芸・畜産をカバーする全体体系を以って、データ収集、蓄積・分析、利活用を行うクラウド型のイノベーション支援サービスである。展開・活用に当たっては、①中核生産法人モデル②地域コミュニティモデル③フードチェーンモデル④ソリューションモデルを準備している。
データに基づく企業的経営の実現としては、日々の活動から生まれるデータ(センサー/カメラ等)を蓄えることから始め、GAP(Good Agricultural Practice)に基づく生産工程管理を行い、生産・品質の見える化を行うことで、PDCAサイクルによるカイゼン活動を通した適期作業の徹底を図る。これによりキャベツの単位面積当たり前年比30%の収穫アップを達成した農家が生まれている。また、田植え作業のプロセス改善として、補植の手戻り作業を削減することにより、30%の効率化を達成した事例がある。果樹園では、園地の各種データを記録し、見える化を行った上で、遠隔アドバイスによる分析・活用を通じて、ブランドみかんの収穫量を3倍にした例もある。JA・自治体との取り組み事例では、個々に異なったシステムのため分散されているデータを、共有して見られるようにし、地域の連携を図り、生産性比較、害虫発生予測、生産者への指導員のアドバイスなどに役立てる試みを実施している。農機メーカーとの連携では、農機から得られる機械情報や作業情報とAkisaiクラウドの情報を連携させ、更なるデータ活用の高度化を目指している。
先進施設園芸への取り組みについては、九州ほどの面積で世界第2位の農業輸出国であるオランダ農業のベンチマークを通して、幅広い研究を進めている。オランダが輸出を前提とした施設園芸と畜産などの労働・資本集約型に特化し、施設園芸では95%が統合環境制御システムを導入していることに注目し、環境制御クラウドを構築した。コンピュータ制御された温室により安定生産を実現し、クラウドと温室を繋ぐことで遠隔モニタリング・制御を実現している。特筆されるのは、仙台ターミナルビルが行っているトマト栽培やJR九州ファームのピーマン栽培など、この分野への異業種からの参入が多いことである。
畜産では、牛の行動特性を利用した歩数のモニタリング(万歩計の利用)による発情時期の検知と、連絡メールの携帯・スマホ・PCへの発信による高い受胎率での繁殖の促進を行っている。このニーズは全世界共通なので、海外への積極的な展開を始めている。
完全閉鎖型植物工場については、富士通の半導体工場の一部(2000平米)を利用して2013年に事業を立ち上げ、翌年より生産を開始した。低カリウムで雑菌がほとんどない野菜「キレイヤサイ」を毎日3500株収穫・出荷しており、半導体工場で培った大規模工場のラインオペレーションでの現場運用、ものづくりノウハウが活かされている。海外への展開として、工業化の進展で農業が空洞化しているベトナムに、農政改革の一環として閉鎖型植物工場のショールームを設置し、アジアへの展開についても期待しているところである。
スマートアグリカルチャー事業への取り組みとしては、農業を起点とした地方創生をめざし、静岡県磐田市でオリックス・増田採種場との共同事業を立ち上げ、フードバリューチェーン全体を俯瞰した新しいビジネスモデルの創造に取り組んでいる。個々の地域には、品種の開発能力に長けた種苗会社や、高い生産技術や接ぎ木の技術を持った生産者は多いが、経営規模が小さく、技術や開発力が十分に活かされていない。それらの生産者が参画する新しい事業を立ち上げ、初期投資や資金調達面での対応を行った上で、施設を整備して生産者がシェアリングし、そこから生まれた魅力ある品種の栽培プロセスをソフト化し、国内外でのライセンスビジネスへ展開を図るモデルを構築したいと考えている。

[インタラクティブ・セッション]

スマート農業を推進するための行政の役割、農家の収益構造と向上意欲、農業の産業化、日本の風土との関わり、生活スタイルとしての農業、法規制など多くのテーマから活発な意見交換が行われました。

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