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第15回 けいはんな「エジソンの会」

開催概要

AIやIoTによる社会インフラの維持管理について

講師
  • 藤野 陽三
    横浜国立大学 先端科学高等研究院上席特別教授
    内閣府SIP「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」プログラムディレクター
  • 村川 正宏
    産業技術総合研究所 人工知能研究センター人工知能応用研究チーム長
    (兼)筑波大学 システム情報系 教授(連携大学院)
  • 湯田 晋也
    株式会社日立製作所 研究開発グループ
    制御イノベーションセンタスマートシステム研究部部長
開催日時 2017年10月31日(火)
開催場所 公益財団法人 国際高等研究所 レクチャーホール
概要 社会インフラは経済を支える基盤ですが、老朽化が進み、事故リスクが顕在化している状況にあり、経済への甚大な影響を防ぐためのインフラ維持管理と新たな技術開発の必要性が高まっています。メンテナンスレジリエンスは、生産設備、道路、鉄道、空港、橋梁、堤防、ダム、上下水道、トンネルなどの社会インフラを維持管理して保全することで、トラブルやリスクにあらかじめ備え対応していこうとするものです。社会インフラの異常検知のための点検作業を自動化・無人化して、飛躍的な効率向上を目指すものであり、AIやIoTの高度な活用なくしては、もはや時間的にもコスト的にも社会インフラを良好に維持していくことはできなくなってきています。

第15回会合では、内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で、「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」のプログラムディレクターを務めておられる藤野先生より、政府の課題認識と日本としての統合的な取り組みの状況についてご紹介頂きます。
産総研の村川先生には、人工知能研究の立場から、社会インフラ保守支援に関わる人工知能の適用範囲とそれを支える最先端技術及び今後の展望についてご説明頂きます。
また、日立製作所の湯田氏からは、保守サービスのデジタル化によるビジネス変革と保全分野への応用について、様々な導入事例を通してご説明頂きます。

メンテナンスレジリエンスにおける先進事例と今後の展望に触れていただくことによって、AIを中心とした新たなテクノロジーがどのように活かされ、日本の安全安心な社会インフラが維持確立されていくのか、分野を超えた研究者・技術者、企業の様々な立場の皆様にも大いに参考にしていただけるものと期待しています。

タイムテーブル

13:30-14:10
「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術における日本政府の取り組み」藤野 陽三 横浜国立大学 先端科学高等研究院 上席特別教授
内閣府SIP「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」プログラムディレクター
14:10-15:10
「データ駆動型異常検知技術によるインフラ診断支援」村川 正宏 産業技術総合研究所 人工知能研究センター人工知能応用研究チーム長(兼)筑波大学 システム情報系 教授(連携大学院) 
15:20-16:20
「保全サービスのデジタル化についての取り組み」湯田 晋也 株式会社日立製作所 研究開発グループ
制御イノベーションセンタ スマートシステム研究部部長
16:30-17:50 
インタラクティブ・セッション
18:00-19:30 
懇親会
主催者による記録・広報等のため、本イベントの写真撮影・録画・録音、オンライン配信、ソーシャルメディア配信等を行う場合がございますので、予めご了承ください。

当日の様子

けいはんな「エジソンの会」第15回会合は、「AIやIoTによる社会インフラの維持管理について」というテーマで開催いたしました。
 日本においては、昭和の高度成長期に整備された道路、橋梁、トンネル、鉄道などをはじめとする社会資本が老朽化してきており、いかに効率的かつ効果的に優先順位を付してメンテナンスしていくかが大きな課題となっています。
 「インテリジェントインフラストラクチャ」は、人工知能による社会インフラの運営・管理や、メンテナンス作業の自動化、効率化を対象とした概念で、なかでも「メンテナンスレジリエンス」は社会インフラや生産設備などを維持管理し保全することで、トラブルやリスクにあらかじめ備えて事前に対応するものです。
 とくに社会インフラの劣化状況の診断は、人間が高いところに上り目視で亀裂や故障の有無を確認したり、設備表面をハンマーで叩いて音で破損部位を発見したりしなければなりません。それら人間による工数のかかる作業を、人工知能が搭載されたロボットやドローン、さらにはインフラに設置したセンサーからのIoT情報を収集することでリアルタイムに診断することが可能になります。それにより人間のスキルによる作業のばらつきをなくし、作業の行いづらい場所でも、持続的に安全でローコストで完璧な保全を実現するための方策について、今回幅広い知識を得ることができました。ご講演頂いた内容は下記の通りです。

「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術における日本政府の取り組み」

藤野 陽三 横浜国立大学 先端科学高等研究院上席特別教授
内閣府SIP「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」プログラムディレクター

インフラストラクチャーとは社会的共通資本であり、人間が人間らしい生活を送る上で必要なものであるが、市場原理主義に馴染まないものである。また自然環境としてのサイエンス的要素、工学的要素、制度資本としての社会科学的要素が含まれるため、守備範囲が広く、自然と社会を見て広い視野でことに臨む必要がある。来る高齢化社会において、インフラをどのように考えて行けば良いかが今問われている。
社会インフラの特徴は、ステークホルダーの多様さと複雑さが挙げられる上、それぞれ個別仕様となっており、使用期間が数10年にわたる場合は経年変化でも個体差が出てくるので、維持保全管理は専門家が実施する必要性の高い領域である。そこでは膨大なストックをカバーする良質なマンパワーと財源が必要となるが、人の判断によるばらつきも大きい。
平成26年度総合科学技術会議の重点課題としてインフラの安全が取り上げられ、シーズ主導から課題解決のためのSIP「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」が発足した。このプログラムは点検・モニタリング診断技術、ロボット技術、情報・通信技術、構造材料・劣化機構・補修・補強技術とこれを統合するアセットマネジメント技術の5つの要素で構成されている。平成26年11月から調査を始めた高速道路では維持管理に毎年想定2,000億円が必要であり、その60%は舗装部分の下の床版への過加重や塩分による損傷の点検や損傷修復に使う必要がある。そのため、従来の目視・打音検査の自動化、合理化だけではなく、地中レーダーによる床版・舗装内部非接触検査、レーザーや画像によるトンネル内のクラック検出など新しい計測技術の開発にチャレンジしている。これらの先端技術を利用して、インフラの地域実装支援を推進すべく、地域特性に応じたアセットマネジメントシステムの展開と実装を都道府県の主要大学機関を通じて提案していく。
インフラ維持管理を推進していく上で、現在はまだまだ限られたデータをベテランの専門家が適切に判断していく必要があるが、従来の点検ルールの変革を行い、最先端技術の活用により多くのデータを収集し、人工知能を含めた情報・通信技術を持って作業時間の短縮や点検漏れの防止に役立て、インフラ維持管理に必要な判断支援システムの高度化を目指していく。

「データ駆動型異常検知技術によるインフラ診断支援」

村川 正宏 産業技術総合研究所 人工知能研究センター人工知能応用研究チーム長
筑波大学 システム情報系教授(連携大学院)

社会インフラ保守に関わる人工知能の適用について、インフラ診断におけるデータ駆動型異常検知技術に焦点を当て研究を進めている。従来の異常検知アプローチは、異常パターン事例を基に検出する手法であったが、異常の事例が非常に少なく、且つその定義を人が行うこと、また未知の異常には対応が不可能であることから、正常データを人工知能が学習し、そこから外れるものを異常とみなす方法を取っている。IoT技術の進展により、様々な画像データ、音響データ、時系列データを大量に収集することができるようになり、センサーの設置環境における「正常」を機械学習することで、正常から逸脱したものを異常として検知し、未知の異常にも対応が可能となる。異常検知の流れは、画像、音響、信号などを低次元の特徴空間に変換し、特徴抽出して統計的解析を行う。
異常検知が取り扱う画像データの遠隔処理については、医療分野の応用事例として、病理画像診断支援システムと乳腺超音波画像診断支援システムがある。がん患者の増加に伴う医師の不足や高齢化による現場負担の軽減を図り、医療データの爆発的な増加で医師には処理不可能な情報量をデジタル化して活用することで、さらなる医師の負担軽減に寄与している。
インフラ診断の応用事例としては、風力発電システムにおける故障予兆検知がある。風力発電システムは故障の頻度が低い上、故障をすると部品調達期間が長く、取り付けに大型機材を必要とするなど予知検知が重要であり、正常データを学習させた人工知能による検知の早期化を図っている。コンクリート構造物の打音検査高度化では、AI打検システムを構築して誰が叩いても同じ結果を出せる損傷マップの生成や、台車型打音装置の開発で床版の損傷検知を行い、検査員を重労働から解放させた。
今後、人工知能を社会インフラに活用するための技術開発の方向性として、ユーザーを巻き込むことによる人工知能の性能アップと、データ駆動型と知識駆動型のアプローチを相補的に行い、人工知能の判断結果を人が納得できるようにすること、また特定の環境で取得したデータを環境が変わっても、少しの追加データで追従を可能にする転移学習のアプローチの研究開発が挙げられる。

「保全サービスのデジタル化についての取り組み」

湯田 晋也 株式会社日立製作所 研究開発グループ制御イノベーションセンタ
スマートシステム研究部部長

IoTの普及によりデジタル化は加速し、データ収集、蓄積・処理、制御を一貫して扱う情報システムが必要となってきた。日立はIoTプラットフォームの構築を行い、AIを駆使したビッグデータの分析と、各種ソリューションを提供することにより、社会イノベーションを推進している。保全分野の代表例としては、石油精製プラント、発電プラント、水処理プラント、医療品製造プラントがあるが、それぞれのプラントに対する高効率運転支援を行うための予兆診断と運転最適化支援を行っている。これまで大規模プラントでの設備診断には、設備の異常を診断する監視制御システムが使われてきたが、大抵は閾値判定アラームを実施しており、センサーと設計値の紐付けだけのため運用はし易いが、機器の保護に視点が置かれ、保守の為のアラームでないことが問題であった。現在はIoTとインターネットの進展により、常時監視での予知保全に移行しつつあり、設備保全は材料分野から情報分野として認識されるようになってきた。予知保全は、機械の初期異常を検知し、故障する前に保守を行う。また、機械学習による診断によって、正常時のデータ分布からの距離(ズレ)により、異常を検知するものである。予知保全の応用により、センサートレンドの可視化や異常検知、現象推定、原因推定、寿命推定が可能となっている。
人工知能の現場応用としては、生産現場の作業を解析し逸脱行動を検知することによるメガリコール防止や品質改善・生産性の向上、また人の行動解析をしてヒューマンエラーによる事故の低減や生産性・作業品質向上に貢献している。
IoTによって様々な業務のデジタル化とAIの応用が進み、IoTプラットフォームの標準化による各分野からの利用が可能となってきた。労働人口の減少に伴い、AIを使った作業高度化の試みもスタートしており、今後もAIを活用して保全分野に貢献していきたいと考えている。

[インタラクティブ・セッション]

異常予兆検知した後の統合的な保守運用の在り方、現場との連携の必要性、SIPの出口戦略と人材育成、トンネル点検データを持つベンチャー企業の立ち上げ事例、転移学習アプローチへの期待、ディープラーニングによる画像認識の高度化、地方インフラ保守と個人情報保護についてなど、活発な意見が交換されました。

その後、懇親会では藤野先生、村川先生、湯田氏と参加頂いた方々との名刺交換が行われ、積極的な意見交換の場となりました。

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