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第19回 けいはんな「エジソンの会」

開催概要

ブロックチェーン技術とその展開について

講師
  • 笠原 正治
    奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科教授
  • 今井 俊宏
    シスコシステムズ合同会社イノベーションセンターセンター長
開催日時 2018年3月28日(水)13:30~19:30
開催場所 公益財団法人 国際高等研究所
住所 〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
概要 ブロックチェーンはデジタル情報を改ざん不可能な形で恒久的に保存することを可能にした分散型台帳データベースであり,ビットコインを筆頭にした仮想通貨を支える技術としてフィンテックの中核をなすものとして、すでに多くの利用が始まっています。
その技術の特徴から、金融分野での活用に留まらず、スマートコントラクトやIoT、シェアリングエコノミーなど様々な分野への応用が期待されています。

第19回会合では、通信・ネットワーク工学、数理情報学の研究に従事され、クラウドにおける大規模分散並列処理システムの解析などを手掛けられておられる笠原正治先生より、ブロックチェーン技術に焦点を当て,そのトランザクション処理とマイニングのメカニズムを概観するとともに,システム分析により得られた最新の研究と応用の可能性についてご紹介頂きます。
また、シスコシステムズが世界各国で展開するイノベーションセンターの東京サイトのセンター長として、顧客とのイノベーション創出やエコパートナーとのソリューション開発を行っておられる今井俊宏氏より、IoTにおけるブロックチェーン利用の促進を目指して昨年に発足したIoT Trusted Allianceの設立背景や活動内容について、エンタープライズブロックチェーンに向けたシスコの取組みを交えてご紹介頂きます。

ブロックチェーンについての最新技術を学ぶとともに、金融分野を超えた幅広い先進事例や今後の展望に触れて頂くことによって、我々を取り巻く社会や環境がどのように進化していくのか、分野を超えた研究者・技術者、企業の様々な立場の皆様にも非常に興味深く、大いに参考にしていただけるものと期待しています。

タイムテーブル

13:00~
受付
13:30~14:50
ビットコインにおけるブロック・チェーン技術とその展望 〜数理的分析から見るマイニングメカニズム〜笠原 正治 奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科教授
15:00~16:20
仮想通貨を超えたブロックチェーンの活用 ~スマートコントラクト、IoTデータの流通、シェアリングエコノミーなどに向けたTrusted IoT Allianceの取り組み~今井 俊宏 シスコシステムズ合同会社イノベーションセンターセンター長
16:40~17:50
インタラクティブ・セッション
18:00〜19:30
懇親会
主催者による記録・広報等のため、本イベントの写真撮影・録画・録音、オンライン配信、ソーシャルメディア配信等を行う場合がございますので、予めご了承ください。

当日の様子

 けいはんな「エジソンの会」第19回会合は、「ブロック・チェーン技術とその展開について」というテーマで開催致しました。
 最近、テレビでも投資を募るビットコインのCMが多く流れています。ある意味バズワード化したビットコインを支えているブロック・チェーン技術ですが、本会合を通して技術的な特徴や全体のしくみの本質が理解できました。また、現時点での技術の限界を理解した上で、今後、金融分野を超えた様々な用途への適用を考えていくと、多くの問題点や解決しないといけない課題が浮き彫りにされました。ブロック・チェーン技術の未来に大きな期待を持ちながらも、一方では社会が受け入れる為の環境整備の必要性や、技術を活かすためのルール作りなども今後重要で、検討すべきテーマであると認識しました。ご講演頂いた内容は下記の通りです。

「ビットコインにおけるブロック・チェーン技術とその展開 ~数理的分析から見るマイニングメカニズム~」

笠原 正治 奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科教授

 ビットコインは、インターネット上で中央集中型のサーバを持たずに貨幣を実現する分散型仮想通貨であり、それ自体はオープンソースのソフトウェアで、法貨や電子マネーとは異なり発行主体が存在せず、暗号技術とP2P(ピア・ツウ・ピア)技術を用い、多重使用や改ざんを防ぐことに成功した取引管理システムである。
 ビットコインは、10分間隔で発行され、システムの制約上発行の上限数は2100万BTC(ビットコイン)となる。試算では2140年頃には発行終了が予想されている。本年2月時点で約1,686万BTCが発行されており、ブロックサイズは4-5年前の50GBから、現在は156GBに増えた。また、ビットコインを支えるコンピュータには、莫大な消費電力が必要となっている。
 ビットコインは、利用者のコイン送金と受け取りを暗号技術によって管理し、P2P技術を利用したトランザクションのブロードキャストによる情報伝搬と、マイナーと呼ぶ採掘者による承認行為で成り立っており、マイニングによる取引承認競争を利用している。
 ビットコインに使用される暗証技術は、ハッシュ関数と楕円曲線公開鍵暗号で、ビットコイン・ウォレットに秘密鍵を格納し、ビットコイン・アドレスは秘密鍵から生成された公開鍵から生成され、送金・受け取り口座番号が含まれている。秘密鍵・公開鍵とトランザクション自体の情報からユーザの署名情報を生成し、送金する。取引記録に署名情報を埋め込むことで、なりすましや否認を防止している。
 トランザクション承認の流れは、複数のトランザクションから新規ブロックを構成し、複数のマイナーによるくじ引き競争(マイニング、プルーフ・オブ・ワーク)に勝利したマイナーが新規ブロックを登録してチェーンに繋げていくことから、ブロック・チェーン技術と呼んでいる。
 ビットコインが1回に発行される額は、スタート時は50BTCであったが、現在は12.5BTCとなっている。また、10ナノBTC(1 satoshi)を下回った時点で発行は終了となる。


ブロック・チェーンは、サービス開始時点から全取引を記録した取引台帳が存在し、複数のトランザクションを纏めて1つのブロックに格納し、新規ブロックは、平均10分間のマイニング時間に勝ったマイナーが追加登録を行う。ブロック・チェーンの構成法は、取引情報のある個々のブロックにナンスを付加し、ハッシュ値を前ブロックの取引情報に書き込む。
また、マイニングとは、新規ブロックをブロック・チェーンに登録するためのくじ引き競争であり、ハッシュ関数出力文字列の先頭N個がすべて0(ゼロ)になる文字列(ナンス:nonce)を見つけることであり、2018年2月時点でNは18個である。マイニングの難易度を上げ、改ざんに対して弱くならないように、ナンスの発見が10分になるように先頭に並ぶ0の数を自動調整している。
2009年当初、マイニング計算は、CPUの計算能力4-8MH/sに準じていたが、GPU、FGPA、ASICの発明により2013年には1G-10TH/sとなり、2014年以降は複数のマイナーが協力し合い、分担してマイニングを実行し、報酬は作業量に応じて分担する「発掘プール」と呼ばれる方法で、1PH/s-1.5EH/sとなり、指数関数的に計算の難易度が上がっている。
ブロックサイズは最大1Mbyteで、平均10分で1ブロックを生成する為、1秒当たり約3個のトランザクションしか処理できず、VISAなどでは平均2000TR/秒処理していることを考えると、スケーラビリティに大きな問題がある。
ブロック・チェーンは、不特定多数の人間の間でどのように合意を形成するかが重要であり、合意形成には3つのしくみがある。Proof of Workは、こなした仕事量の多さに高い価値を与えるが、51%アタックによる二重支払や消費電力量の問題がある。Proof of Stakeは、「コイン×年数」の大きい取引に高い優先権を付与するので、セキュリティ・消費電力の問題は改善されるが、多くの資産を保有するものに有利となる。Proof of Importanceは、保有資産に加えて取引実績を考慮し、システムに対する使用頻度の大きさに優先権を与えるしくみである。トランザクションのプライオリティは、送金金額、トランザクションのデータサイズ、コインエイジ、手数料の要素で決定され、優先制御メカニズムが働いている。
ブロック生成間隔のデータを二年分抽出し、ブロック・チェーンの統計分析を行った。送金金額やクラス毎の到達率の時間変化を調べると、新規ブロックについては、低負荷時は優先度の低い高いに関わらずブロックが生成されるが、高負荷時には、高優先トランザクションからブロック化され、低優先はブロック化されない。また、実際のブロック生成間隔分布を見ると、ナンスをどのように見つけているか、当たりが出るまでの試行回数は幾何分布であり、指数分布で近似可能なことが分かる。有限個の母集団から当たりくじを引く試行については、当たりが出るまでの試行回数は離散一様分布であり、連続な一様分布で近似しており、最小値の極値分布は、基礎中の基礎である指数分布で計算が可能である。
ブロック・チェーンの特徴は、分散型取引台帳であり、本質はデータベースで、分散型管理による高い障害耐性を持ち、信頼できない相手間での合意形成アルゴリズムにより改ざんが困難で、プログラマブルなトランザクションができる。情報サービス的には、来歴を永久保存し、透明度の高い情報公開性を持っている。
それらの特徴を備えたブロック・チェーンの応用例としては、IoT、スマートコントラスト、スマートホームなどのスマートXなどの情報技術への利用、物流サービスでの製品のトラッキング、サービス提供者と享受者を直結させるシェアリング・エコノミーへの利用、金融サービスへの展開が考えられる。また、公文書管理を中心とした行政サービス、著作権管理、自律分散的管理による投票等の政治・行政での利用や、分散型自律組織形態の応用が考えられる。
研究室ではIoTのアクセス制御システムへの応用を検討中であるが、膨大なセンサ、ユーザーデバイスを結合して、大量の情報を収集・蓄積・加工することが必要なことから、セキュリティ上の課題の克服と、不正アクセスを防ぎ、高い耐障害性とスケーラビリティを持たせる必要があり、分散的な認証機構を実現するために、ブロック・チェーン技術の特徴を備えたアクセス制御方式が必要と考える。

「仮想通貨を超えたブロック・チェーンの活用 ~スマートコントラクト、IoTデータの流通、シェアリング・エコノミーなどに向けたTrusted IoT Allianceの取り組み~」

今井 俊宏 シスコシステムズ合同会社イノベーションセンター センター長

 ブロック・チェーンはシスコが注目・注力しているイノベーション領域である。
 これまでのテクノロジーとオープン化の変遷を見てみると、インターネットによりオープンなコネクティビティプラットフォームが構築され、モバイル/クラウドではアプリケーションプラットフォーム、SDN/NFVによりネットワークプラットフォームが、フォグ・エッジによりIoTプラットフォームが構築されてきた。昨年来、自律分散型サービスとして、オープンなトランザクションプラットフォームの構築に向けたブロック・チェーン技術が注目を集めている。
 ビットコインに用いられるブロック・チェーン技術は、即時性に欠け、マイニングやフォーキングの時間と言った確率論的なトランザクションの妥当性確認に起因する実務的な制限がある。また、個々のノードは全てのブロック・チェーンのコピーを持つため拡張性に問題があり、ガバナンス、規制リスク、匿名のマイナーによる管理やハッシュパワーが中国にあるマイニングプールに集中しており、全社向けのプラットフォームとは呼べない。
 暗号化とトランザクションの分散化で、データの改ざんが難しい特長を活かし、低コスト化と信頼性や収益の向上による新たなビジネスモデルの提供を目指す「エンタープライズ・ブロック・チェーン・ネットワーク」への期待が高まっている。エンタープライズ・ブロック・チェーン・ネットワークの構築に向けては、現行の自由参加型P2Pから許可型P2Pネットワークへ移行する必要があり、Proof of Workベースからプロトコルベースのコンセンサスと、より使い易いようにするための高いプログラマビリティが必要となる。将来像としては、インターネットスケール、オープンスタンダード準拠、マルチベンダーによる相互接続性が要求されるであろう。
 ブロック・チェーンは様々な用途への利用の可能性が考えられるが、偽物に対するブランドプロテクション、不透明な紙ベース取引に対応するための不動産業や建設業界への適用、機器間連携が進んで来ればスマートビルディングへの適用やオイル&ガス業界への適用などが挙げられる。
 弊社は、ブロック・チェーンの様々な用途への普及を目的に、HYPERLEDGERプロジェクトへ参画し、またENTERPRISE ETHEREUM ALLIANCEではエンタープライズ向けイーサリアムの開発に取り組んでいる。また、CHAMBER OF DIGITAL COMMERCEにてデジタル・アセットとブロック・チェーン技術の普及を促進している。弊社は昨年9月にTrusted IoT Alliance(TIOTA)を設立し、IoT分野へのブロック・チェーン技術の適応促進と、新しいビジネスモデル創出を加速させることを目的に、実作業にフォーカスしたPoC等の実証、オープンソースコードの公開、リファレンスアーキテクチャー、ロードマップ、仕様の策定を行っている。参加メンバーは、IoTとブロック・チェーンによるユースケースの策定と標準化支援、投資リスクの軽減、拡大するブロック・チェーンエコシステムとの連携、ブロック・チェーン製品・ソリューションのGTM(Go To Market)戦略加速、イノベーション促進、メンバー間連携によるPoC、実証検証等の各種サービスが受けられる。
 TIOTA設立後、オープンソースリポジトリとなるプロトコルMQTTT(MQTT-Trusted)をリリースし、Aero Foundation、Accord Project、Qtumとのパートナーシップを締結した。特に、昨年ワークグループに参画したSKuchain社は、ブロック・チェーンを使ったサプライチェーンのリーディングカンパニーであり、サプライチェーンへの普及に期待している。
TIOTAでのメンバー会合では、IoTとブロック・チェーン統合を体系的に整理するため、フレームワークとして、リファレンスアーキテキチャー、プロトコルリファレンス、インテグレーションパターン、アセットライフサイクルが策定・共有された。
 活動内容に関しては、設立初年度はPoCとビジネス価値の特定にフォーカスし、以降は、データモデル、インターフェース、スマートコントラクトの実装に関する定義やフレ-ムワーク等の作業を進める予定である。スマートコントラクトとIoTデバイスのより緊密な統合、拡張性のあるモデルパターンの検討、プロトコルデザインの作成に直近フォーカスしていく。Cisco DevNetを利用した開発者間のコミュニティーの場を提供しており、 メンバーによるBlockchain Sandboxの利用も可能である。
 弊社ではブロック・チェーン技術をブランディングプロテクション、製品機能管理としてのアクチベーションキーへの利用、トレーサビリティによるデータ不整合の防止、マニュアル作業の改善などへの利用を考えているが、偽物被害で大きな損失を被っている弊社のトランシーバーモジュールに対してブロック・チェーン技術を利用し始めた。
 Cisco liveが今年6月にオーランドで開催されるが、CIOTAの進捗や多くのパートナー企業との連携を通したブロック・チェーン技術の展開と応用が大きく取り上げられるので、是非注目してほしい。

[インタラクティブ・セッション]

 ブロック・チェーン技術の展開とAIの果たす役割、NEMの流出問題、不安や信頼性に対する社会への影響と備え、安全性を高めるためのルール作り、ブロック・チェーンのスケーラビリティについての課題、自律分散型システムと世界の秩序の在り方、ビットコインの技術を維持する人間性や心理との関係など多岐にわたる活発な意見交換がされました。
 

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