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第29回 けいはんな「エジソンの会」

開催概要

次世代ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)

講師
  • 松岡 聡
    理化学研究所 計算科学研究センター センター長
  • 佐々木 直哉
    株式会社日立製作所研究開発 グループ技師長
開催日時 2019年2月27日(水) 13:30~19:30
開催場所 公益財団法人 国際高等研究所
住所 〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
概要 科学技術の進歩は、時間の経過とともに次第にその速さを急激に増し続け、我々を取り巻く環境を劇的に進化させています。特にAI、IoT、ビッグデータの進展により、スーパーコンピュータは、これまでの高性能科学技術計算への利用に留まらず、爆発的に増え続けるビッグデータや人工知能の研究分野への応用も可能となって来ました。
第29回会合では、次世代ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)を取り上げ、世界トップの性能と先端的な応用で日本のHPC研究開発を牽引されている松岡聡氏に、次世代のHPC技術の最新動向と、ビッグデータ・AIへの適応とその可能性についてご説明頂きます。また、昨年日本機械学会の会長に就任され、日本最大級の学術専門集団を率いられている佐々木直哉氏より、産業界におけるHPCを活用したシミュレーション技術の可能性とその課題についてご説明を頂きます。
次世代ハイパフォーマンスコンピューティングの最新技術動向や先進事例と今後の展望に触れて頂くことによって、新たなテクノロジーがどのように活かされ、社会や我々の生活が如何に革新していくのか、分野を超えた研究者・技術者、企業の様々な立場の皆様にも非常に興味深く、大いに参考にしていただけるものと期待しています。
共催、後援、協力 【後援】 国立研究開発法人理化学研究所

タイムテーブル

13:00
受付開始
13:30-14:50
「ポストムーア時代に向けてAIやビッグデータ解析を加速する次世代HPC」松岡 聡 理化学研究所計算科学研究センター センター長
15:00-16:20
「これからのシミュレーション技術における課題と期待」佐々木 直哉 株式会社日立製作所研究開発グループ技師長
16:30-17:50
インタラクティブ・セッションご登壇者(松岡聡氏、佐々木直哉氏)
上田 修功「エジソンの会」スーパーバイザー 
18:00-19:30
懇親会
主催者による記録・広報等のため、本イベントの写真撮影・録画・録音、オンライン配信、ソーシャルメディア配信等を行う場合がございますので、予めご了承ください。

当日の様子

けいはんな「エジソンの会」第29回会合は、「次世代ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)」というテーマで開催致しました。
 スパコンの進化は、シミュレーション技術だけではなく、AIやビッグデータ解析を加速させており、POST「京」の成功により、日本の半導体が再び世界をリードすることに大きな期待を持ちました。ただ、シミュレーション技術が新しい製品やサービスを生み出す原動力となる一方で、既存の企業・機関が新たな価値を創出し、産業界における新たなものづくりへと転換させていくためには、まだまだ多くの課題が残されており、産業界を始め、国を挙げて課題を克服していく必要があると認識しました。
POST「京」が日本のものづくりを復興してくれるであろうことを心強く感じるとともに、来るべきポストムーアの時代においても、日本が世界を牽引してくれるであろうとの期待が高まった会合でした。
ご講演頂いた内容は下記の通りです。

「ポストムーア時代に向けてAIやビッグデータ解析を加速する次世代HPC」

松岡 聡 理化学研究所計算科学研究センター センター長

昨今、スパコンはシミュレーション技術だけでなくAIやビッグデータ等のデータ科学を駆動するインフラとして主動している。
「京」は、スパコン性能指数Graph500では過去6期連続世界1位、HPCGでは3期連続世界1位を獲得し、多くの分野で成果を上げている。しかし、大規模構成であり、インテルCPUと比較すると優位性が低く、また電力性能も劣っており、汎用シミュレーションには特化していなかったため、商業的には失敗したといえる。
POST「京」は、「京」の単なる後継機という位置付けではない。高速メモリと高メモリバンド幅を備えた独自の高演算性能の汎用CPUを採用し、高い省電力で高効率のグリーン性能を実現する。また、年間30億個の生産量を誇る巨大なエコシステムを有するARMプロセッサを採用することで、スパコン・クラウドからIoTまでグローバルデファクトスタンダードの実現を可能にし、半導体市場やITテクノロジーでも世界をリードする画期的マシンとなるだろう。POST「京」は、商業的に成功することに留まらず、新たなCPUが市場を席捲し、日本の半導体ビジネスの復活につながることを期待している。
POST「京」は、代表的なアプリケーション(アプリ)特性を加味したシステム設計とそれに適したアプリの最適化を図り、システムとアプリの協調的な開発手法Co-designを採用することで、「京」に比べて100倍以上の性能向上を実現する。代表的なアプリとしては、複雑なタンパク質のシミュレーション、気象・気候変動の予測、心臓の正確な動悸シミュレーションによる病理の解析、観測とシミュレーションによるゲリラ豪雨予測など多くの例が挙げられる。
現在のAIは、学習データ量を増やすほど精度が上がるため、ディープニューラルネットワークによる大量の計算を行うスパコン等の情報基盤技術が必要不可欠であり、HPCの進化はAIの進展をますます促進させていくものといえよう。
昨年8月より、オープン・イノベーション・プラットフォームとして、AI Bridging Cloud Infrastructure (ABCI)の運用を開始した。シミュレーションだけではなく、AIの分野でも世界のトップに位置づけられる高い性能を実現している。
ポストムーア時代の新しい性能向上の源泉は、短期的には最新の光技術やデバイス技術を使ってメモリ帯域を上げることにあるが、長期的には数値解法を根底から見直し次世代アーキテクチャー向け解法を特化型アーキテクチャーで加速させることにある。短期、中期および長期的な対応をうまく組み合わせ、少なくとも今後20年から30年の間は、ムーアの法則の限界を克服していくことが我々の研究所の使命である。
POST「京」は様々なアプリケーションの礎となるだろうが、将来的にはムーアの法則の終焉に対する対応が必要となる。我々はこれをチャンスと捉え、いち早く対応することで、日本のHPCが次世代のITを席捲し、世界をリードすることに貢献していきたい。

「これからのシミュレーション技術における課題と期待」

佐々木 直哉 株式会社日立製作所研究開発グループ技師長

スパコンによる計算科学シミュレーション技術は、コンピュータ性能の大幅な向上や物理モデルの高精度化、解析知識の蓄積により大きく進化し、解明できる分野が飛躍的に拡大すると同時に、最適化手法による開発期間・コストの大幅な削減が期待され、AIや機械学習による新たな展開を迎えている。産業界は理論的根拠に基づくアプローチが不可欠であり、新しいシミュレーション技術へ挑戦し、複雑系問題への対応、製造技術との連携、社会シミュレーションへの展開を図っている。
シミュレーションの効果を上げるためには、現象モデリングをどうするか、結果をどのように解釈するかなど多くの課題がある。また、複雑系の問題を解くためには、相反する条件から満足する解を求める際に、シミュレーションでどのような見せ方をするかなど多くの課題がある。そこでは、設計者/研究者の知恵を如何に誘発させるかが重要となる。また、設計知識としての解析モデル・異なったデータ・異なった視点や着眼点・異なった目的や課題設定が差別化のキーポイントとなる。
一方、高度なシミュレーションが必ずしも現実の問題解決には結びつかず、シミュレーション技術はツール化、コモディティ化し、貢献度においては製品開発の成功との相関を定量化することが非常に難しい。シミュレーション手法の限界を十分に認識した上で、解析品質を向上させる多様なアプローチを行い、課題設定も含めたモデリング技術の向上とV&V (Validation&Verification)との連携が重要である。
社会の様々なニーズにきめ細かく対応可能な新しいものづくりを行うためには、従来の品質や性能の向上に加えて、顧客の「喜び」「魅力」「驚き」を加味したデライトな製品を作る、高付加価値なものづくりに移行していかなければならない。そこでは、新しい価値を生み出し、社会課題からシミュレーションや理論・モデルの新しい考え方を発想し、従来になかった計測の実現と、新しい視点でのデータ活用を行うアプローチが求められる。
我々は、機械の機能を人に当てはめて価値を創出する従来のやり方を変え、新しい価値探索を担う計算科学を用いて、AI、機械学習、IoTセンシング等を通した人と機械の様々な関係性の相互作用から、多様な価値を創出出来るようにしていくことが求められている。

[インタラクティブ・セッション]

日本のモノづくりの転換点、開発サイド・ユーザーサイド間の要望、製造業のスマートサービス化とデザイン、センサー性能の限界と向上策、イノベーションメソッド、人流シミュレーション、スパコン利用の促進策、データ・シミュレーションの情報公開による活用の向上、異分野ネットワークの在り方、日本の研究開発と国際競争力など多岐にわたる意見交換がなされました。

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