第41回 けいはんな「エジソンの会」
開催概要
宇宙の未来 ~宇宙の可能性と宇宙ビジネスの最前線~
講師 |
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開催日時 | 2022年12月23日(金)14:00~17:45 |
開催場所 | 公益財団法人国際高等研究所 |
住所 | 〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地 |
概要 | 太古の昔より我々人類は星空を眺め、その先にあるものを夢見、遥か先の未来に思いを馳せて来ました。 1961年ボストーク1号が初めて人類を宇宙に運び、その8年後にはアポロ11号が人類を月面に運びました。その後も人類は宇宙への果敢な挑戦を続け、最新科学技術とともに進化してきましたが、これまで超大国のリードのもとに進歩してきたと言っても過言ではありませんでした。 第41回会合では、宇宙開発で世界をリードし、自らが超小型衛星開発で多くの成果を有し、後進の指導・育成でも日本の宇宙産業を牽引されている中須賀真一氏より、宇宙開発が秘める大きな可能性と宇宙ビジネスがもたらす未来の生活や社会について、日本が誇る最先端技術のご説明を通してお話を頂きます。 企業からは、合成開口レーダー(SAR)衛星から地球を見つめ、新たな情報によるイノベーションで持続可能な未来を目指す新井元行氏より、次世代の小型衛星開発と衛星データ活用の最前線についてお話を頂きます。また、学生時代より超小型衛星の開発に携わり、現在はスタートアップで宇宙の持続可能性(スペースサステナビリティ)の実現を目指す伊藤美樹氏より、軌道上サービスの技術開発動向と今後の展望についてお話を頂きます。 宇宙ビジネスの現状と今後の潮流に触れ、宇宙の未来を見つめることで、開かれた宇宙の可能性について、ご登壇者と議論しながら一緒に考えてみませんか。 |
配布資料 |
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共催、後援、協力 | 【後援】 国立研究開発法人理化学研究所 公益財団法人関西文化学術研究都市推進機構 |
当日の様子
今回、宇宙の可能性を「小型衛星開発とその周辺の領域」にフォーカスして会合を開催しました。日本の小型衛星開発は、これまでの常識を覆す「超軽量」「安価」「高品質」を可能とし、世界をリードする領域であること、またその背景には日本のこれまで培ってきた「モノづくり」のノウハウや技術がベースにあって実現できたことを知りました。
会合の最後に、弊所所長の松本紘より、日本の宇宙開発を支える中須賀教授と、果敢に宇宙開発に挑む2社のスタートアップ企業に謝意を表すとともに、宇宙は時間・空間を超えて対象となる領域が広く、今後の益々の展開へ大きな期待を寄せて会合を終えました。
今回、初参加の高校生や大学生からも活発な質問や意見が出され、登壇者と会場とのやり取りは大いに盛り上がりました。
ご講演いただいた内容は下記の通りです。
「宇宙が社会に貢献する未来を見据えて ~超小型衛星の新しい潮流と宇宙 ビジネスの今後~」
中須賀 真一氏
東京大学大学院工学系研究科 航空宇宙工学専攻
教授

我々は、通信放送衛星や「ひまわり」で有名な地球観測衛星、測位衛星、宇宙探査衛星等、多くの衛星の恩恵に預かっており、日々の生活からは切り離せない存在になっている。
世界の宇宙産業の規模は、2018年当時で40兆円、2050年には200兆円を超えると予想されているが、全体の約7割は米国が占めている。米国では、政府がアンカーテナントとして民間からサービスを調達し、民間企業を育て、チャレンジや投資を引き出す体制が整っているが、日本では全く整っておらず、これまで官需率は92%と政府中心の宇宙開発が行われてきた。
昨今、世界の宇宙開発において二つの大きなゲームチェンジが起こっている。一つは、超小型衛星技術の進展で、小型衛星コンステレーションによる低価格化の実現と小型衛星から得られるデータ量の飛躍的な増大である。もう一つは、SpaceX社の有人宇宙船打上げに代表される「民」主導による研究開発である。
実は、超小型化は日本のお家芸であり、世界に先駆け、2003年東京大学で1㎏(世界最小)の衛星の打ち上げと運用に成功し、その後大学連携組織を通じて19年間に55以上の大学衛星を打ち上げた。直近では11㎏の衛星で深宇宙・月探査を目指している。
また、超小型衛星の開発は、人材育成の上でも非常に大きな効果がある。弊所では、これまで120名を超える研究者を育成してきたが、初期の設計から開発、試験、運用までの一貫したモノづくりをベースにして、時間、人、コスト、リスクをマネジメントする絶好の訓練の場となっている。
超小型衛星から地球の画像を安価に且つ頻繁に撮ることにより、植物の収穫高の予想や山岳部の変化による土砂崩れ、道路の寸断、自然災害の影響等を把握することができるようになった。特に大災害では、発生後12時間以内の初動に必要な探索情報や高分解能での監視が必要となり、短い時間ごとの小型コンステレーションからの画像利用が対応の成否を分けるため、日本の防災面からも欠かせない。
昨今の日本の状況を見ると、スタートアップ企業と多くの投資家、特に異業種の大企業からの投資が増大しており、様々な民間の宇宙ビジネスが拡大している。産業構造上、ロケット、衛星の製造打ち上げは寡占化が進み、且つビジネス全体から見るとシェアはあまり大きくないため、宇宙ビジネスを拡大させるためには、通信・放送、データ活用等のサービス提供のウエイトを増やすことが今後必要となる。
宇宙は地球規模の課題・社会問題の解決に大きく貢献し、宇宙の役割は飛躍的に増していくだろう。将来の社会のビジョンを見据えながら、そこに宇宙がどのように貢献していくかということを我々は熟慮し、地球人としての視野で宇宙開発を進めて行くことが求められる。
「次世代の小型衛星の開発と観測データの活用 ~災害・環境、社会イン フラのリスクから人類を守る~」
新井 元行氏
株式会社Synspective
代表取締役CEO

弊社は創業5年目を迎え、小型レーダー(SAR)衛星の開発・運用と、そこから得られるデータの解析をソリューションとして手掛ける企業である。データの解析については、小型レーダー(SAR)衛星から得られる、天候や時間に左右されない「広域」で「一様」で「複合的」な地表面の観測データをもとに膨大なデータ解析を行い、データサイエンスや機械学習をはじめとする最先端のテクノロジーを活用して、地球の環境変化や経済活動を継続的に俯瞰する科学的アプローチを行っている。
私は創業以前に、技術支援や持続可能エネルギーの導入、広大な砂漠でのプラント敷設など、途上国を中心に様々なソーシャルビジネスを手掛けてきた。その中で得た大きな気づきは、データに基づく課題理解と再現性のある行動の重要性であり、技術の実装を通じて、いかに社会を変えていくかという視点である。いくら素晴らしいプロジェクト設計や成果が生まれても、それが有意な課題解決策として、再現可能な形で拡がっていかなければ、地球規模の社会課題へは根本的な解決につながらないからである。
データに基づき、実態をしっかりと認識するために、データドリブンによるアプローチが必要であり、また社会を変えるには、専門家が集まり、意見交換をしながら集合知に変えていくコレクティブラーニングの手法が重要となる。
弊社は、新たなデータとテクノロジーによって人々が能力を最大限に発揮し、より持続可能な未来に向けて具体的な進歩を遂げる”Learning world”を実現することをミッションとし、29ヵ国から構成される多様な文化を持った社員とグローバルな視点で、様々な社会課題を解決するためのサービスを提供していく所存である。
「持続可能な宇宙環境の実現を目指して ~宇宙のロードサービス確立への 取組み~」
伊藤 美樹氏
株式会社アストロスケール
代表取締役

宇宙空間を利用した様々な取り組みの中で、特に人工衛星から送られるデータは、我々の生活に密接に関り、社会から切り離すことが出来ない存在となっているが、打ち上げられた人工衛星やロケットの爆発や衝突で生じる破片などがデブリとなり、重大な問題を引き起こしている。今後も益々宇宙利用は拡大基調にあり、宇宙環境はさらなる悪化の方向へ向かっている。
地球上では、車の故障や点検、保守、修理、事故等へ対応するためにロードサービスがあるが、宇宙には、そのようなサービスは存在せず、衛星の乱立とデブリの問題に対応するため、軌道上サービスが注目を浴びてきた。
軌道上サービスの今後10年間の累計市場規模が2兆円と言われているが、弊社は軌道上サービスを核として、持続可能な宇宙環境を作り出すことを目的に設立した。軌道上サービスには、(1)衛星運用終了時のデブリ化防止のための除去(これ以上デブリを増やさない)(2)既存デブリの除去(すでに軌道上にある大きなサイズのデブリを除去)(3)寿命延長(静止軌道において寿命を迎えるなどした衛星へのサービス)(4)故障機や物体の観測・点検(軌道上の物体の特性を理解するためにデータを取得)、が挙げられる。
弊社は、衛星の組み立て・試験、ロボットアーム、誘導制御技術・アルゴリズム、管制センターでの運用など全て自社開発で行っており、2021年には世界初の商用デブリ除去技術実証衛星を打ち上げた。
持続可能な宇宙環境を作るためには、単純に技術のみの対応では実現が難しく、国際機関や業界団体、各国政府とのルール作りが欠かせない。弊社は、規制、ポリシー、基準に関するグローバルな論議に密接に関わりながら、持続可能な宇宙開発の実現に取り組んで行きたい。
[インタラクティブ・セッション]
日本のモノづくり技術と小型衛星開発、イノベーションと風土、教育制度とチャレンジ精神、宇宙技術の革新と未来への繋がり、宇宙ビジネスベンチャーへの投資、宇宙産業の構造と今後の展望、衛星データと安全保障、軍事産業としての宇宙ビジネスなど、様々な視点から活発な議論がなされました。
特に、兵器・軍隊・物流などのリアルタイムな動きが衛星から捉えられ、世界中がガラス張りの状態になることで、安全保障の面からは大きな抑止力が働くのではないかとの中須賀先生の発言は、現在不安定な世界情勢の観点から非常に印象に残りました。
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インタラクティブ・セッションの全体の様子 -
インタラクティブ・セッションにおける講演者3名