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第26回 けいはんな「エジソンの会」

開催概要

材料インフォマティクス~革新的材料開発と最先端技術~

講師
  • 船津 公人
    東京大学工学系研究科化学システム工学専攻 教授
    奈良先端科学技術大学院大学データ駆動型サイエンス創造センター 研究ディレクター
  • 津田 宏治
    理化学研究所革新知能統合研究センター分子情報科学チーム チームリーダー
    東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻 教授
開催日時 2018年10月24日(水) 13:30~19:30
開催場所 公益財団法人 国際高等研究所
住所 〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
概要 新素材や新たな合金の開発は産業を支える基盤であり、これまでは理論と実験の積み重ねによって途方もない時間を費やして開発されてきました。しかも、元素の種類や量などの組み合わせは膨大にあり、目的に合った材料を開発することは非常に困難でした。そして今、コンピュータ科学の進展と人工知能の活用など情報科学の進化により、より効率的な材料開発を行なう材料インフォマティクスという取り組みがはじまっています。
第26回会合では、日本化学会情報化学部会長を務められ、データ駆動型化学において最も歴史と権威のあるアメリカ化学会の2019 Herman Skolnik Awardを受賞された船津公人先生より、材料インフォマティクスによるデータ駆動型科学の最新動向と今後の展望についてご説明を頂きます。また、津田宏治先生には、分子情報科学の立場から人工知能を活用した材料開発研究の最新技術をご説明頂きます。

第4の科学として材料開発を革新する材料インフォマティクスの動向と最新技術を学ぶことによって、産業界のみならず、我々を取り巻く社会や環境がどのように進化していくのか、分野を超えた研究者・技術者、企業の様々な立場の皆様にも非常に興味深く、大いに参考にしていただけるものと期待しています。
配布資料
講師:船津 公人 「ケモ/マテリアルズインフォマティクスの現状と将来における展望」
PDF [3 MB]
講師:津田 宏治 「Automatic design of functional molecules and materials」
PDF [14 MB]
共催、後援、協力 【後援】国立研究開発法人理化学研究所

タイムテーブル

13:00
受付開始
13:30-14:50
「ケモ/マテリアルズインフォマティクスの現状と将来における展望」船津 公人 東京大学工学系研究科化学システム工学専攻 教授
奈良先端科学技術大学院大学データ駆動型サイエンス創造センター 研究ディレクター
15:00-16:20
「人工知能技術を用いた新しい分子・物質の発見」津田 宏治 理化学研究所 革新知能統合研究センター分子情報科学チームチームリーダー 
東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻教授
16:30-17:50
インタラクティブ・セッションご登壇者(船津公人氏、津田宏治氏)
上田 修功「エジソンの会」スーパーバイザー 
18:00-19:30 
懇親会
主催者による記録・広報等のため、本イベントの写真撮影・録画・録音、オンライン配信、ソーシャルメディア配信等を行う場合がございますので、予めご了承ください。

当日の様子

けいはんな「エジソンの会」第26回会合は、「材料インフォマティクス ~革新的材料開発と最先端技術~」というテーマで開催致しました。
 ケモ/マテリアルインフォマティクスは、幅広い分野への活用が期待でき、応用が可能であることを理解しました。材料・デバイス系ものづくりにおいては、乗り越えなければならない大きな障壁があるため、基礎研究をイノベーションへ発展させていくことは、非常に難しい状況でした。従来の手法に加え、第3のパラダイムの計算科学がデータ科学と融合することにより、第4のパラダイムとしてケモ/マテリアルズインフォマティクスが注目を集め、イノベーションの発展に大きく寄与して行くであろうことを学びました。
一方で、パラダイムが大きく変わる転換期において、我々自身の考え方も大きく変えていかないといけないこと、また研究分野に通じ、且つデータ科学に通じる人材が希少であり、早急に人材育成に取り組まなければならないことを実感しました。ご講演頂いた内容は下記の通りです。

「ケモ/マテリアルズインフォマティクスの現状と将来における展望」

船津 公人 東京大学工学系研究科化学システム工学専攻 教授、奈良先端科学技術大学院大学データ駆動型サイエンス創造センター 研究ディレクター

材料やデバイス系のものづくりにおいては、異なるスケールの物性をシミュレーションすることが必要であり、分子レベルに対しては第一原理計算による理論を用い、サイズが大きくなる場合は実験データによるモデル化を経験的に行って対応してきた。しかし、材料と個々のプロセス装置は相互関係が強く、複合化による物性の評価が難しいため、解析が不十分で感性と経験に依存せざるを得なかった。しかし、この過程で得られる膨大な実験データを蓄積し、シミュレーションすることができれば、課題解決の有力なツールになり得る。従来の理論-実験-シミュレーションとそこから得られたデータを活用するデータ科学を連携・融合させることで、材料やデバイスの開発が加速し、より効率的なプロセスの開発を実現することができるようになる。
材料開発でボトルネックになっている要素は多々あるが、データに注目すると、有機材料については、材料データが企業内部にあり、公開されていないものが多く、複数の素材からなる材料では、入手できるデータが極めて少ない。そのため、高次構造を予測できる計算科学の技術と計測技術の進歩が必要となり、かつ複雑な材料データを整理し、データベース化していくことが求められる。無機材料については、半導体、耐熱材料など、組成を連続的に変化させた状態のデータが不足しており、一つの材料が複数の特性を示すことや、データの蓄積に時間が掛かることから、有機材料に比べ、さらに深刻な状況となっている。
ケミストリーは帰納的学問であり、これまで物性や特性をデータの相関関係を見ながらモデル化し、頭の中でデザインして予測した上で実験を行い、その結果からモデルに修正を加え、その上で再度実験を行うことを繰り返してきた。実験・測定・計算結果で得られたデータに関係性を見い出し、情報に変換することで、そこから抽出して得られる知識を予測と設計に繋げることが、ケモインフォマティクスの目指すところであると言える。
ケモインフォマティクスは、構造・物性相関モデルを構築し、モデルの逆解析による目的物性を満足する材料・分子構造候補を創出するだけでなく、構造発生をドライビングフォースとして、モデルを制約条件とする候補構造の創出にも期待されている。
今後は順方向予測や解析を行う量子科学計算と、情報科学を駆使するデータ駆動型化学を融合して進めることにより、材料・デバイス系ものづくりに立ちはだかるいくつもの障壁を乗り越え、産業界のイノベーションの推進にさらに貢献して行きたい。

「人工知能技術を用いた新しい分子・物質の発見」

津田 宏治 理化学研究所 革新知能統合研究センター分子情報科学チームチームリーダー、東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻教授

経験科学、理論科学、計算科学に代わる21世紀の科学としてデータ科学が注目されている。
計測技術の発達とインターネットの利用により、多種多量の情報をやり取りできることで、これまでのように直感や経験から仮説を立てるのではなく、網羅的にデータを取って、そのデータからの知識発見に基づいて仮説を生成し、検証することが可能となってきた。そこには多くのデータが関わってくるので、機械学習が非常に重要な手法となっている。
材料インフォマティックスは新しい材料を人間が作るのではなく、いろいろな材料の候補の中から機械学習が推薦したものに関してシミュレーションを用いて物性を計算するような自動設計の研究を目指している。量子力学計算を用いた非常に精巧なシミュレーションと機械学習を組み合わせることで、非常に強力なツールが構築でき、そこに実験を組み合わせたフレームワークを作ることで、新たな材料を創出していきたいと考えている。本日は、自動設計の中で、特にナノ構造の設計、有機分子の設計、タンパク質の設計を取り上げたい。
ナノ構造の設計については、シリコンとゲルマニウムの配分で熱伝導度の最大化、最少化を図る場合、12,870通りの組み合わせが考えられるようなケースにおいて、ベイズ最適化により機械学習を用いた実験計画を構築した結果、全組み合わせの3,4パーセントに当たる実験を行えば、確実に良い結果が得られることが分かった。さらにベイズ最適化のライブラリーを作成し、ハイパーパラメータの設定を自動化して、材料科学者にも使い易くするアプローチも行った。また、1回の設計に長時間かかる問題については、モンテカルロ探索木が有効であることも判明した。
有機分子の自動設計においては、ある物性値を指定して、その物性値を持つような有機分子を作るにあたって、SMILESという記述形式で分子構造を文字列で表した上で、確率的言語モデルを用いて文字列のパターンを学習させる。それにより文字列の生成には、自動翻訳や自然言語処理の進展に見られるような、ディープラーニングによる言語認識・生成を活用した設計手法が有効であり、従来と全く異なるアプローチが可能となってきた。
最後に、タンパク質の自動設計であるが、20種類のアミノ酸の鎖から構成されるタンパク質に変異を導入して機能強化を図る手法を用いており、従来の手法ではランダム変異の入ったタンパク質から取得した特性データから優れたタンパク質を選択する手法を採ってきたが、新たなAI支援のタンパク質工学のプラットフォームでは、特性データを訓練データとし、機械学習モデルを学習し、そのプロセスによって設計した幾つかのタンパク質を推薦し、実験と評価を繰り返すことにより、効率的に短時間で優れたタンパク質を得ることが出来る。
このように、物質設計は、人工知能技術と機械学習によって加速可能であり、それをシミュレーターだけではなく、実験的にも示すということを目標に実行してきた。その結果、成果を示すことができたと考えており、今後は、産業的に重要な医療や酵素などに適用していきたい。

[インタラクティブ・セッション]

ケモ/マテリアルズインフォマティクスの今後の具体的な展開分野と利用用途、成功例と失敗例、インフォマティクスの進展と人の役割、日本の優位性と国際競争力、教育と人材育成、物性予測と深層学習の今後の可能性、材料自動生成の今後の展開、アルゴリズムと特許問題など、多岐にわたる意見交換がなされました。

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