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第34回 けいはんな「エジソンの会」

開催概要

未来を拓く最先端医療~ゲノム解析・個別化医療・生体シミュレーション・IT創薬~

講師
  • 奥野 恭史
    京都大学大学院医学研究科 ビッグデータ医科学分野 教授 
    理化学研究所 科学技術ハブ推進本部 医科学イノベーションハブ推進プログラム 副プログラムディレクター
  • 油谷 幸代
    産業技術総合研究所 生体システムビッグデータ解析オープンイノベーションラボラトリ 副ラボ長
開催日時 2019年12月17日(火)14:00~18:30
開催場所 公益財団法人国際高等研究所
住所 〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
概要 AI、IoT、ビッグデータ等、科学技術の飛躍的な進化とともに我々の健康を支える医療分野にも革命が起こり始めています。ヒトゲノムの解析により、人の遺伝情報が99.99%解き明かされ、これまで生命の神秘と思われてきた生体の謎の数々に迫る新たな挑戦が始まっています。
第34回会合では、シミュレーション科学とAIを駆使した創薬の新たな方法論の開発や医療応用で我が国を牽引されている奥野恭史氏より、ゲノム医療、個別化医療、画期的新薬の効率的な創製、生体シミュレーションによる予測医療等についてご説明頂きます。また、生体データの情報解析に精通するバイオインフォマティクス研究者として、最先端医療の産業化に取り組んでおられる油谷幸代氏より、ゲノム解析や生体データ解析を通した機能性物質の効率的な生産、疾病メカニズムの解明、創薬の探索等についてご説明頂きます。
これからの医療をリードし、未来を切り拓く最先端医療の現状と今後の可能性に触れて頂くことにより、分野を超えた研究者・技術者、企業の様々な立場の皆様にも大いに参考にしていただけるものと期待しています。
配布資料
第34回「けいはんなエジソンの会」チラシ
PDF [269 KB]
油谷 幸代氏「ライフ・テクノロジー ~生体ビッグデータの解析を通して、健康で安心・安全な 生活を実現する~ 」
PDF [3 MB]
共催、後援、協力 【後援】 国立研究開発法人理化学研究所
     公益財団法人関西文化学術研究都市推進機構

タイムテーブル

13:30
受付開始
14:00-15:00
「AI・シミュレーションが拓く創薬・医療の未来」奥野 恭史 
京都大学大学院医学研究科 ビッグデータ医科学分野 教授 
理化学研究所 科学技術ハブ推進本部 医科学イノベーションハブ推進プログラム 副プログラムディレクター
15:10-16:10
「ライフ・テクノロジー ~生体ビッグデータの解析を通して、健康で安心・安全な 生活を実現する~ 」油谷 幸代 
産業技術総合研究所 生体システムビッグデータ解析オープンイノベーションラボラトリ 副ラボ長
16:20-17:30
インタラクティブ・セッションご登壇者(奥野恭史氏、油谷幸代氏)
上田 修功 エジソンの会スーパーバイザー
17:40-18:30
情報交換会

当日の様子

科学技術の発展により、医療分野においても様々な取り組みが行われています。医薬品開発においてはAIを活用した生体ビッグデータ解析や画期的な創薬プロセスの効率化や精度向上、システム生命学による生命の神秘を解き明かす研究が行われており、研究の成果には目を見張るものがありました。研究を進めていく上で、まだまだ未知の部分や課題が多いと認識しましたが、今後、ゲノムの変異や未病の予測、腸内細菌叢の働き、シミュレーション技術等の研究が着実に進み、「人生100年時代」の幕開けを実感する会合でした。   

「AI・シミュレーションが拓く創薬・医療の未来」

奥野 恭史  
京都大学大学院医学研究科 ビッグデータ医科学分野 教授
理化学研究所科学技術ハブ推進本部 医科学イノベーションハブ推進プログラム 副プログラムディレクター

日本は米国、スイスに次ぎ世界第3位で、アジアでは唯一の新薬開発国であるが、製薬業界は膨大な開発期間と開発投資の問題を抱えており、世界の雄であり続けるためには、AIによる徹底的な効率化と成功確率の向上が必要である。IT業界とライフ業界のAI開発でのマッチングを促進させ、産業競争力を加速させるため、2016年に産学AIコンソーシアム(LINC)を立ち上げた。現在110を超える団体が参加し、ライフサイエンス分野のAI、ビッグデータ技術開発を行っている。
医療品開発は、個々の異なった専門領域のバトンをつないでいくプロセスであり、全プロセスに約30種のAIを並列で開発し、プロセスの自動化とナレッジに基づく推論により、「はやい(時の共有)、やすい(金の共有)、うまい(知の共有)」を実現していく計画である。
LINCでは、有望提携先や研究テーマの自動探索の提供を始めた。個々の研究テーマから研究者のランキング表示や知見、論文・共著者名等の検索に繋げることが可能となり、企業にとって有益な情報となっている。また、従来の創薬では、製薬現場が薬効成分を見つけるためにモグラたたき型の医薬品設計を行ってきたが、AIを活用した分子設計とその評価の予測に基づく探索に移行することで、包括的な同時最適化を図ることが可能となる。タンパク質と化合物の結合についても、AIが公開データを学習し、タンパク質名を入力するだけで、適した化学構造を自動デザインし、自動生成することも可能となってくる。
弘前大学で15年以上にわたり取得した健康人のデータを基に、病気になる前後の状態データを解析した。未病の予兆をAIに識別させることで、代表的な生活習慣病疾患については発症の予測がほぼ可能であることが判明している。ただ、AIは予測した理由を説明できない(ブラックボックス化)という問題を抱えており、ベイジアンネットワークを利用した説明可能AIの研究も行っている。同じ疾患でも個々に原因が異なるので、データから統計的な関係性を見つけ、原因を客観的に示すことが出来れば、個人の発症の原因も明らかにすることが可能になると考えている。
最後に、ゲノム医療であるが、標準治療では大半の患者に薬効が認められないため、ゲノム情報をAIに読ませ、大量の文献や関連DB情報の学習とスコアリングで推論させるが、治療薬が見つかるのは全体の1割程度に留まっている。ゲノム情報だけでは薬剤耐性が変化し、薬が効かなくなる状況が発生するため、スパコンで分子の変異をシミュレーションし、学習データをもとに薬剤の反応の予測モデルを生成することで、特徴量の具現化と因果推論が可能になると考える。
これらの研究を通して、プロセスごとに異なるAIを連結、統合させ、AIのアウトプットが次のAIのインプットにつながり、ターゲットの探索から創薬の指針まで誘導してくれる「究極のIT創薬」のプロトタイプを2030年までに作り上げ、医療品開発で世界をリードしていきたい。

「ライフ・テクノロジー ~生体ビッグデータの解析を通して、健康で安心・安全な生活を実現する~」

油谷 幸代
国立研究開発法人産業技術総合研究所 生体システムビッグデータ解析オープンイノベーションラボラトリ 副ラボ長

我々のラボでは、世界標準となる新規生命情報解析技術の開発を行っているが、公開されている生命系データ量は日々指数関数的に伸びており、測定技術ありきでデータを得て、溜まったら解析する従来の直線的な解析手法だけでは限界がある。新たな知見を高めていくためには、解析を前提としたデータ取得を行い、PDCAを回すサイクル型研究体制に移行していかなければならない。
これまでのゲノムシークエンスデータ解析では、何万という遺伝子と億単位の塩基を検索、比較、検証する必要があり、膨大な組み合わせとなっていたが、個々の構成部品を解明するだけでは生命システムの解明には繋がらなかった。統合オミクス解析により生体内分子を網羅的に調べ、システマティックに測定された様々なデータから生体情報を観測し、遺伝子とタンパク質、代謝産物など、異なった階層間での相互作用を推定し、疾病や健康状態等の生体状況と各種オミクス情報を統合的に解析することにより、生命をシステムとして捉える新しい生命科学(システム生命学)に取り組んでいる。
 シーズ開発に当たるところの配列情報解析では、機能がほとんど不明のタンパク質にならないRNA(非コードRNA)と疾病メカニズムとの関係について研究を行っており、医薬品開発のイニシャティブを取れる可能性があるのではないかと期待している。
また、AIを活用することで、バイオ医薬品、酵素など様々な機能性タンパク質の開発を加速させ、タンパク質の機能改善や疾患のゲノム配列の発見を通して、次世代配列解析技術の医療分野への応用に結び付けていきたい。
昨今特筆すべき研究としては、生体腸内細菌叢の働きがあり、脳との相関・因果関係を解析中である。時間栄養学に基づいた解析からは、免疫・生活習慣病・肥満等の解明を通して、高機能製剤開発に繋げていきたい。
これらの取り組みは、遺伝子機能がわからなくても解析が可能であり、理論値ではあるが今までターゲットにならなかったものもターゲットにすることで、従来にない新たな発見へと繋がっているとの評価を得ている。今後もネットワーク構造解析を通した生命システムの設計図の構築、微生物生産モデルの構築や全体がいつどのように動作しているかといった動態解析を通して、生命現象のメカニズムをシステムとして理解して、疾病の解明や創薬の発展に貢献していきたい。

[インタラクティブ・セッション]

医療データ解析での現場と解析者とのコミュニケーションの難しさや、今もっとも注目されている腸内細菌叢と疾病との関係、AIの導く結果に対する説明責任の問題、「匠の技」の「暗黙知」をどのようにデータベース化するのか、大量データを前提とした米国や中国とは一味違う日本のAI戦略の進め方など、多くの議論がなされました。最後に当会合のスーパーバイザーを務めている上田修功先生(理研AIPセンター副センター長)より、一昨日までバンクーバーで開催されていた人工知能学会でのキーノートとして、「Out of Distribution」(分布外検知)による次の段階へのAI進化の予兆について紹介がありました。参加者の方々には大いに参考になったものと思います。

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