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第38回 けいはんな「エジソンの会」

開催概要

人と機械の未来 ~ムーンショット型研究開発によるアプローチ~

講師
  • 福田 敏男氏
    名古屋大学名誉教授 
    名城大学教授 
    早稲田大学特命教授
  • 粕谷 昌宏氏
    株式会社メルティンMMI 代表取締役
開催日時 2022年3月2日(水)14:00~17:30
開催場所 公益財団法人国際高等研究所
住所 〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
概要  今、我が国は超高齢化や大規模自然災害、地球温暖化問題など、様々な困難な課題に直面しています。こうした課題に対し、「Human Well-being(人々の幸福)」を目指し、その基盤となる社会・環境・経済の諸課題を解決するために、破壊的イノベーションの創出、従来の延長にない、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発制度(ムーンショット型研究開発)が創設されました。
 第37回会合では、ロボット工学の世界的権威であり、世界のロボット研究を牽引され、昨年IEEE会長を務められた福田敏男氏より、ムーンショット型研究開発の概要と、そこで取り組まれている「自ら学習・行動し、人と共生するロボットの実現」についてご紹介頂きます。また、先進的なサイボーグ技術を基に多くの企業・機関との実証実験を積極的に行っている注目のベンチャー企業で、2018年にForbesより世界の注目すべきアジアの30人に選出されたメルティンMMI社の粕谷昌宏氏より、医療と工学の融合による最先端ロボティクス技術とその取り組みについてお話を頂きます。
人が「身体」「脳」「空間」「時間」の制約から解放された社会の実現を目指し、サイバー空間と実空間に係る基盤技術の連携・融合を図る「人と機械の未来」を議論することにより、分野を超えた研究者・技術者、企業の様々な立場の皆様にも非常に興味深く、大いに参考にしていただけるものと期待しています。
配布資料
第38回「けいはんなエジソンの会」チラシ
PDF [789 KB]
共催、後援、協力 【後援】 国立研究開発法人理化学研究所
     公益財団法人関西文化学術研究都市推進機構

タイムテーブル

13:30
受付開始
14:00-15:00
「ムーンショット型研究開発によるアプローチ ~自ら学習・行動し、人と共生する ロボットの実現に向けて~」福田 敏男氏 
名古屋大学名誉教授 名城大学教授 早稲田大学特命教授
15:10-16:10
「身体と機械の融合による人類の可能性の最大化」粕谷 昌宏氏 
株式会社メルティンMMI 代表取締役
16:20-17:30
インタラクティブ・セッションご登壇者(福田敏男氏、粕谷昌宏氏)
上田 修功 エジソンの会スーパーバイザー
新型コロナウイルス感染拡大予防のため、今回は情報交換会を中止とさせていただきます。

当日の様子

第38回会合は、「人と機械の未来 ~ムーンショット型研究開発によるアプローチ~」というテーマで開催いたしました。
今回の会合を通じて、ムーンショット型研究開発という大きな挑戦を、国が総力を挙げて牽引し、研究開発への莫大な投資と学術界や多くの企業・機関を総動員して取り組んでいることを知りました。また、創業10年に満たない若い企業が、大きな使命を掲げ、サイボーグ技術で社会に貢献し、未来を変革して行こうする「強い志」と「熱意」を感じ、日本の未来に大きな期待と希望を持ちました。
ご講演いただいた内容は下記の通りです。

ムーンショット型研究開発によるアプローチ ~自ら学習・行動し、 人と共生するロボットの実現に向けて~

福田 敏男氏 名古屋大学名誉教授 名城大学教授 早稲田大学特命教授

福田敏男先生

 マルチロコモーションロボットとは,1台のロボットが、腕渡り、2足歩行、4足歩行などの複数の移動形態を、環境や状況に応じて自由に変えながら適応していくロボットのことである。私がこの研究を始めるきっかけは、名古屋モンキーセンターで、サルはバイオの観点から非常に興味深い動きをする動物であり、1989年頃からこの研究を始めた。 
 モンキーセンターでは、最初にサルの腕渡り動作を詳細に観察し、機械学習を取り入れ、ロボットに腕渡りをさせた。腕渡りは単純がゆえに非常に数式化しやすく、次にゴリラをまねてロボットの筐体をスケルトンで作り、「歩く」「走る」「止まる」などの移行スピードの上下を運動学や動力学で解決しながら、試行錯誤を繰り返し進めてきた。
 ロボットと人とは、知識やモビリティなど多くの非対称性があり、非対称性を何とかしようとする取り組みがドライビングフォースとなる。人生100年時代を迎えるに当たり、医療ケア、デリバリー、アバター、マテリアルズ、マイクロ/ナノの世界など、数多くの分野や領域で、今後益々機械と生物がフュージョンすることが必要になると感じている。       「ロボット」という言葉に違和感を持たれる方も多いが、私は、「メガネ」や、「補助器具」と同じように、「デバイス」と捉えてもらえれば良いのではないかと考える。
 内閣府が主導する「ムーンショット型研究開発制度」は、超高齢化社会や地球温暖化問題など重要な社会課題に対し、人々を魅了する野心的な目標(ムーンショット目標)を国が設定し、挑戦的な研究開発を推進するものである。我が国発の破壊的イノベーションの創出を目指し、2050年までにどのような社会を築きたいか、そのためには今何をしないといけないのかをバックキャスティングで考える大胆な取り組みである。
 私が担当している目標3の「AIとロボットの共進化」では、データ駆動型AIや知識推進型AIと高度に融合を図り、自らの身体を介して実世界の情報を自律的に取得・学習するAIロボットを目指している。その為には、エネルギー源、材料、通信、セキュリティ、ビッグデータ、ヒューマンインタフェース等の取り込みが重要となる。
 研究開発に当たり、プロジェクト1では、人が違和感を持たず、同等以上の身体能力を持ち、柔軟なハードウェアと多様な仕事を学習できる独自のAIとを組み合わせたロボット進化技術を確立し、一人に一台が一生寄り添う汎用型AIロボットにより、人とロボットの共生社会を実現する。
 プロジェクト2では、人の活動が難しい環境で、自律的に判断し活動するAIロボットを開発する。月面や被災現場など難環境で臨機応変に作業を行い、自然災害の応急復旧や月面基地の建設など、インフラ構築を革新する協働AIロボットの開発である。
 プロジェクト3では、人とAIロボットの創造的共進化によるサイエンスの開拓を目指す。自然科学の領域において、科学者と対等に議論しながら、自ら思考・行動し、自動的に科学的原理・ソリューションを産み出すAIロボットシステムを実現する。
 プロジェクト4では、活力ある社会を創る適応自在AIロボット群を開発する。個々のユーザーに合わせて形状や機能を変化させ、適切なサービスを提供する。人とロボットとの共生により、全ての人が参画できる活力ある社会の創成を目指す。
 個々の目標を実現するために、海外機関との連携を深め、社会実装を目指して積極的に企業との連携を図り、安心安全、ELSIの視点を含むAIロボットの社会受容性に関する検討を行うとともに、プロジェクト間の連携・協調による相乗効果を図って行く予定である。

身体と機械の融合による人類の可能性の最大化

粕谷 昌宏氏 株式会社メルティンMMI 代表取締役

粕谷昌宏氏

 弊社は2013年創業のサイボーグベンチャーで、福島と東京の2拠点で研究開発を行っている。企業名は、「身体と精神と環境」が三位一体として溶け合って(MELT)、融合する(IN)という意味合いを込めて「MELTIN」と名付けた。
 弊社のコア技術は、生体信号による生体インターフェースとロボット技術を掛け合わせたサイボーグ技術である。
生体信号については、失った身体を取り戻すためのロボットハンド技術を開発している。生体信号の波形から、高次元な身体の動き(手首、指一本一本、手全体の動きなど)をリアルタイムに識別し、多彩且つ繊細な動きを表現することができる。また、ロボットの手を「第三の手」として、自分の体にはない器官を新たに付けて制御することで、身体の拡張による人間の新たな可能性を引き出すことが可能である。また、脊髄損傷による下半身麻痺の方の足に電極を貼り込み、身体に電気信号を与えて筋肉を動かし制御することで、身体機能の回復・調整が可能となる。
 ロボット技術については、ロボットハンドの5本指で人のしなやかな動き(つまむ、握る、持ち替える、物を扱う)を再現し、器用でパワフルな動作と複雑な作業が出来る技術を開発した。
 医療分野事業への取り組みとしては、脳卒中患者のリハビリテーション、特に痙縮へのリハビリを行っており、生体信号の詳細な取得とAIでの解析に基づいたロボットハンドによるリハビリの効率化に取り組んでいる。人の身体の動きをアシストするだけに留まらず、繰り返すことで自分の体が動くことへのアシストができるのではないか、現在臨床実験中である。
 アバター事業では、コア技術を使って世界初のパワフルかつ器用な手を持つアバターロボットの開発に取り組んでいる。人がアバターに乗り移り、リモート操作で複合的なタスクを熟すことで、過酷な環境や遠隔地など物理的制約の克服、年齢や身体の状態に関わらず、生活・仕事ができる世界を実現し、健康寿命や身体障害の克服にも寄与するものと考えている。AIと連携・統合を図ることで、さらなる仕事の効率向上や熟練技術の必要な場でのアシストなど、今後多くの用途での可能性が期待できる。
 サイボーグ技術やBMIは人間の生活そのものを変えてしまうテクノロジーなので、文化的な側面からも思考実験を行うことが重要であると考え、国際サイボーグ倫理委員会を立ち上げた。Society5.0の新たな社会を目指し、ISOへの国際規格化の提案も行っていく予定である。
 弊社は、人類の創造性を最大化することを目指しており、将来はサイボーグ技術を用いて、インターネットのように社会のインフラになるような世界を担って行きたい。今後も弊社は、年齢や身体の状態に関わらず、全ての人が何不自由なく自分らしく生きる世界の実現に貢献して行きたいと考えている。

[インタラクティブ・セッション]

 人間と機械の役割の今後の推移について、アクチュエータとしてのバイオ技術の利用、身体の多関節構造からくる人間の制約とそこからの解放、学術界と日本の教育システム、起業家精神と若者のモチベーション、国際競争力と軍事産業、研究開発におけるトランスサイエンスの重要性、働き方改革の問題点など、参加者から多くの質問やご意見を頂き、多岐にわたる視点から登壇者との活発な議論となりました。参加者の皆様からも、高い評価が頂ける会合になりました。

  • インタラクティブ・セッションの登壇者
  • インタラクティブ・セッションの会場の様子
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