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第10回 けいはんな「エジソンの会」

開催概要

Industrie 4.0と日本のとるべき戦略について

講師
  • 神澤 太郎
    シーメンス株式会社プロセスオートメーション部部長
  • 小川 紘一
    東京大学政策ビジョン研究センターシニアリサーチャー
開催日時 2017年5月30日(火) 13:30~19:30
開催場所 公益財団法人国際高等研究所
住所 〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
概要 AIやIoTの進化は製造業における製品、機械、設備、人的資産の運用、エネルギーや各種リソースの消費、メンテナンスの最適化などを、エンド・トゥー・エンドのエコシステムに拡大して実現させ、これまでの製造業の軛から脱し、より効率的・効果的で、よりサービスオリエンテッドな事業展開へと変貌させようとしています。

第10回会合では、シーメンス株式会社神澤太郎氏より、ドイツを発信源とするインダストリー4.0について、その現状における進展について最新の状況をお話しいただくとともに、その中でAIやIoT、ビッグデータを活かしていくための戦略的基幹部分となるクラウドベースのオープンIoTオペレーションシステムについて詳しくご紹介いただきました。また、東京大学小川紘一先生からは、AIやIoTの時代となり、製造業が「もの造り、もの売り」の世界からの脱却を余儀なくされ、真のオープン化に伴う大変革に直面する中で、どのようにして巨大なエコシステムが新たに構築され、市場の競争ルールがいかに短期間のうちに変わっていくのか、そして、そこで勝ち残っていくためには、とりわけ日本企業はどのような布石を打っていくべきかについて、リニアモデルのオープンイノベーションを超えたオープン・クローズ戦略の観点からお話をいただきました。
配布資料
講師:神澤 太郎 「シーメンス社の考えるIndustrie 4.0とそれを支える基盤技術」
PDF [8 MB]
講師:小川 紘一 「ビジネスエコシステム時代の日本企業をどう方向付けるか~モノ造り・モノ売りからサービス売りに向けて~」
PDF [619 KB]

タイムテーブル

13:30~14:50
「シーメンス社の考えるIndustrie 4.0とそれを支える基盤技術」神澤 太郎 シーメンス株式会社プロセスオートメーション部部長
15:00~16:20
「ビジネスエコシステム時代の日本企業をどう方向付けるか~モノ造り・モノ売りからサービス売りに向けて~」小川 紘一 東京大学政策ビジョン研究センターシニアリサーチャー
16:30~17:50
インタラクティブ・セッション
18:00~19:30
懇親会

当日の様子

「シーメンス社の考えるIndustrie 4.0とそれを支える基盤技術」

神澤 太郎 シーメンス株式会社プロセスオートメーション部部長

技術の変化とインターネットの普及は、ビジネスの世界に次々と変革をもたらし、とくに産業分野におけるデジタル化はますます加速し、複雑化しながら、様々な新しいバリューシステムを生み出している。
日本に焦点を当てて見てみると、グローバルな競争環境において、他の主要国と比べて、GDPは低迷傾向にあり、GDPに占める製造業の割合は増加していない。ドイツは製造業を革新するためのイニシャティブを始動させ、Industrie4.0を産学官一体で進めることにより、日本と製造業の割合はほとんど変わらないにも関わらず、労働時間当たり購買力平価は日本の1.5倍、GDPに占めるサービス・製品の輸出の比率は日本の2倍以上となっている。日本はこのままでは今後も海外との競争において劣後なポジションが継続していくものと思われ、キャッチアップするには企業のモノからコトへの新たなビジネスモデルの構築とデジタル化が必須と考える。
シーメンスはIndustrie4.0で、デジタルトランスフォーメーションを実現するために、垂直/水平両方向のデジタル化、バーチャル世界での徹底的なシミュレーション、包括的なセキュリティ管理、モノからコトへの新たなビジネスモデルへの展開の4つの要素を通して個々の企業のデジタルエンタープライズ化を支援している。具体的には、クラウドベースのオープンなIoTプラットフォームであるMindSphereを中心に、OPC UAを採用したMindConnectによりIoTデータを収集し、MindAppsと呼ばれるアプリケーションライブラリーやAPI、統合開発環境の提供によるスケーラブルなアプリケーション開発の実現で、データ統合・管理・分析・ビジュアル化の基盤となるネットワーク統合を実現する。これにより、工場内のIoT化による垂直統合だけではなく、バリューチェーン全体を通じた水平統合を実現し、製品開発から工場での生産までを繋ぐビジネスプロセスの共有・一体化を図ることができるトータルソリューションを提供している。
今後、IoTがさらに進展し、ユビキタスに浸透してくるものと考えられるが、その本質的なポイントとしては、「汎用技術が専用技術をカバーすること」、「様々な業界を超えて繋がっていくこと」、「様々なシステム同士が広域にWebを構成し、分散しつつも共有が実現すること」であることから、標準技術を活用していくこと、セキュリティを確保すること、そして幅広い連携によるエコシステムの構築が重要となる。それらを実現することによって、従来から製造業で志向されてきた現場のシステムからERPに至る垂直統合だけでなく、自社のバリューチェーンを超えた、連携による広範なエコシステムまでの垂直統合が、21世紀の製造業の生き残りに不可欠の要素となってきたといえる。

「ビジネスエコシステム時代の日本企業をどう方向付けるか~モノ造り・モノ売りからサービス売りに向けて~」

小川 紘一 東京大学政策ビジョン研究センターシニアリサーチャー

20世紀末に始まった第三次経済革命は全世界規模での100年に一度の産業構造転換をもたらしている。ビジネスエコシステムの進展とバーチャル空間のイノベーションが先導する社会であり、価値形成メカニズムの構築と製造業のサービス化が重要なキーワードとなる。
日本の製造業、特にエレクトロニクス産業はかつて市場を席巻していたが、エコシステム型の垂直統合モデルへの移行によってビジネスルールが変わり、自前主義の崩壊と衰退をもたらした。
欧米の大手企業も現在の日本と同様に、1980年代後半においては産業構造の転換に適応できなかったが、20世紀末の大転換期に見事蘇り、息を吹き返している。
それらの企業の特徴は、コア領域と非コア領域を切り分け、非コア領域をパートナーに任せ、自社はコア領域に集中する全体最適の視点を持った組織能力により、オープン&クローズ戦略を実行し、エコシステム型の垂直統合モデルの構築に成功した企業である。
彼らは、リーマンショックの経験から欧米諸国が堅牢な産業基盤としての製造業の重要性を再認識し、製造業の国内回帰へと政策転換を行ったことに呼応して戦略を刷新した。その結果、ハードウエア製品の大量生産ではなく、デジタル化、サイバー化での優位性を活かした競争ルールの確立や産業構造の事前設計を行うことに成功した。それらを象徴するものこそ、ドイツが先導する「Industrie4.0」であり、アメリカが先導する「クラウドエコノミー、IIC、IoE」である。
付加価値創出でアメリカやドイツに引き離された日本において、今後の日本の製造業をどう方向付けるか。日本の経営者も動き始めてはいるが、グローバル市場に向けた大規模な仕掛け作りにはまだまだ課題が多く、エコシステム型統合モデルへの転換に後れを取っている。
CPS(サイバーフィジカルシステム)による価値形成のためには、フィジカル側のモノ造り/アセットの強みを活かした上で、バーチャル/サイバー側との明確な機能分離が重要であり、競争ルールの事前設計を行うためには、①バリューチェーンの見直しとビジネスルールの再構築を行い、②データ解析により付加価値を飛躍的に向上させ、③エコシステム型統合モデルを築き、④技術・製品のイノベーション連鎖を図ることが必要となる。
「我々が自分の手で未来を創りだすこと。」これはパーソナルコンピューターの概念を提唱したアラン・ケイが言った言葉であるが、今でもデジタル社会の産業構造を語る上で、絶対に欠かせない視点である。誰かに作ってもらうのではなく、自ら産業構造を作る。産業構造を作ることはエコシステムの構造を作ることであり、競争のルールを作ることである。そうやった上で自分たちの価値をどう生み出していくのか、モノ造りと同等以上にこういう仕掛けづくりが非常に重要となってきている。 
日本企業の進むべき道は、モノ造り大国としての優位性を以って、モノの価値を断トツのモノ造り力で高め、軍師型人材を登用しながら、自分たちの立ち位置で一番強いところを起点にして勝ちパターンを作っていくことである。

[インタラクティブ・セッション]

産業界のトップのモノ造りへの思いとサービス化、技術革新と日本の現状、社会変革の為の製品造りの発想、データの所有と特許権について、日本人の戦略思考について、など多くのテーマから活発な意見交換が行われました。

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