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第47回 けいはんな「ゲーテの会」

開催概要

未来に向かう人類の英知を探る- 時代の裂け目の中で、人々は何に希望を見出してきたか -

47

芸術・音楽・スポーツ

嘉納治五郎の成果と今日的課題

【講演者】
村田 直樹講道館図書資料部長
【講演者経歴】
 1949年 埼玉県生まれ。東京教育大学大学院体育学研究科修士課程修了。アイスランド柔道連盟ナショナルコーチ、タイ王国政府文部省体育局客員教授、全日本柔道連盟評議員等を経て、公益財団法人 講道館図書資料部長、公益財団法人 全日本柔道連盟参与、日本武道学会副会長。国際柔道連盟公認形審査員、全日本柔道連盟公認A指導員、全日本柔道連盟公認形A審査員、国際武道大学非常勤講師。講道館柔道八段。2014年 秩父宮記念スポーツ・医科学賞 受賞。
 著書に、『スポーツと身体運動の科学的探究』(美巧社)、『柔道大辞典』(アテネ書房)、『嘉納治五郎師範に学ぶ』(日本武道館)、『Mind over Muscle』(講談社インターナショナル 編著)、『Jigoro Kano and the Kodokan』(講道館 編・監修)、『柔道の国際化-その歴史と課題』(日本武道館)、『現代スポーツは嘉納治五郎から何を学ぶのか』(ミネルヴァ書房 共著)等の他多数。
【講演要旨】
 往時、戦場で用いられた殺傷の技術を、教育の道に止揚した例を、世界に目を向けて探究しても、浅学にして見出し得ていない。
柔道は、今日、五輪競技正式種目の一つとして国際的普及を果たしている。国際柔道連盟には約200の国と地域が加盟している(ちなみに国際連合は193ヶ国。2017/4月現在)。世界の老若男女が愛好しているJUDOは、嘉納治五郎によって創始された「日本伝講道館柔道」(正式名称)である。
幼少期、身体虚弱だった嘉納伸之助(後の治五郎)は、十代の寄宿舎時代、しばしば上級生にいじめられた。生来の負けず嫌いで人の下風に立つことを嫌った嘉納は、小さい者でも大きな者に勝てると聞いた柔術入門を果たす。
世が西洋文明を採り入れ、旧弊を排する風潮の強かった時代、東大生の嘉納が、旧習である武術、柔術を習うなどは、時代に逆らう所業と言えた。しかし、柔術の修行を通して俊英の視点は、術から道へと向かい、遂に柔道を創始するのである。その道を講ずる館を講道館と命名した。21歳5カ月の初夏である。
嘉納は学習院教師時代、維新の英傑勝海舟を訪ね、暫く学問に没頭しようか、と質問したことがあった。勝は答える前に反問した。
「学者になろうとするのか、それとも社会で事を成そうとするのか」
「後者です。その為に暫く必要な学問に集中しようと思います」
「それはいけない。それでは学者になってしまう。事を成しつつ学問を為すべきだ」
この直言は、若き嘉納の心を深く打った。それ以来、勝の忠言を守り、実際の事柄からものを考え、必要に応じて本を読んだ。後年の述懐に、
「これが自分の行った上に最も効果があった」とある。(嘉納治五郎,嘉納先生伝記編纂会,講道館,P.54,昭和39)
こうした実学主義に軸足を置き、体験や実践に即して考え、その上で先行研究を渉猟調査し、自分なりの回答を導き出して事に処するという嘉納の人生態度が出来上がった。
「昔の柔術も先生次第で武士の精神を養うことも努めたであろうが、眼目はどこまでも攻撃防御の練習であった。今日の柔道は、最初は形乱取を練習せしめて体育と武術を目的とするが、終局の目的は柔道の道を会得し、これを全生活に応用する方法を研究し、これを実行するにあるのである」。(「改造」第17巻第6号,改造社,昭和10年6月。復刻版;嘉納治五郎大系第一巻,本の友社 p.69,昭和62)
何が嘉納治五郎をして柔術から柔道へと向かわせたのか。どんな内容を整備したのか。そして今日、柔道を取り巻く課題とは如何なるものであり、課題解決のためにはどうしたら良いのか等々、斯道研究の興味は尽きない。我が国が生んだ世界に誇る運動・精神文化柔道について拙論を展開する。
開催日時
2017年5月11日(木)18:00~ 20:30
開催場所
公益財団法人国際高等研究所
参加費
2,000円(交流・懇談会費用を含む)
定員
40名(申し込みが定員を超えた場合は抽選)
締切
2017年5月7日(日)必着

当日の様子

2017年5月11日(木)、第47回「ゲーテの会」が開催されました。今回テーマは「嘉納治五郎の成果と今日的課題」で、村田直樹先生(講道館図書資料部長)にお話を賜りました。
村田直樹先生は、公益財団法人講道館図書資料部長の要職に在って、柔道の歴史・理論を探求されるとともに、国内外において柔道の指導者としてご活躍中で、時折、柔道の形・しぐさを披露しながらの楽しいお話でした。
お話の内容は、嘉納治五郎の生涯をたどりながら、柔道創始の背景とその意義などの興味深いお話をいただきました。嘉納治五郎の成果として、①柔道を創ったこと、②体育を奨励したこと、➂五輪運動を推進したことを挙げ、特に、「柔術」」から「柔道」が創られた背景などについて説明されました。
「柔術」は「無手あるいは短き武器を持っている敵を攻撃し、または防御するの術」であったが、「柔道」は「形・乱取を練習せしめて体育と武術を目的とするが、終極の目的は、柔道の道を会得し、これを全生活に応用する方法を研究し、これを実行するにある」ものであると。
そして、課題として、「今日、柔道は、競技スポーツとして国際的普及を果たしている。しかし、柔道の本質はスポーツではない。柔道は協議スポーツとしても出来るから、そうしているのである。では、柔道の本質は何であり、どうすれば柔道の真の姿の実践になるのか。」などを挙げて、その本質を探究されているとのこと。
その答えとして、「競技スポーツであろうと人生であろうと、最も有効な方法で実行すること=精力善用、ここに柔道の本質がある。ここを理解し、その実行の道を歩むことである。」と述べ、さらに課題として、「世界には各民族固有の伝統的武術(=殺傷の技術)が在るが、その武術を、近代、「己の完成/世の補益」というような教育の道にした例が在るのか無いのかと自問され、教育の比較文化論の立場からの研究課題を掲げているとお話でした。
質疑においては、柔道の本質についての理解のほか、柔道と合気道との関連、嘉納治五郎の薫陶を受けた人々のその後の国際的な活躍の状況などについて質疑が交わされました。

今回の演奏、演目はW・Aモーツアルト作曲「ピアノ・ソナタイ長調Kv.331第一楽章」、演奏はピアノ千葉いづみさんでした。(マイリズム音楽事務所)

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