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第54回 けいはんな「ゲーテの会」

開催概要

日本の未来を拓くよすが(拠)を求めて- 時代の裂け目の中で、人々は何に希望を見出してきたか -

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科学・技術

関孝和と江戸時代の数学

【講演者】
上野 健爾四日市大学関孝和数学研究所長、京都大学名誉教授
【講演者経歴】
1945年熊本市に生まれる。1968年東京大学理学部卒業。1970年東京大学理学系研究科修士課程修了。東京大学理学博士。1970年東京大学理学部助手。1976年京都大学理学部講師。同助教授を経て1987年京都大学理学部教授。2009年定年退職。2009年四日市大学関孝和数学研究所長。京都大学名誉教授。専門は複素多様体論。著書に『代数幾何入門』(岩波書店)『誰が数学嫌いにしたか』(日本評論社)『学力が危ない』(岩波新書、大野晋との共著)『数学の視点』(東京図書)『円周率が歩んだ道』(岩波書店)『小平邦彦が拓いた数学』(岩波書店)など。現在、『関孝和全集』の編集を行っている。
【講演要旨】
関孝和は、中国伝統数学を引き継いだ当時の数学を、それは今日の中学校程度の数学であったが、いきなり今日の研究者レベルの数学に高めた。中国伝統数学では1未知数の方程式しか取り扱うことができなかったが、関孝和は多未知数の方程式を記す方法を考案し、さらに未知数を消去する一般的な方法を西洋の数学者に80年以上先んじて完成させた。中国伝統数学では個々の問題を解くことが重要視されたが、関孝和は一般論の構築が重要であることを主張し、それを実践した。しかし、江戸時代の数学者は誰一人、このことを理解することができず、その弊害は今日の日本の数学教育に引き継がれている。
関孝和以降の江戸時代の数学は難しい問題を作りそれを解くことに熱中し、日本全国に数学愛好者を作り出した。江戸末期から明治初期にかけて、軍事的な要求から西洋数学が必要となったときに、それを比較的容易に輸入できたのは江戸時代の数学ブームのおかげであった。
本講演では関孝和の数学を紹介し、それがどのように江戸時代の数学者に引き継がれていったかについて述べたい。
開催日時
2017年12月6日(水)
開催場所
公益財団法人 国際高等研究所
住所
〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
参加費
2,000円(交流・懇談会費用を含む)
定員
40名(申し込みが定員を超えた場合は抽選)
締切
2017年12月3日(日)必着

当日の様子


『関孝和和と江戸時代の数学』をテーマに、12月6日、午後6時から、第54回 満月の夜開くけいはんな哲学カフェ「ゲーテの会」が開催されました。講師は、上野健爾先生(京都大学名誉教授、四日市大学関孝和数学研究所所長)。

お話の骨子は、次のとおりでした。関孝和は、個々の問題を解くことを旨とした中国伝統数学を継承しつつ、西洋の数学者に先んずること80年、多未知数の方程式を記す方法を完成させるなどの偉業をなした。

そもそも、江戸時代初期の数学の進展は、ソロバンの普及と大きく関係している。商業活動の活発化につれてソロバンの学習書が必須とされた。その白眉は、『塵劫記』(1627年)であった。当時の農業、商業、工業で必須とされる数学が網羅され、江戸時代を通じて一大ベストセラーとなった。

ただし、そこには理論の解説はなく、問題とその答え、及びその答えの導き方があったのみで、論理的な推論法が江戸時代の数学では育たない要因となった。そのことは、難問を解くことを第一とする傾向を生み、現代の数学教育にさえ影を落としている。

ともかくその後、『古今算法記』の遺題を解いた関孝和によって和算に新しい進展が見られた。当該遺題を解くために未知数が2個以上の場合の方程式を紙に書く方法(傍書法、いわゆる多変数の文字方程式)を考案し、『発微算法』を1674年に出版。ここでどのような問題も解くことのできる一般論の重要性を主張した。関孝和は時代を超越していた。関孝和以前の数学は、個々の問題を解くことに主眼があり、方程式は問題を解くための手段でしかなかった。

江戸時代の数学者たちは流派を結成し、互いに競い合った。他方、数学の応用の場として測量術と暦学があった。ともあれ、江戸時代の数学には、文化史上類を見ない現象が出現した。『塵劫記』などの入門書で数学の面白さを知った人たちが、さらに高度な数学を学び、各地の数学塾が身分制度の枠を超えて繁栄し、「算額」が神社に奉納されるなどの現象を生んだ。それは、文化のとしての数学であった。これは、現代数学が軍事面とも深く関わっていることに照らせば、江戸時代の平和な市民生活の中で実用的な数学と文化的な数学が、軍事とは関係なく発展を見たことは特筆すべき事象であった。

質疑応答では、数学教育にこと寄せて有為な人材の発掘など教育のあり方にも及び、また江戸時代の数学書の回覧も行われるなど、数学に関わる貴重な意見交換の場となりました。(文責:国際高等研究所)

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