第55回 けいはんな「ゲーテの会」
開催概要
未来に向かう人類の英知を探る- 時代の裂け目の中で、人々は何に希望を見出してきたか -
第55回
芸術・音楽古池に蛙は飛びこんだか 松尾芭蕉の名句の真相
- 【講演者】
- 長谷川 櫂俳人
- 【講演者経歴】
- 1954年、熊本県生まれ。俳人、朝日俳壇選者、神奈川近代文学館副館長、
東海大学文学部特任教授。
『俳句の宇宙』(サントリー学芸賞)、句集『虚空』(読売文学賞)のほか
『古池に蛙は飛びこんだか』(中公文庫)、『文学部で読む日本国憲法』
(ちくまプリマー新書)、句集『沖縄』などの著書がある。
- 【講演要旨】
- 古池に蛙が飛びこんで水の音がした?
芭蕉の古池の名句はそういう意味ではない。
芭蕉自身にとって、また俳句という文学にとって
重要な転換点となった古池の句の真相を探る。
- 開催日時
- 2018年1月30日(火)18:00~20:30
- 開催場所
- 公益財団法人 国際高等研究所
- 住所
- 〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
- 参加費
- 2,000円(交流・懇談会費用を含む)
- 定員
- 40名(申し込みが定員を超えた場合は抽選)
- 締切
- 2018年1月25日(木)必着
当日の様子
2018年1月30日(火)夜、第55回「ゲーテの会」が開催されました。講師は、俳人の長谷川櫂先生(朝日俳壇選者)。「古池に蛙は飛びこんだか。松尾芭蕉の名句の真相」と題し、芭蕉の俳句の革新性についてお話をいただきました。その骨子は、特に江戸時代前期までは言葉遊びの域を出ていなかった俳諧(俳句)が、松尾芭蕉の手によって、日本文学の本流である和歌と比肩されるまでに仕立て上げられたと言うものでした。
その革新性に関して、芭蕉の名句「古池や蛙飛びこむ水のおと」に言寄せて、3点が挙げられた。①蛙(かわず)は〝鳴くもの〟であるとされてきた古典の定型的表現規則を破って〝飛びもの〟としたこと。②現実の音の世界「蛙飛びこむ水のおと」に、 観念の世界「古池」を配し、心の世界を詠んだこと。③切れ字「や」によって、現実の世界から心の世界への「主体変換」すなわち「成り代わり」、あるいは「幽体離脱」を演出したこと。にあるとし、これらはいずれも和歌の本質的表現に迫るものであるとの説明であった。
質疑応答では、俳句の本質に触れて、人間は万物に名を付し言語化することによってその知識を拡大してきた反面、それによって「言葉以前の豊かな世界」を失った。俳句などの詩形式の表現(つまるところ言語によってではあるが)によって、それを回復しようとしているのではないか、詩作(句作)は、その試みではないか、またそれは、「禅」の思想にも通じるものがあるなどの指摘があり、興味深い意見交換が続きました。特に今回の参加者には、俳句づくりに親しんでおられる方も多く、40名を超える方々が長谷川櫂先生のお話に聞き入り、俳句論に花を咲かせました。(文責:国際高等研究所)