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第66回 けいはんな「ゲーテの会」

開催概要

未来に向かう人類の英知を探る- 時代の裂け目の中で、人々は何に希望を見出してきたか -

66

政治・経済

大正デモクラシーの立役者・吉野作造の「明治」研究

【講演者】
奈良岡 聰智京都大学大学院法学研究科教授
【講演者経歴】
1975年青森県生まれ。京都大学大学院法学研究科教授。2011-12年、2015-16年ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス客員研究員。専攻は日本政治外交史。
主な研究テーマは大正時代の政党政治、第一次世界大戦期の日本外交など。主著に、『加藤高明と政党政治―二大政党制への道』(山川出版社、2006年)、『「八月の砲声」を聞いた日本人 ―第一次世界大戦と植村尚清「ドイツ幽閉記」』(千倉書房、2013年)、『対華二十一ヵ条要求とは何だったのか―第一次世界大戦と日中対立の原点』(名古屋大学出版会、2016年)、『ハンドブック近代日本外交史 黒船来航から占領期まで』(簑原俊洋と共編著、ミネルヴァ書房、2015年)がある。
【講演要旨】
吉野作造は、「民本主義」を提唱し、大正デモクラシーをリードした言論人として知られていますが、歴史研究者でもありました。吉野はもともと東京帝国大学法学部で政治史講座を担当し、ヨーロッパや中国の政治を研究していましたが、大正末期になると明治文化研究会を組織し、明治憲政史の研究に力を注ぐようになりました。彼は、わが国における明治史研究の草分けでもあったのです。
 実は吉野が明治史研究を始めた背景には、明治を回顧・顕彰しようという全国的な風潮が影響していました。このような動きは、明治天皇の崩御、「明治50年」などを経て、昭和3年の「明治60年」に一つの頂点を迎えました。この年の干支が、戊辰戦争以来の「戊辰」であったことも影響していました。この時期の明治ブームは、形を変えて戦後の「明治100年」「明治150年」にも受け継がれていくことにもなります。
 本講演では、吉野の明治史研究を端緒としつつ、これまで節目ごとに明治維新がどのように捉えられ、顕彰されてきたかを検討していきます。2018年は「明治150年」にあたり、さまざまな関連行事が行われてきました。皆さんと一緒に、その意義についても考えてみたいと思います。

【参考図書】ご講演の内容の理解を促進するために次の図書が有益です。
田澤晴子『吉野作造』(ミネルヴァ書房、2006年)

開催日時
2018年12月21日(金)18:00~20:30
開催場所
公益財団法人国際高等研究所
住所
〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
参加費
2,000円(交流・懇談会費用を含む)
定員
40名(申し込みが定員を超えた場合は抽選)
締切
2018年12月20日(木)必着

当日の様子

2018年12月21日(金)18時から第66回満月の夜開くけいはんな哲学カフェ「ゲーテの会」が国際高等研究所で開催されました。テーマは「大正デモクラシーの立役者・吉野作造の「明治」研究」。講師は奈良岡聰智先生(京都大学大学院法学研究科教授)。

吉野作造は、欧米の政治思想を学び、日本に初の「政治史講座」を開設した。その基本視座は、これまでの国家機構の解明ではなく、人間社会の解明にあった。その後、中国、朝鮮人留学生支援の意もあって、大学教授の職を辞して東京朝日新聞社に身を置き、政治評論活動に注力した。その後、明治文化研究会を組織して、「明治の研究」に注力した。

その「明治の研究」は、吉野作造の活動にとって、欧米などの最新事情と併せ、「現代政治評論」の論の源泉でもあった。その視点は、欧米思想の「直訳」ではなく、日本の実情に即して「意訳」するところにあった。それは、デモクラシーを、人民主権を含意する「民主主義」でなくを「民本主義」としたところにも表れている。

ところで、明治ブームは、過去、4回起こった。その都度、周年記念事業が行われた。第1回は、戊辰戦争の傷まだ癒えない時期の1917年、明治維新50周年にちなんだ慰霊行事が 、旧藩単位で挙行された。第2回は、維新の際の官軍・賊軍の怨讐を越えようとの空気の中で、60周年事業が主に民間で1928年に行われた。この時のものが、現代の「明治」イメージの原型となっている
第3回は、高度経済成長期只中の1968年、100周年事業が国を挙げて盛大に行われた。そして第4回は、本年(2018年)、150周年事業として挙行された。ただ、その規模は50年前とは比すべくもなく極めて簡素なものであった。

これまで、記念事業に際しては、左右の陣営から、維新に対する真逆の評価が表明されてきた。しかし、思い込み的なものが多い。歴史を自己都合に合わせて、その主張の道具に使っているきらいがある。今また、観光客誘致を旨として史実に基づかない誇張した説明が一部、明治維新ゆかりの地などに見られる。それは歴史の消費であり憂慮される。
一方、続く質疑応答では、明治憲法の制定過程を顧みて、日本人は西洋の政治思想をよく研究し、自らのものとし、ある意味で世界的にも比類のない政治制度を築いてきた。これは、発展途上国にける国づくりのモデルにもなり得るものである、との解説があった。(文責:国際高等研究所)

  • サックス:萩野 修聡(One Note音楽事務所)
  • 質疑応答の様子
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