• 高等研ライブラリー
  • 高等研報告書
  • アーカイブ
  • 寄付

第75回 けいはんな「ゲーテの会」

開催概要

「新しい文明」の萌芽を探る日本と世界の歴史の転換点で、転轍機を動かした「先覚者」の事跡をたどる

75

政治・経済

日本で最初の国際的歴史学者「朝河貫一」 -「胡適」との対比を中心に-

【講演者】
武藤 秀太郎新潟大学経済学部准教授
【講演者経歴】
1974年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。総合研究大学院大学文化科学研究科博士課程修了。2008~2011年中国政府奨学金留学生として、復旦大学に留学。新潟大学准教授。学術博士。専門は社会思想史。著書に『近代日本の社会科学と東アジア』(藤原書店、2009年 )、『「抗日」中国の起源 ―五四運動と日本』などがある。
【講演要旨】
朝河貫一(1873-1948)は、日本人ではじめてアメリカ・イェール大学の教授となった歴史学者である。当時としては斬新な国際的視点から、日本とヨーロッパにおける封建制度の比較研究に身を投じた。とくに、薩摩の入来院家にまつわる古文書を編集し、英訳した『入来文書』(1929)は、『封建社会』でしられるフランスの歴史学者マルク・ブロックからも、ヨーロッパ人が日本の封建制を理解するための貴重な資料として高い評価をうけている。朝河は元来、政治に関与することに禁欲的であったが、祖国である日本の危機的状況に際し、国内に向け自省をうながす主張をおこなうとともに、対外的に自国の立場を擁護する言論も展開した。近年、朝河の言動は再評価がなされ、資料的な整備もすすんでいる。本報告では、この朝河の思想と行動を、同じく国際的・知米派知識人であった中国人の胡適(1891-1962)との交流を中心にみてゆくことにしたい。

開催日時
2019年10月16日(水)
開催場所
公益財団法人 国際高等研究所
住所
〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
参加費
2,000円(交流・懇談会費用を含む)
定員
40名(申し込みが定員を超えた場合は抽選)
締切
2019年10月15日(火)必着

当日の様子

2019.10.16(水)第75回「ゲーテの会」開催概要

2019年10月16日(水)18時から国際高等研究所で、第75回満月の夜開くけいはんな哲学カフェ「ゲーテの会」が開催されました。テーマは『日本で最初の国際的歴史学者「朝河貫一」−「胡適」との対比を中心に』。講師は武藤秀太郎先生(新潟大学経済学部准教授)。

朝河貫一(1873ー1948)は、旧二本松藩に生まれ、秀才の誉れ高く、東京専門学校(早稲田大学)文学科を首席で卒業し、坪内逍遥、大隈重信の知遇、支援を得て、若くして念願のアメリカに留学。ダートマス大学を経てイェール大学大学院に。そこで、東洋史・東西交渉史講座担当の教授となる。

特筆すべき彼の学問的業績は、古文書『入来文書』(薩摩)に基づく日本封建制の研究とその資料英訳による欧米への紹介。なお、この英文資料は、欧米の東洋研究者に高く評価をされ、かつ、ライシャワー、ドナルドキーンなど知日派の歴史観に多大な影響を与えた。またこの間、「魯迅」などと並び称される中国における20世紀最大の思想家「胡適」との学問的交流があったとされている。

加えて、時事評論面における彼の活躍は出色であった。日露戦争後のポーツマス条約締結に際して、人類史に流れる正義と倫理を説き、目先の国利よりも文明国としての節度ある交渉を政府に求め、清をめぐる主権尊重、機会均等のニ大原則の実現に尽力し、欧米に尊敬の念を抱かせた。

しかし、その後の日本は、朝河貫一の願いも空しく清への侵略的傾向を強める。彼はそれを憂い、第二次世界大戦時、日米開戦前夜、切々たる愛国の情を持って日本を諫めるとともに、日米交戦回避に向けて大統領あるいは天皇をはじめとする日米の要人への働きかけを画策。翻って終戦後は、天皇制維持などを主張してアメリカの対日占領政策に多大な影響を与えた、と言われている。

質疑応答では、朝河貫一は、武士道など世界に誇る日本人の気質に自信を持ちつつも、「民主」「自由」などの観念にかけては、アメリカに遠く及ばないとの劣等意識を持っていたのではないかなどの意見があった。

兎も角、明治維新から終戦に至る日本の近代化の過程を国外から観察し続けた朝河貫一の言動。そこから学ぶべき点は多い。朝河貫一が、今、まさに「日本で最初の国際的歴史学者」として再評価されつつあるのも宜なるかなである。(文責:国際高等研究所)

  • 講演の様子
  • 質疑応答の様子
最新に戻る