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第94回 けいはんな「ゲーテの会」

開催概要

「新しい文明」の萌芽を探る日本と世界の歴史の転換点で、転轍機を動かした「先覚者」の事跡をたどる

94

思想・文学

「自心の源底」を尋ねて ~ 空海の生命論への一視点 ~

【講演者】
竹村 牧男東洋大学名誉教授
【講演者経歴】
1948年、東京生まれ。東京大学文学部卒。同大学院印度哲学博士課程中退。文化庁宗務課専門職員、筑波大学教授(哲学・思想学系)等を経て、2002年、東洋大学文学部教授。2009年9月から2020年3月まで東洋大学学長。現在、東洋大学名誉教授。東方学院講師。専門は、仏教学、宗教哲学。唯識思想研究で博士(文学)。主な著書に、『空海の哲学』(講談社現代新書)、『唯識・華厳・空海・西田』(青土社)、『新・空海論』(青土社)、その他、多数。
【講演要旨】
 密教の代表的な経典『大日経』に、密教の覚りは「如実知自心」(如実に自心を知る)にあると説かれている。空海はその主著『秘密曼荼羅十住心論』において、第十住心「秘密荘厳住心」の冒頭に、密教では自己の心の源底の世界を如実に知ることが開かれるのだとし、その世界とは胎蔵・金剛界の両部の曼荼羅であり、かつその諸仏諸尊の各々が有する四種曼荼羅であると明かしている。ゆえに空海は「いのち」の根底に、そうした曼荼羅世界があると示していることになろう。
 では、この両部曼荼羅および四種曼荼羅の具体的な内容は、どのようなものであろうか。このことを、空海の『即身成仏義』等にも照らして解読し、かつ『十住心論』に置かれた「帰敬頌」に表われた思想をも確認して、空海の人間観・世界観の根本を理解し、それは「いのち」とどのように関わるのか考察してみたい。
開催日時
2024年5月23日(木)18:00~20:00
開催場所
公益財団法人国際高等研究所
住所
〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
参加費
今回は無料
定員
オンライン 100名  会場参加40名(先着順・定員になり次第締め切り)
締切
2024年5月21日(火)必着

当日の様子

2024年5月23日(木)18時から国際高等研究所コミュニティホールにおいて、第94回満月の夜開くけいはんな哲学カフェ「ゲーテの会」が、ハイブリッド方式(対面と遠隔)で開催されました。演題は『「自心の源底」を尋ねて~空海の生命論の一視点~』。講師は竹村牧男先生(東洋大学名誉教授)。会場参加者約30名を迎え、全国から約130名に上るオンライン参加による視聴希望があり、「空海」への関心の高さが伺えました。
初めに、演題『「自心の源底」を尋ねて~空海の生命論の一視点~』にある「自心の源底」の語句の出処が、空海の主要著書『十住心論』の冒頭にある「秘密荘厳住心といっぱそれ究竟じて自心の源底を覚知し、実の如く自身の数量を証悟するなり」の文章にあるとの紹介。続いて、その「十住心」の第一「凡夫」から始め、第四「声聞乗」から第九「華厳宗」の大乗仏教を経て、最高位の第十「真言密教」に至る、その各段階における「心」の有り様の解説がありました。
続いて、空海によって伝えられた曼荼羅(『大日経』に基づく「胎蔵海会の曼荼羅」、『金剛頂経』に基づく「金剛界会の曼荼羅」)と四種曼荼羅との二重構造などの解説に基づきつつ、真言密教の核心に触れる言葉「即身成仏」に関わって、「即身」とは「この身に即して」ではなく「他者と相即する身」のこと、「重重帝網」のごとく「自己」と「他者」、「自己」と「諸仏諸尊」は相即渉入の関係であると解すべきこと、そして、そこに一個の「いのち」があるなどと、丁寧な説明がありました。
質疑応答では、会場から、またオンラインで多くの質問が寄せられました。①世界の外に超越神を認めるキリスト教は、絶対を絶対に否定し相対世界に返る真言密教の考えに包含されることになるのではないか。②真言密教の「即身成仏」に関わって、それは浄土真宗の「平生業成(死して仏となるのではないの主旨)」の言葉と共鳴するのではないか。③自己と他者との関係に関わって、「他者」とは、人間に限らず動植物、さらに山川などの自然も含むのか、空海の視野は人類全体に及んでいたのかなどと、世界平和を展望するに足る思想がそこにはあるのではないかとの指摘もあり、世界観、人間観、死生観など多岐にわたるものでした。現代社会の抱えている問題に深く迫ろうとする気迫に満ちた真摯な質疑応答が続きました。

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  • ご講演の様子
  • 会場風景
  • 質疑応答の様子
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