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第59回 けいはんな「ゲーテの会」

開催概要

未来に向かう人類の英知を探る- 時代の裂け目の中で、人々は何に希望を見出してきたか -

59

思想・文学

江戸と京に遊ぶーー日本美の探究者・九鬼周造

【講演者】
藤田正勝京都大学名誉教授
【講演者経歴】
1949年生まれ。京都大学大学院文学研究科、ドイツ・ボーフム大学ドクター・コース修了。京都大学大学院文学研究科教授、同大学院総合生存学館教授を経て、現在は京都大学名誉教授。
著書に、Philosophie und Religion beim jungen Hegel(Hegel-Studien, Beiheft 26)、『若きヘーゲル』(創文社)、『西田幾多郎――生きることと哲学』、『哲学のヒント』、『日本の文化をよむ――5つのキーワード』(以上は岩波新書)など。
【講演要旨】
九鬼周造は『「いき」の構造』や『偶然性の問題』、『人間と実存』などの著作で知られる哲学者です。1921年から8年にわたってドイツ・フランスに留学して、1929年に帰国し、京都大学で西洋哲学史を担当しました。当時最先端であったベルクソンやハイデガーなどの哲学を紹介し、日本における実存哲学やフランス哲学の研究の礎を置いた人です。
九鬼には『文芸論』という著作もありますが、芸術や文芸にも深い理解を有した人でした。九鬼自身が「美の世界に生きた人」であったと言えると思います。自ら数多くの短歌や詩を作りましたし、日本の伝統的な音楽、とくに長唄や小唄、清元などを愛してやまない人でした。さらに晩年には京都・山科の地に粋をこらした邸宅を構えたことでも知られます。
そういう関心があったからだと思いますが、江戸時代を代表する美意識とも言うべき「いき(粋)」に深い関心を寄せ、それをめぐって精緻な分析を行い、その構造を鮮やかに描きだしました。本講演では九鬼の「美」の理解、彼の「美の世界」をテーマにとりあげますが、とくにその「いき」の理解に焦点をあて、「いき」とは何か、九鬼はなぜ「いき」を問題にしたのか、そういった問題について考えて見たいと思います。


【参考図書】
ご講演の内容の理解を促進するために次の図書が有益です。
藤田正勝著『九鬼周造――理知と情熱のはざまに立つ〈ことば〉の哲学』(講談社選書メチエ)
(とくに第二章「「いき」の構造」を参考にしてください)

開催日時
2018年5月29日(火)18:00~ 20:30
開催場所
公益財団法人 国際高等研究所
住所
〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
参加費
2,000円(交流・懇談会費用を含む)
定員
40名(申し込みが定員を超えた場合は抽選)
締切
2018年5月24日(木)必着

当日の様子

2018年5月29日(火)18時から第59回「ゲーテの会」が「江戸と京に遊ぶーー日本美の探求者・九鬼周造」をテーマに高等研で開催されました。講師は、藤田正勝先生(京都大学名誉教授)。
九鬼周造の生い立ちにこと寄せて、『祇園の枝垂れ桜』に美の神を見、『小唄レコード』に涙する九鬼の姿、そこに断ち難い母への思いが見られるとの解説。九鬼の美意識の底にある「無常観」、「光輝」にではなく「陰翳」に美を見出す九鬼周造。

江戸時代、富裕層に支えられて発展した文化発信装置としての「遊郭」。そこに発生した「粋」「通」の観念。それも、江戸中期、後期ともなるとその経済基盤の衰退とともに「遊郭」の世界から、すなわち男性、女性に関わらない一般社会の具体的事物やその洗練されたあり方、精神的基盤としての「いき」に転変。
その「いき」を形成する三つの徴表、「媚態」「意気地」「諦め」。「媚態」は、あくまで一元化を目指す「欲望」とは異なる二元的態度(したがって、「心中」は媚態ではない)、「意気地」は一元化の圧力に抗して立つ「気概」、「諦め」は恬淡無碍の心、などの解説。

質疑応答では、「必然性」をメインテーマとし「驚き」を哲学の始まりする西洋哲学に対し、「偶然性」をメインテーマとし「悲哀」を哲学の始まりとする九鬼の哲学。一般に「生」を主対象とする哲学に対し、「死」を主対象とする文学。その中で、「生」と「死」の狭間を哲学の対象とする九鬼の「生きた哲学」、その特色。
更に、人間の心の奥底の「情」を哲学対象に持つ西田、田辺など京都学派の哲学と九鬼の哲学の共通性。だが、弁証法に基づく「歴史的分析」を旨とする前者の哲学に対し、「幾何学的・構造的分析」を旨とする九鬼の哲学の方法論上の違いなど、九鬼の哲学の特色が熱っぽく論じられ、参加者の認識を新たにする議論が次々と交わされました。。(文責:国際高等研究所)

  • サクソフォン:福田彩乃、ピアノ:曽我部智花(マイリズム音楽事務所)
  • 質疑応答の様子
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