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第62回 けいはんな「ゲーテの会」

開催概要

未来に向かう人類の英知を探る- 時代の裂け目の中で、人々は何に希望を見出してきたか -

62

政治・経済

荒廃農村地域の再生に生涯をかけた「二宮尊徳」の信念と信仰

【講演者】
鎌田 東二京都大学名誉教授
【講演者経歴】
1951年、徳島県生れ。國學院大學大学院文学研究科博士課程神道学専攻単位取得満期退学。岡山大学大学院医歯学総合研究科博士課程社会環境生命科学専攻単位取得退学。現在、上智大学グリーフケア研究所特任教授。京都大学名誉教授。放送大学客員教授。博士(文学・筑波大学)。宗教哲学・民俗学・日本思想史・比較文明学専攻。石笛・横笛・法螺貝奏者。神道ソングライター。フリーランス神主。著書『神界のフィールドワーク』(青弓社)『聖地感覚』(角川ソフィア文庫)『神と仏の精神史』『現代神道論』『世直しの思想』『天河大辨財天社の宇宙~神道の未来へ』(ともに春秋社)『神道とは何か』『日本人は死んだらどこへ行くのか』(ともにPHP新書)『世阿弥』『言霊の思想』(ともに青土社)、最近著は第一詩集『常世の時軸』(思潮社)。
【講演要旨】
二宮金次郎(1787‐1856)は「災害の子」である。天明大飢饉の渦中に生れ、天保大飢饉を生き抜き、安政3年に死去した。子供の頃、酒匂川(神奈川県小田原市を流れる)の氾濫で家と田畑を失い、14歳で父親、16歳で母親を亡くし、一家離散の憂き目を見た。だが、その困窮の中で、家を復興し、村(栢山村)を復興し、藩(小田原藩)を復興し、幕府領の復興をも果たした。ある夏前に茄子の味が秋の味になっているので、その夏が冷夏となることを予知し、粟や稗を植えて備えをしたら、天保の大飢饉となった。茄子の味一つで天保の大飢饉を予知し、適切な対策を講じて被害を最小に食い止め、小田原藩では餓死者を一人も出さなかったという。その鋭い観察と経験によって正確に災害や災難(天災・人災)を予測し、それに明確な対策を立てて実行に移し、人々の苦難を救った。その二宮尊徳の人生と行動と信仰は未来へのさまざまなヒントとメッセージを秘めている。

【参考図書】ご講演の内容の理解を促進するために次の図書が有益です。
内村鑑三『代表的日本人』岩波文庫、1995年
小林惟司『二宮尊徳-財の生命は徳を生かすにあり』ミネルヴァ日本評伝選、ミネルヴァ書房、2009年
日本思想大系52 二宮尊徳・大原幽学』岩波書店、1973年
開催日時
2018年8月27日(月)18:00~20:30
開催場所
公益財団法人国際高等研究所
住所
〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
参加費
2,000円(交流・懇談会費用を含む)
定員
40名(申し込みが定員を超えた場合は抽選)
締切
2018年8月24日(金)必着

当日の様子

2018年8月27日(月)18時から第62回「満月の夜開くけいはんな哲学カフェ「ゲーテの会」」が国際高等研究所で開催されました。テーマは、「荒廃農村地域の再生に生涯をかけた「二宮尊徳」の信念と信仰」。講師は鎌田東二先生(京都大学名誉教授)。

日本列島は、4つのプレートが集中する世界有数の地震多発地帯であり、また、台風の通り道でもあり、「災害列島」そのものである。しかし、文明の構造は、それに即応したものになっていない。そのことを問題として指摘しつつ、二宮尊徳の思想と活躍について紹介。

二宮尊徳は「災害の子」である。「天明の飢饉」に生まれ、「天保の飢饉」に遭遇し、苦闘の日々を送った。零落した家を、村落を再興し、藩を再建し、世に認められることとなった。その方法は「報徳仕法」。経済と倫理を結合した独自の方法で、そこには四大原則があった。至誠、勤勉、分度、推譲。

尊徳は、民の苦しみを救済するために、四書五経を何回となく読み込み思索し、また、農業者として自然観察を深く行い分析し、独自の思想を紡いでいった。そのバックボーンは、日本古来の神道に、外来の仏教と儒教を結合させた「神仏儒正味一丸薬」と言うべきものであった。

「3・11」以降も、地震、豪雨、台風など大規模災害が相次いでいる。災害列島日本においてはそれに対応した社会が構想されなければならない。ところが、現実はそうなっていない。依然として従来型の大規模集中型の社会構造に固執している。循環を旨とする尊徳思想に照らしてリデザインすべきである。

質疑では、尊徳仕法の現代社会での具体的応用の在り方。西洋近代社会は近代社会の一形態であり、日本には日本独自の日本近代社会があり得たのではないか、それは現代社会にどのように継承されているのか。などと本質を突いた興味深い応答が相次ぎました。(文責:国際高等研究所)

  • ギター:稲田修平、ピアノ:沼澤修一(OneNote音楽事務所)
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