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第68回 けいはんな「ゲーテの会」

開催概要

未来に向かう人類の英知を探る- 時代の裂け目の中で、人々は何に希望を見出してきたか -

68

科学・技術分野

江戸のダ・ヴィンチ、司馬江漢

【講演者】
池内 了 総合研究大学院大学名誉教授
【講演者経歴】
1944年兵庫県生まれ。京都大学理学部物理学科卒業。同大大学院理学研究科物理学専攻博士課程修了。博士(理学)。『科学の考え方・学び方』で講談社出版文化賞科学出版賞(現・講談社科学出版賞)受賞。『物理学と神』『科学・技術と現代社会上・下』『科学の限界』『ねえ君 不思議だと思いませんか?』
『科学者と戦争』『科学者と軍事研究』など著書多数。
【講演要旨】
私は、かつて『科学のこれまで 科学のこれから』という短い本を書いた(岩波ブックレット)。これまでの100年の間の科学の「異様な」発達を見ながら、これからの100年先の科学の行き方について書いたもので、そこでは「「文化」としての科学」の典型として博物学を取り上げた。
 ゲーテの会で話題にするのは司馬江漢である。彼は日本画の屈指の画家なのだが、日本で最初にエッチングを発明した上に洋画にも手を出し、さらに科学では地動説を唱導し宇宙論へも踏み入っている。当時の天文学は暦学に終始して宇宙の構造には関心がなかったのだが、江漢はまさに博物学的好奇心を発揮して窮理学に、そして天文学に造詣を深めたのである。また、同時代の山片蟠桃は金貸しの番頭でありながら、人間が宇宙のあちこちに生きる宇宙像を展開している。
 自分の専門の職業でちゃんとした仕事をした上で、科学の素人でありながら宇宙に関心を持った江漢(や蟠桃)の生き様を振り返りながら、なぜ江戸時代に博物学が隆盛であったのかを考えてみたい。
開催日時
2019年2月20日(水)18:00~20:30
開催場所
公益財団法人国際高等研究所
住所
〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
参加費
2,000円(交流・懇談会費用を含む)
定員
40名(申し込みが定員を超えた場合は抽選)
締切
2019年2月19日(火)必着

当日の様子

2019年2月20日(水)18時から、国際高等研究所で、第68回満月の夜開くけいはんな哲学カフェ「ゲーテの会」が開催されました。テーマは、「江戸のダ・ヴィンチ、司馬江漢」。講師は池内了先生(総合研究大学院大学名誉教授)。

一介の旅絵師・司馬江漢が、独学で「博物学」から「地動説」に迫り、「宇宙論」まで辿り着いた、その軌跡を追いながら、江戸時代に花開いた世界に類を見ない「文化としての科学」の発展の有り様について解説。そこに、これからの社会や、科学の在り方の範があるのではないかとの指摘。

その反面として、現代科学は、特に「役に立つ科学」を旨として異様に発達し、巨大科学を志向するなど、ある種の偏りや業績主義などの弊害が見られる。日本においては、江戸時代、本草学から博物学へと日本独自の科学の発展の芽があった。しかし、明治維新によって怒涛のごとく流入した近代西洋科学によって摘まれてしまい、「文化としての科学」というより「科学技術」至上主義の方向に展開して行った。

そそもそも、西洋と東洋では、物事を見る視点が異なる。何が中心かを問う西洋的発想に対し、東洋では相対的にものを見る傾向がある。例えば、「地動説か天動説か」の議論においても、どちらが動くのかを問う。時間概念にしても、西洋が概して直線的であるのに対し、東洋は循環的である。
ともかく、「進歩・発展」を至上価値として、眼を見張る発展を遂げた現代社会ではあるが、経済的にはともかく、文化的、あるいは精神的には「退化」している。科学の在り方にしても、要素還元主義を脱却し、西洋的直線的発展概念ではなく東洋的循環的発展概念を旨として、例えば「複雑系の科学」、「等身大の科学」等に視点を移すべきではないか。

質疑応答では、社会発展を特徴付けるものとして、地政学的、風土論的視点は欠かせない。同じ島国でも、大陸の東端に位置する日本と、西端に位置するイギリスとでは、自然環境はもとより、世界との関わり方一つ取っても大きく異なる。こうした視点を持って科学の発展の在り方を考察することもまた重要であるなど、興味深い意見交換が続きました。(文責:国際高等研究所)

  • クラッシックギター:稲田 修平
    (OneNote音楽事務所)
  • 質疑応答の様子
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