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第77回 けいはんな「ゲーテの会」

開催概要

「新しい文明」の萌芽を探る日本と世界の歴史の転換点で、転轍機を動かした「先覚者」の事跡をたどる

77

思想・文学

無意識思想の先駆け『ライプニッツ』― 「モナドロジー」と華厳思想との親和性を探る

【講演者】
田島 正樹元千葉大学文学部教授、学習院大学非常勤講師
【講演者経歴】
1950年大阪市に生まれる。東京大学教養学科フランス科卒業、東京大学大学院博士課程(哲学専攻)修了、元千葉大学文学部教授、学習院大学非常勤講師。哲学者。
著書に、『ニーチェの遠近法』(青弓社1996)、『哲学史のよみ方』(ちくま新書1998)、『魂の美と幸い』(春秋社1998)、『スピノザという暗号』(青弓社2001)、『読む哲学事典』(講談社現代新書2006)、『神学・政治論』(勁草書房2009)、『正義の哲学』(河出書房新社2011)、『古代ギリシアの精神』(講談社選書メチエ2013)などがある。
【講演要旨】
ライプニッツ(1646~1716)は、微分・積分学の発見で有名な数学者であり、エネルギー保存則など物理学にも大きな貢献をした万学の天才ですが、その哲学思想はあまりに奇矯なものとして、多くの理解を得られたとは言へません。しかしそれは、よく見ると実に深い洞察を含んでをり、また雄大なものでもあります。そして何より、その構想は彼の数学思想・宇宙観のみならず、政治的構想などとも極めて密接な関係を持つ見事な体系をなしてゐます。そこに我々は、仏教的世界にも通ずるものを見出すこともできますし、東西文化の境界、理系・文系の境界、有限・無限の境界、物と心の境界、生物と無生物の境界など様々の境界を、軽々と越境していくしなやかな知性を見出すことができます。その魅力に触れていただけたらと思ひます。
開催日時
2019年12月10日(火)
開催場所
公益財団法人 国際高等研究所
住所
〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
参加費
2,000円(交流・懇談会費用を含む)
定員
40名(申し込みが定員を超えた場合は抽選)
締切
2019年12月9日(月)必着

当日の様子

2019年12月10日(火)18時から国際高等研究所において第77回満月の夜開くけいはんな哲学カフェ「ゲーテの会」が開催されました。テーマは、「無意識思想の先駆け『ライプニッツ』・「モナドロジー」と華厳思想との親和性を探る」。講師は田島正樹先生(元千葉大学文学部教授)。

ライプニッツは、「30年戦争(1618-1648)」のさ中、1646年、神聖ローマ帝国の辺境の地・ライプチッヒに生まれた。当時ドイツは近代化に遅れをとり、小国家分立の領邦国家であった。そのことは彼の思想にも反映しており、地域の独立と全体の調和を目指してヨーロッパの統合を構想するなど、自己中心的な先進大国イギリスなどとは異なった立場をとった。また、若くして発案した微分・積分の考えは、無意識と意識の世界をつなぐ「無限」概念となって彼の思想を彩るものとなった。

ライプニッツの思想を一言で言うと、「違いを保持した上での調和」であろうか。世界は見事に完成されており、この上なく美しく調和の下にある。欠点は何一つない。あると見えるのは人間の錯覚である。その全き美しさを認識できていないに過ぎない。存在するもの全てに意味がある。仏教の「悉有仏性」に通じる思想である。

魂(モナド)は、鉱物にも植物にも動物にも人間にも、存在するもの全てに宿り、それらは連続体である。宇宙の果ての「荒涼とした世界」もモナドに満ちた豊穣の世界である。モナドは万華鏡のように全世界を映し出す。合せ鏡のごとくである。宇宙の果ての微かな動きも、意識されるか否かに関わりなく、存在するもの全てに影響を及ぼす。あらゆる部分は全体と相似形である。

かくしてライプニッツの提示した世界観は、近代科学成立の基となったデカルト、ニュートン、ガリレオなどの哲学、すなわち意識される対象物をのみ存在するものする無機質で粗雑な機械論的世界観とは異なり、アリストテレスに淵源を有する世界観と親和性を有し、有機質で精妙な生物論的世界観であった。これは異端のスピノザの世界観に通じるものでもあった。

質疑応答では、「善・悪」への理解と態度を巡るキリスト教などとの異同、実在に関する「事物」連環と「観念」連環の世界、その二側面からの世界把握の可能性、さらに欲望の抑圧に起因するフロイトの「無意識」思想との違い、また、宗教の持つ実践的情熱の在処などにも話が及び、刺激的な哲学論が交わされました。(文責:国際高等研究所)

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