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第87回 けいはんな「ゲーテの会」

開催概要

「新しい文明」の萌芽を探る日本と世界の歴史の転換点で、転轍機を動かした「先覚者」の事跡をたどる

87

思想・文学

「伊藤整」の西欧文学「文化」受容の姿勢

【講演者】
澤井 繁男作家、元 関西大学文学部教授
【講演者経歴】
1954年、札幌市生まれ。札幌南高等学校時代、有島青少年文芸賞受賞。上京して『第19次新思潮同人』となる(東京外国語大学時代)。小説「雪道」により、『200号記念北方文芸賞』受賞(選考委員;野間宏、八木義徳、吉行淳之介、井上光晴の4氏;京都大学大学院時代)。東京外国語大学論文博士(学術)。元 関西大学文学部教授(イタリアルネサンス文学文化専攻;現同大学非常勤講師)。『三田文学』『新潮』『文學界』等に作品を発表し、現在にいたる。日本文芸家協会員。
【講演要旨】
伊藤整は昭和初期『新心理主義文学』を日本にいち早く紹介し、みずからも実験的作品を書き、川端康成から評価される。だが、その後自然主義的傾向の作品に後退する。戦後は「伊藤整理論」を確立して、戦前から批評の対象としてきた「私小説」を総括する、小説では『鳴海仙吉』、評論では同時進行で『小説の方法』を発表する。彼はつねに「生命と秩序」の相克に目を向けて、そのもとに「エゴ」の問題を見据え、さらに作家や画家などの芸術家が「愛情乞食」だと明言するにいたる。そこに及ぶまでには、北海道出身の彼が自分をどう位置づけて、西欧文学の移入に努めてきたか。今回の講演では、以上の問題を整理しながら、多方面で第一級の仕事を遺した、1970年度ノーベル文学賞の候補に挙がっていた伊藤整の文学を総論的に捉えてみたい。
開催日時
2021年7月20日(火)18:00~20:00
開催場所

【重要なお知らせ】今回はオンライン開催のみとなります。

住所
今回はオンラインのみ
参加費
今回は無料
定員
40名(先着順・定員になり次第締め切り)
締切
2021年7月16日(金)必着

当日の様子

2021年7月20日(火)18時から国際高等硏究所主催の「満月の夜開くけいはんな哲学カフェ「ゲーテの会」」がZOOMウエビナー機能を活用し、On-lineで開催されました。テーマは「『伊藤整』の西欧文学文化の受容姿勢」。講師は澤井繁男先生(作家、元関西大学教授)。国外からの熱心な参加者もあり、定員を超えての開催となりました。

講演内容の構成は、①北海道生まれということ、②北海道文学の系譜と伊藤整の位置、③「私小説」への問いかけ、④「エゴ」の問題、⑤西欧文学文化の受容、⑥「性・愛」の表現の変化の6章から成っていました。

伊藤整は日本を代表し、また北海道文学を彩る作家ではあるが、そのあれこれの系譜(社会派か抒情派、あるいは宗教派かロシア派)には属さない出色の人物である。1970年には、『変容』などの作品が評価され、ノーベル文学賞候補にもなった。そのモチーフは一貫して「生命と秩序」の相剋と調和であった。その内実をなす「愛と性」の問題は、伊藤整の終生の文学上のテーマであった。

伊藤整の文学を語る上でもう一つ重要なモチーフは「抵抗性」である。それは彼の出自に由来する。伊藤整はその生誕の地、北海道を、本州(内地)と対照させて、「植民地」として捉えていたことに見られる。晩年、伊藤整が共感を寄せた作家ジェイムズ・ジョイスや詩人イエイツが、グレイトブリテン島(英国)でなく、植民地と見立てられるアイルランド(島)の出身者であることにも、それは表れている。

伊藤整文学の本質的追究課題は、「個我(エゴ)」の問題であった。それが、現代においても読み継がれる所以である。彼が、作家として、あるいは市民として身を置いた日本社会は、近代社会としての成熟を未だみていない。明治維新を経て「文明開化」を成し遂げ、第二次世界大戦を経て欧米文化を受け入れるに至ってもなお、それは未完である。伊藤整は、個我(エゴ)の確立のないまま西欧文化を取り入れざるを得なかったところに日本社会の悲劇があると言う。こうした点については質疑応答でも取り上げられ、現代社会を超えていく上で、伊藤整が意識した課題は、今なお我々が直面する課題でもあるのではないかとの問いかけもあり、興味深い意見交換が続きました。(文責:国際高等研究所)

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