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第92回 けいはんな「ゲーテの会」

開催概要

「新たな文明」の萌芽を探る日本と世界の歴史の転換点で、転轍機を動かした「先覚者」の事跡をたどる

92

政治・経済

岩倉使節団150 年を機に「日本文明」の再興を考える  -受容する文明から需要ある文明へ-

【講演者】
瀧井 一博国際日本文化研究センター 教授
【講演者経歴】
1967年福岡県生まれ。京都大学大学院法学研究科博士後期課程を単位取得のうえ退学。博士(法学)。神戸商科大学商経学部助教授、兵庫県立大学経営学部教授などを経て、現在、国際日本文化研究センター教授。専門は国制史、比較法史。角川財団学芸賞、大佛次郎論壇賞(ともに2004)、サントリー学芸賞(2010)、フィリップ・フランツ・フォン・シーボルト賞(2015)受賞。主な著書に『伊藤博文』(中公新書)、『大久保利通』(新潮選書)、『増補版 文明史のなかの明治憲法』(ちくま学芸文庫)他多数。
【講演要旨】
今から150 年前、岩倉具視を大使とする総勢100 名を超える日本人が、1 年半以上の長きにわたって欧米諸国巡遊の文明視察の旅に出た。岩倉使節団である。それから150 年の歳月が経過し、その間、日本は急速な近代化を遂げたが、21 世紀に入って日本は明治維新にも匹敵するような国家と社会の再編成の時に直面している。日本は今、新たな岩倉使節団を必要としているのかもしれない。21 世紀の岩倉使節団に求められているもの、それは、日本の文化的遺産を受け継ぎながら、世界の変化を学び取り、それに適応した新たな文明のあり方を国際的に発信する知的冒険である。
開催日時
2023年5月12日(金)18:00~20:00  

ご講演者のご都合により、5月12日に延期して開催いたします。

開催場所
公益財団法人国際高等研究所 

【重要なお知らせ】今回はオンラインと会場参加のハイブリッド開催となります。

住所
〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
参加費
今回は無料
定員
オンライン 100名  会場参加40名(先着順・定員になり次第締め切り)
締切
2023年5月10日(水)必着

当日の様子

2023年5月12日(金)18時から第92回満月の夜開くけいはんな哲学カフェ「ゲーテの会」が、100人近い参加の下に、ハイブリッド方式(対面・遠隔)で開催されました。演題は『岩倉使節団150年を機に「日本文明」の再興を考えるー受容する文明から需要ある文明へ』。講師は瀧井一博先生(国際日本文化硏究センター教授)。

今年は「岩倉使節団150年」だが、国民的盛り上がりは見られない。2018年の「明治維新150年」もそうだった。1968年の「明治維新100年」の時と雲泥の差であった。それは何故か。①語り尽くされたこと、②第一人者(芳賀徹先生など)の逝去もあろうが、何よりも ③「失われた30年」の最中にあって心理的距離が生じたことが挙げられる。今や「明治」への賛美は、過去のものとなった感がある。

日本は、世界に類例を見ないほど、ものの見事に近代国家(中央集権国家)へと脱皮した。そして服装など生活文化の隅々に至るまで近代化をやり遂げた。その成功体験が、今や、日本の発展のネックとなっているのではないか。「坂の上の雲」を掴んだ今、日本は、何をすべきか。探りあぐねている。ハンティントンは『文明の衝突』(1996年)で、日本を「一文明一国家」として描き、グローバル化の中で孤立し、そのプレゼンスを失うであろうとの指摘を行った。この「ハンティントンの罠」を如何に回避するかが課題であろうか。

ところで、2020年、日本は議会制度130年を迎えた。日本では全く注目されなかった。しかし、発展途上国などでの注目度は高く、国際会議も開かれた。「何故、日本はその経験を話さないのか」などと糺される場面もあった。憲法制定・議会制度定着は欧米を除いてその例がない。日本の議会制度導入の経験は、人類史的意義があるとの評価である。

現代の日本のあるべき姿、進むべき道を示す言葉としては、「受容する文明から需要ある文明」が好適であろう。今、第二の「岩倉使節団」を派遣するとすれば、国際社会がどのようなニーズを有しているか、日本が貢献できるシーズは何かを探求する旅であろう。そして、国際社会と共に、「新たな世界」を探究することであろう。

質疑応答では、日本のアニメなどに描かれている自然観、人生観、世界観は、世界の注目の的である。これを識るに付け、これからの日本の真の国際貢献は、「絶対善」を前提とする「キリスト教的」世界観と対照的な、日本人的心性(「善・悪」の相対化)を基礎とした世界観を根底に据えるべきではないか。更に、これからの国のかたちは、幕藩体制を想起しつつ分権的であるべきではないかなど、興味深くも、また示唆に富んだ意見交換が、次々と交わされました。

  • 講師の瀧井先生
  • 講演会場の様子
  • 質疑応答の様子
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