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第93回 けいはんな「ゲーテの会」

開催概要

「新たな文明」の萌芽を探る日本と世界の歴史の転換点で、転轍機を動かした「先覚者」の事跡をたどる

93

科学・技術

人類の進化から見たヒトの文明と「人新世」

【講演者】
長谷川 眞理子独立行政法人日本芸術文化振興会 理事長
【講演者経歴】
東京大学理学部助手、専修大学法学部教授、早稲田大学政治経済学部教授、総合研究大学院大学教授、同大学 理事・副学長、同大学 学長を経て、2023年4月より独立行政法人日本芸術文化振興会 理事長、2023年6月より信越化学工業株式会社 社外取締役。
1996年Human Behavior and Evolution Society Best Poster Award、2001年日本進化学会教育啓発賞、2012年日本動物行動学会日高賞、2023年旭日中綬章。
著書は『私が進化生物学者になった理由』岩波現代文庫、2021年)、『人、イヌと暮らす 進化、愛情、社会』(世界思想社、教養みらい選書、2021年)、『進化的人間考』(東京大学出版会、2023年)、『ヒトの原点を考える』(東京大学出版会、2023年) など。
【講演要旨】
人類とは、常習的に直立二足歩行する類人猿の仲間である。現生のチンパンジーにもっとも近く、チンパンジーと人類の共通祖先が分岐したのは、いまからおよそ600万年前であった。およそ200万年前、樹上生活をやめて完全に地上生活に適応したホモ属が進化した。私たちホモ・サピエンスが進化したのは、およそ20万年前である。ホモ・サピエンスは、およそ7万年前からアフリカを出て全世界に拡散した。そして、およそ1万年前に農耕と牧畜を開始して定住生活を始め、200年前の産業革命からは、自前のエネルギー源を得た。今やその活動は地球環境を大規模に改変し、人新世と呼べる年代に入った。第3のチンパンジーに過ぎなかった人類が、どのようにしてこんな「異常な」存在になったのか、自然人類学や進化心理学の知見から考えてみたい。

<参考図書>
ギスリ・パルソン著、梅田智世訳(2021)、「図説 人新世:環境破壊と気候変動の人類史」東京書籍
開催日時
2024年1月23日(火)18:00~20:00
開催場所
公益財団法人国際高等研究所 

【重要なお知らせ】今回はオンラインと会場参加のハイブリッド開催となります。

住所
〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
参加費
今回は無料
定員
オンライン 100名  会場参加40名(先着順・定員になり次第締め切り)
締切
2024年1月19日(金)必着

当日の様子

2024年1月23日(火)18時から国際高等研究所コミュニティホールで、第93回『満月の夜開くけいはんな哲学カフェ「ゲーテの会」』が、ハイブリッド方式(対面と遠隔)で開催されました。講師は長谷川眞理子先生(日本芸術文化振会理事長)。演題は、『人類の進化から見たヒトの文明と「人新世」』。

なお、今回の「ゲーテの会」の開催は、<「新たな文明」の萌芽、探求を!>プロジェクトの2023年度の共通テーマ「文明論」を踏まえてのものでした。

長谷川先生から、ご自身の経歴にも触れてお話が始まりました。

人類学(霊長類:チンパンジーなど)、動物学(有蹄類:ダマシカなど)に関心を寄せ、アフリカなどでフィールドワークを展開。その過程で人間そのものに関心が向き、以後、20年余りにわたり、特に、人類(脳を含む身体)とその文化(心を含む環境)の相互進化と変容、その機序について研究を重ねて来た。これによって「ヒト」の本質的性向が明らかとなり、人間の在り方への見通しが得られるのではないかとの思いがあった。

人類(ホモ・サピエンス)の特徴として、臓器としての脳が体重比で、他の霊長類に比較して異常に大きいことが知られている。こうしたことも、この探究により明らかになるのではとの思いがあった。森から出でてサバンナに生きる道を選択した人類は、集団行動を余儀なくされ、その下での協力と競争、共同繁殖などを通じて、物理的、生物的な知能だけでなく社会的な知能(共感・言語)の発達が求められた。そこに「大きな脳」となった主因があるように思われる。

20万年の狩猟採集社会、それに続く1万年の農業社会。人類は、その緩やかな変化に適応して来た。しかし、「産業革命」を機にその変化は激変。人口の激増、経済の急拡大。ここ200年の工業社会で人類は莫大な外部エネルー(石炭・石油など)を獲得し、そして地質年代を画するまでに地球環境に影響を及ぼすに至った。1950年頃を境とする「人新世」である。また、ここ20年来の情報社会は、人類の、特に脳機能(神経細胞のネットワーク)に変化をもたらしつつあるようだ。人の本性の変化だ。「新・人類」の誕生と言えようか。「人新世」を生きるであろうこの「新・人類」は、如何なる文明世界を構築していくのであろうか。

質疑応答では、人類の進化と、個人主義・民主主義などの人間社会の発展との相関。脳の巨大化による多機能化と、その機能の可塑性の下での代替機能の発現による環境適応。脳機能の外部化(生成AI・chat GPT利用など)による人類の発展の可能性、あるいはその不可能性などについて、活発な意見交換が行われ、盛況裡に会を終えました。

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  • ご講演の様子
  • 質疑応答の様子
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