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第39回 けいはんな「エジソンの会」

開催概要

リアルの世界を超えて~メタバースの可能性~

講師
  • 廣瀬 通孝氏
    東京大学名誉教授
    東京大学先端科学技術研究センターVRプロジェクトリーダー

    1982年東京大学大学院修了(工学博士)。
    同年東京大学工学部専任講師、83年同助教授、99年東京大学先端科学技術研究センター教授、2006年東京大学大学院情報理工学系研究科教授、18年東京大学連携研究機構バーチャルリアリティ教育研究センター機構長など。20年4月より現職。
    専門はシステム工学、ヒューマンインタフェース、バーチャルリアリティ。主な著書に「バーチャル・リアリティ」(産業図書)、「ヒトと機械のあいだ」(岩波書店)など多数。総務省情報化月間推進会議議長表彰、東京テクノフォーラムゴールドメダル賞、大川出版賞、など受賞。
    日本バーチャルリアリティ学会会長、日本機械学会フェロー、産業技術総合研究所研究コーディネータ、情報通信研究機構プログラムコーディネータ等を歴任。
  • 加藤 直人氏
    クラスター株式会社
    代表取締役CEO


    京都大学理学部で、宇宙論と量子コンピュータを研究。同大学院を中退後、約3年間のひきこもり生活を過ごす。
    2015年にVR技術を駆使したスタートアップ「クラスター」を起業。
    2017年、大規模バーチャルイベントを開催することのできるVRプラットフォーム「cluster」を公開。
    現在はイベントだけでなく、好きなアバターで友達としゃべったりオンラインゲームを投稿して遊ぶことのできるメタバースプラットフォームと進化している。2018年経済誌『ForbesJAPAN』の「世界を変える30歳未満30人の日本人」に選出。
    著書に『メタバース さよならアトムの時代』(集英社/2022年)
開催日時 2022年5月19日(木)14:00~17:30
開催場所 公益財団法人国際高等研究所
住所 〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
概要  メタバース(Metaverse)は「Meta」(超越した)と「Universe」(宇宙、世界)の造語です。古くは15年以上前に一時期注目を浴びた「セカンド・ライフ」(仮想空間でのコミュニケーションと商品の売買のアプリ)に遡るが、昨年10月「フェイスブック」社が「メタ」に社名を変更し、メタバース事業への集中投資が発表されたことを契機に、再び大きな話題となっています。指数関数的な科学技術の進展により、これまで容易には実現できなかったサイバー世界の構築とリアル世界との融合が図られ、センシング技術や通信手順の大幅な改良とインターネットの普及とが相まって、メタバースへの大きな期待が高まっているものと思われます。

 第39回会合では、VR(バーチャル・リアリティ)の先駆的研究者であり、VR研究の第一人者として日本を牽引されている廣瀬通孝氏より、メタバースとは何か(メタバースをどのように定義し、どのような技術領域が重なり合い、社会が如何に変貌していくのか)、広範な横断的研究領域でのメタバースの世界と今後の展望についてご説明を頂きます。また、2015年にデジタル空間の構築とメタバースの世界の実現を目指して起業し、ForbesJAPANの「世界を変える30歳未満30人の日本人」に選出され、今もっとも注目されている加藤直人氏より、メタバースプラットフォームを通したビジネスの取り組みと今後の展開についてご説明頂きます。

 日本を代表する学術界のオーソリティである先生と企業のトップランナーをお迎えし、時間、空間、現実を超え、人間の営みや社会の在り方を根本的に変える可能性を秘めた「メタバースの世界」に触れて頂き、ご登壇者と討議をしながら、メタバースの可能性について一緒に考えてみませんか。
共催、後援、協力 【後援】 国立研究開発法人理化学研究所(予定)
     公益財団法人関西文化学術研究都市推進機構(予定)

タイムテーブル

13:30
受付開始
14:00-15:00
VRからメタバースへ廣瀬 通孝氏
東京大学名誉教授
東京大学先端科学技術研究センター サービスVRプロジェクトリーダー
15:10-16:10
メタバースの構築とサービスを通して、社会の変革を目指す加藤 直人氏
クラスター 代表取締役CEO

当日の様子

今回は、VRの創成期から研究開発に取り組まれ、日本を牽引する学術界のオーソリティの廣瀬氏と、2015年に起業し、メタバースの世界で企業をトップランナーに導いた加藤氏による非常に刺激的な会合でした。 
メタバースは、サイエンスの側面に加え、文化としての世界観を持ち、日本の得意とする分野、領域として、日本を復活させ、世界をリードする起爆剤となる可能性を感じました。時間、空間、現実を超え、人間の営みや社会の在り方を根本的に変える可能性を秘めた「メタバースの世界」に魅了され、今後の研究と社会の変化に注目して行きたいと思います。

VRからメタバースへ

廣瀬 通孝氏
東京大学名誉教授
東京大学先端科学技術研究センター サービスVRプロジェクトリーダー

廣瀬通孝先生

 VRを初めて世に知らしめたジャロン・ラニアは、起業時(1989年6月7日)のプレスリリースで、「VRは電子的な空間で物理的世界を創造できる新大陸である。」と、アメリカ大陸発見に倣って、この日をコロンブス-デイと名付けた。当初コンセプトの実現には技術が全く追い付いていなかったが、VR関連機器の低価格化やスマホの進化と相まって、2016年ポケモンGOの発表により漸く普及に弾みがついた。
 メタバースの「メタ」は、超越するということではなく、「set aside」ちょっと現実とは違うと捉えればよいのではないか。メタバースとVR/ARとの決定的な違いは、ネットワーク化された複数人が作るコミュニティである。その世界は、Webのような広い概念であり、インターネットの先という捉え方で、VR/ARとDXの進化に身体性・空間性を加え、その背景に強力な通信があると考えればよいだろう。
 メタバースを、縦軸に意識の軸足が現実世界かシミュレーション世界か、横軸に自分(内)か環境(外)か、のXY軸で捉えると、第4象限は「バーチャルワールド」セカンドライフやVRChatなどのVRの世界、第3象限は「ミラーワールド」GoogleアースやPlateauなどのいわゆるデジタルツインの世界、第2象限は「Augmentation Reality(AR)」ポケモンGOに代表されるARの世界、第1象限は、「Lifelogging」Instagramのような限りなくリアルで個人に近く、自身の記憶が拡張される世界、の4つに分類することができる。
 また、これらの象限をそれぞれどのように繋げていくかについては、「Models・Immersion(没入)」、「Identity・Interaction」、「Interface・Network」、「Sensors・Everyware」の大きく4つの技術領域で捉えることができる。 
 2007年に発表されたロードマップには、メタバースの普及とパンデミックとの関係が記されているが、まさにコロナ禍が情報技術を普及・促進させ、その評価を高めた。今や情報技術はBCP(Business Continue Plan)にとって非常に重要であり、ワクチンなどの医学的な生存戦略技術と同等、あるいはそれ以上に有効な生存戦略技術であることが認識された。我々は、オンラインリテラシーという強力で、ある意味大きなリソースを手に入れたのである。
 メタバースは経済圏として成立すると考えるが、そのためには、DXで規模を拡大し、市場を席捲して大規模経済圏を作ったGAFAの例や、紙の通貨が仮想通貨にデジタル化し、バーチャル決済のパスによるリアルからVR経済圏への移行の可能性など、広範な領域を踏まえながら、経済圏をデザインすることが求められる。
 最後に、資料に浮かんだ犬の姿が見れるだろうか。犬が見えた、見えないという議論ではなく、一度見えてしまったものは、見えない昔の自分を想像できないということである。つまり、メタバースの世界が見えた人、見えない人、相互間でより良い世界を築くための議論を続けていかないといけない。

メタバースの構築とサービスを通して、社会の変革を目指す

加藤 直人氏
クラスター 代表取締役CEO

加藤直人先生

 弊社はメタバースのプラットフォームを提供し、法人向けイベント企画・運営事業と、ユーザーの住む世界の開発運営を行う事業とがある。法人向けでは、街の再現やライブイベント、スポーツ観戦、ゲームの再現、ポケモンテーマパーク、高校・大学の入学式・卒業式や文化祭等、同時に数万人が一カ所に集うバーチャルイベントで、累計1000万人以上が利用し、イベント件数では世界トップである。
 クリエイターやユーザー(住人)は、メタバースの世界を自ら創造することができるという世界観を持って、個々のコミュニティやイベントを作っており、弊社はソフトウェア群を提供するのみである。一般的なユーザーは、1日平均2.5時間をメタバースの世界で過ごし、ヘビーユーザーでは5時間以上を過ごしている。黎明期でもあり、現状ではユーザー同士の関係においてはモラルが確立されていない。
 メタバースではバーチャルの世界のデータが全て残るので、過去を再現することも可能である。モーション/ボイス/エモーション等のデータをAIで解析し、身体情報学や脳神経科学にも繋げ、エコシステムへの還元を目指してメタバース研究所を作った。
 メタバースには多くのグローバル企業が参入し、2030年までには150兆円の巨大市場になると予測されている。メタバースのマーケットは、「デバイス」、「体験」、「空間」の3つに大きく分けられるが、空間プラットフォームの領域は、ゲーム技術に加えてウェブ・アプリケーション系の技術が必要な非常に難しい分野であり、世界的に見ても取り組んでいる企業は非常に少ない。
 この「空間」領域は、日本の最後の砦であり、世界を牽引することが可能ではないかと考えている。日本は他国に比べクリエイターの数の多く、彼らが生み出す文化に支えられた「アバターの豊かさ」があり、充実したデジタルコンテンツの提供が可能である。ただ、溜まりすぎたデータの扱いとプライバシー問題については、早急な法の整備や法規制が必要となるだろう。
 弊社のミッションは「人類のクリエイティビティを加速しよう」であるが、歴史上、人類の創造性を加速させたのは紙であった。紙の次は来るものは、「デジタルによって構成された空間」であり、紙のNextメディアとしてバーチャルスペースを作る試みがメタバースだと考えている。
 デジタル空間で世界全てをシミュレートすることは可能か。1kgの岩の全構成粒子の情報量と全人類のDNA情報量を比べると、岩(10の27乗)は全人類のDNAの情報量(10の10乗)をはるかに凌ぐことが分かる。人間の認識という点でみると、緻密でもなく細かくはないので、メタバースは、人間ファーストで情報を圧縮し、デフォルメされた世界があれば充分だと考える。また、人間の脳は現実世界を圧縮し、デフォルメするのに優れているので、個々の脳をネットワークで繋ぐことが、メタバースの理想の最終系であろう。
 尊敬する物理学リチャード・ファイマンの部屋には、「私が自分で作れないものは、私が本当の意味で理解していないものだ」と書かれていた。バーチャルスペースで現実を創るという試みは、現実を理解するという試みに他ならない。今後も現実の理解を通したメタバースの構築が、より良い社会の実現に貢献し、人類のクリエイティビティの加速に寄与していきたいと考えている。

[インタラクティブ・セッション]

テクノロジーの功罪と人類の脆弱性、リアルとバーチャルのバランス、GAFAの脅威と対抗策、産業構造の変化と人材の流れ、人間の制約とそこからの解放、起業家精神と若者のモチベーション、軍事産業と国際競争力、研究開発におけるトランスサイエンスの重要性、メタバースでの距離の概念、ニュートンの古典力学と現実世界のリーマン幾何学、など多様な側面から様々な意見が出されました。参加者から途切れることのない質問や問題提起があり、登壇者と会場とのやり取りは大いに盛り上がりました。

  • インタラクティブ・セッション
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