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自主研究

文化芸術と科学の対話の構築

研究代表者:赤松 玉女
国際高等研究所副所長、京都市立芸術大学名誉教授、前理事長・学長、画家

 これまで、科学は「客観的な真理」を追い求め、芸術は「主観的な表現」を重んじるものとして、別々の文脈で語られる傾向がありましたが、現代社会が直面する複雑な状況に対しては、単一の視点だけでは十分な解は得られません。そこで本研究では、文化芸術と科学との対話を通じて、互いの思考プロセスに学び合い、人間の営みの根底にある芸術の可能性を探ります。
 芸術家が制作に向かう時、また科学者が研究を進める時、そこには「観察と思索を往復するプロセス」が存在します。この「観察」と「思索」の循環に着目し、芸術家と科学者が思考過程を共有する場をつくり、観察と思索の往復から芸術と科学をつなぐ試みを行います。その際、いわゆる「アート思考」といった観念的な手法に留まらず、国際高等研究所(以下、高等研)という研究の場に芸術の制作現場自体を迎え入れることにより、実践に根ざした相互関係の構築を試みます。
 2026年度は、所内外の研究者や関係者が「アートと高等研の出会い」を実体験するフェーズとし、「アート茶会」を始動します。また、2027年度以降の本格的なアーティスト・イン・レジデンスや、芸術実技系の若手研究者を中心とする研究合宿の実施に向けた土台作りの年度と位置付けます。

<研究企画・統括>
主任研究員
 小山田 徹    京都市立芸術大学理事長・学長、美術家
 石原 友明    京都市立芸術大学名誉教授、芸術資源研究センター客員研究員、美術家
 谷本 天志    大手前大学建築&芸術学部教授    
 ひろい のぶこ  京都市立芸術大学名誉教授、染織作家 
特任研究員 
 𡌶 美智子    京都市立芸術大学芸術資源研究センター非常勤研究員、成安造形大学等非常勤講師

1)アート茶会「茶室は静かな思考の実験室になりうるか?」
 高等研に眠っていた茶室《雅松庵》。この静寂の空間を、問いと向き合う「実験室」として再起動します。
 茶室という場を共有し、心と感覚を開いて、対話が生まれる環境をつくります。芸術家の新たな技術や表現を「問いのきっかけ」として、参加者一人一人が自らの感覚や価値観を見つめ直す機会を提供します。
 言語化される前の「あれ?」という感覚──そのノイズが科学者の知性と衝突したとき、 どのような対話が立ち上がるのか。そこでは、単なる「もてなし」や「鑑賞」を超え、解釈の違いそのものが共有すべき体験へと変容します。
 こうした共有体験を通じて生まれる対話こそが、高等研が目指す知の循環の実践だと考えています。



2)パイロット・レジデンス
 2027年度に実施予定の国際レジデンスに向けた、試行的実践を行います。アーティスト・イン・レジデンスは、芸術家が一定期間ある場所に滞在し、制作を行う仕組みです。その過程でワークショップやディスカッションを行い、対話や議論を深めていきます。
 高等研に日常的な相互関係構築の環境をつくることで、科学的知見が芸術的表現を刺激し、芸術的感性が科学的問いを深めることができます。その往復を通じて、従来の専門分野の枠を越えた視点が生まれることを期待します。
 2026年度は、二人の芸術家からなる「副産物産店」(矢津吉隆氏、山田毅氏)が滞在します。「副産物産店」は、アーティストの制作現場から生まれる「副産物」を収集・再構成しながら、「ものの価値や可能性」について考察を行ってきたアーティストユニットです。
 本研究では、その視点を芸術制作に限らず研究活動へと拡張し、研究者との対話、制作、記録を往復する実践を行います。研究過程で生まれるメモ、図、使用されなくなった資料、試行錯誤の痕跡などもまた、研究活動における「副産物」として捉え直すことを試みます。
 高等研という場所に滞在することで見えてくる、施設や地域のなかに存在する素材や風景にも着目し、研究者との対話を通じて、それらの価値や意味について考察を行います。
 さらに本研究では、AIを活用した記録・編集・分析の実践にも取り組みます。映像や音声、テキストなどの日常的な記録を蓄積しながら、新しい技術を運用することで、従来とは異なる視点や表現へとどのように接続できるのかを検討します。

3)研究と表現のあわい ―新しい報告のカタチ―
 研究成果報告書や情報発信のあり方において、芸術・表現を取り入れた新たな伝達形式の可能性を探ります。単なるデザイン調整や表層的な装飾ではなく、研究と芸術が互いに刺激し合う表現として構想し、共創を試みます。同じテーマについて表現と研究との狭間に互いの発見があることを期待します。
 一般的な研究報告では、成果や結論が整理された形で提示されます。一方で本研究では、そこに至るまでの日常、制作、対話、生活、試行錯誤といった「過程」そのものにも重要な価値があると考えています。そこで、定点観測的な記録を継続的に行い、高等研における日常や制作風景、研究者との対話などを映像・写真・音声・テキストとして蓄積していきます。これらの記録を通じて、完成された成果物のみを提示するのではなく、研究と表現が交差する過程そのものを共有する、新たな研究報告の形式について実験的に取り組みます。
 加えて、AIを活用した記録整理や編集、生成技術なども取り入れながら、膨大な日常の記録や対話の蓄積をどのように新たな表現や報告へ変換できるのかを検証します。技術を単なる効率化の道具としてではなく、研究と表現の関係性を更新するための媒介として位置づけ、従来の研究報告とは異なる共有方法について探求し、新たな伝達方法の可能性を探ります。

4)その他の表現・研究
 「わたくし学問研究会」(磯部洋明氏、戸澤幸作氏、富田直秀氏ほか)、「國府理《自動車冷蔵庫》修復プロジェクト・関連プログラム・見守りAIR(アーティスト・イン・レジデンス)」などを実施します。

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