自主研究
社会課題の変容に対応する学術の新たな布置の探求
- 研究代表者:小林 傳司
- 国際高等研究所副所長、大阪大学名誉教授
近年注目され、日本でも取り組みが始まっているELSI/RRI研究の背景を探り、学術の変容とその未来を探ります。(ELSI:Ethical, Legal and Social Issues/RRI:Responsible Research and Innovations)
21世紀初頭以降、学術は従来の「真理探究」だけでなく、「社会課題の解決」や「イノベーションへの貢献」を重視する方向へと変容してきました。ELSI や RRI もこの流れの中で位置づけられます。社会的・政策的課題への科学的助言の需要増大や、「成果主義」と呼ばれる発想に基づく公共投資の広がりは、学術の「利用」への関心の高まりを示しています。こうした変遷の背景を考察するとともに、伝統的な真理探究とのバランス、そして将来の学術の望ましいあり方を検討します。
その際、注意すべきは、現代社会が学術の「利用」により解決を求めている課題が、VUCA(Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguity)、「複雑困難事例(Complex and Difficult Cases)」、「システミックリスク(Systemic Risk)」、「厄介な問題(wicked problem)」などと呼ばれるように、その性格を変えていることです。さらに、学術の側も、20世紀末から生まれてきた新興科学技術(emergent technologies)や第四の科学とも呼ばれる「データ駆動型科学」など、新たな展開を見せています。
社会的課題の変容と学術の目的の変化、新たな学術の出現を俯瞰的に把握し、現代の「百科全書」ともいうべき学術の見取り図を作成することを目指します。
本研究は、外部研究者からなる複数の研究グループにより実施します。その際、副所長が中心となり研究のコーディネーションを行います。
1)実証困難性時代の安全学(菅原慎悦プロジェクト)
国際高等研究所ではかつて、村上陽一郎氏を主査として総合的・学際的なプロジェクト「安全学」の構築を試みました。この時の研究は「生命・医療」、「都市」及び「国際政治」を取り上げて安全の問題を扱い、メタな観点での「安全学」の構築を目指したものですが、これ以降、日本を含む世界は多様な事故や震災を経験し、リスク論研究、安全研究、技術哲学などがグローバルに進展してきました。今回はこのような過去の研究の蓄積を踏まえつつ、現代的な「安全学」の展開を図ります。
ここでは「直接的な実験や観察が困難な事例」の安全性をどのように考えるかを問います。更にはこのような事例に関する「科学的知識」に基づいて、社会的意思決定をどのように行うか(社会技術的確信の形成)を課題とします。
主任研究員
菅原 慎悦 関西大学社会安全学部教授(研究代表者)
参加研究者
伊藤 大輔 関西大学社会安全学部教授
岡本 満喜子 関西大学社会安全学部教授
小林 大志 京都大学大学院工学研究科准教授
寿楽 浩太 東京電機大学工学部/教養教育センター教授
松村 一志 大阪大学大学院人間科学研究科准教授
特任研究員
小林 誠道 関西大学大学院社会安全研究科博士課程後期課程
2)「過去」の使用と誤使用(橋本伸也プロジェクト)
国や地域社会、そして個人は、自らの来歴を語る物語を持っています。いわば「過去」の語りなのですが、それは歴史学が想定する実証的に確認可能な「事実」とは違って、脚色や脱色、修正と歪曲、さらには完全な創作ないし捏造をも含み込んだものであることが多いのです。いわば過去の「誤使用」です。
こういった来歴の物語は、国や地域社会、個人のアイデンティティのよりどころですが、同時にそれが異なる諸個人間・諸集団間・諸国家間の敵意を招いて紛争化したりするのです。現在、世界で生じている紛争の多くは、このような過去の記憶の衝突とでもいうべき事例です。
過去の「使用」と「誤使用」の問題を十分に理解するには、時間の観念を有する人間の行う諸活動における「過去」の意味というより広い視野で検討することも必要です。そのため、歴史学や考古学のみならず、オーラルヒストリー、心理学、哲学、宗教学、神話学、博物学などの諸学の知見を総合し、過去の扱われ方と時にそれが「誤使用」と呼ばれるような事態に陥る条件を解明することが、本研究の目的です。
主任研究員
橋本 伸也 関西学院大学文学部教授(研究代表者)
参加研究者
飯島 渉 長崎大学熱帯医学研究所教授、熱帯医学ミュージアム館長
小田中 直樹 東北大学副学長・大学院経済学研究科教授
木下 孝司 神戸大学大学院人間発達環境学研究科教授
久保 昭博 関西学院大学文学部教授
窪田 幸子 芦屋大学学長、神戸大学名誉教授
鶴見 太郎 東京大学大学院総合文化研究科准教授
朴 沙羅 京都大学大学院人間・環境学研究科/地球環境学堂准教授
柳澤 田実 関西学院大学神学部准教授




