本報告書は、2006～2008年度まで実施した高等研研究プロジェクト「スキルと組織」の研究成果を取りまとめたものである。この研究プロジェクトの要旨は以下の通りである。 （本報告書のまえがきより抜粋）

要　旨

「スキル」を学術の対象として科学するという着想は、大阪大学・神戸大学名誉教授で〈財〉国際高等研究所のフェローでもある岩田一明先生の提起に始まる。著者は、1993年度から1996年度にかけて岩田先生（当時は大阪大学教授）が主宰された「熟達マシンシステム研究に関する委員会」からメンバーに加えていただき、その後先生が〈財〉国際高等研究所のフェローに就かれたのを機に、同研究所特別研究「スキルの科学」（2002年度～2006年度）を実施されるに際し、メンバーとして参加をしてきた。このような経緯の中で、「スキル」研究は、いつしか自身の中でもライフワークとも言える程に大きな関心事として根付くようになった。そして、「スキルの科学」の後継プロジェクトを提案する機会をいただき、2006年度から2009年度の研究期間で、特別研究プロジェクト「スキルと組織」を実施するに至った。本報告書は、この「スキルと組織」の研究プロジェクトに参加いただいたメンバーを中心に、４年間の議論にもとづいて、組織におけるスキルの諸相について、参加者各々の視点から執筆頂いた研究活動の集大成である。

本研究プロジェクトの立ち上げ時、巷では「2007年問題」への対応が叫ばれていた時期であった。日本の多くの産業分野で技術力や技能の高い人材が集中している「団塊の世代」の退職に伴って「失われるスキル」をどのように技術継承していくかが議論されていた時期である。また世紀の変わり目をまたぐ10年の間に引き続いた原子力関連分野や鉄道輸送の事故は、事故を起こす要因が単に事故に直接関係したものだけに限られるわけではなく、本質的原因は「組織」の中に求められることが議論され始めた時期でもあった。（略）