2024年夏季IIAS塾ジュニアセミナー
当日の様子
8月7日(水)、8日(木)、9日(金)の3日間、高等研の研究棟・宿泊棟を活用し、2泊3日の合宿型にて開催しました。
学習テーマは「人物学習型」とし、2024年春季と同様、「本居宣長」「大河内正敏」「梅棹忠夫」を取り上げ、また、「体験学習(心身の知)」プログラムを継続実施しました。応募者数は、定員20名のところ22人(高校生21人・大学生1人)、また参加校は、10校(うち新規3校)で、その地域は、京都、大阪、奈良、兵庫と、何れも近畿圏からの参加でした。
1日目
午後1時から開講式。IIAS塾ジュニアセミナー開催委員会委員長 松本紘先生(国際高等研究所所長)からから開講の挨拶。午後1時過ぎから「思想・文学」分野の学習へ。冒頭、田中康二先生からメインテキストの振り返りと、予め受講生から寄せられた質問事項に答える形でショートレクチャー。先生から、①国際化時代には、自らの「大和魂」(アイデンティティ)に誇りと自信を持つとともに「もののあはれを知る」(お互いを尊重する気持ちを持つ)ことが重要。
②「もののあはれを知る」説は唐の詩人白楽天にも見出せる説があるが、多くの人に共通する「もののあはれを知る」ような「心の動き」は、文化が成熟した社会においては、同時多発的に生じるのではないか、などの見解が述べられました。その後各グループに分かれてTAのサポートの下に討議。午後4時15分からは、レクチャーホールでTAの研究紹介。多様な分野にわたるTAの研究紹介に、受講生、大いに刺激を受けた様子でした。その後、夕食を済ませ、グループに分かれての第一日目の討議のまとめを行うなど意見交換。最後に皆で花火を楽しむなど交流を深めました。
2日目
午前9時から「政治・経済」分野の学習。冒頭、齋藤憲先生から、予め受講生から寄せられた質問事項に答える形でショートレクチャー。①社会生活を送って行っていく上で自分の「個」を持って生きていくことが決定的である。先人の部分知を乗り越えて確信をもって生きていくことが求められる。②産学連携、技術教育を言う前に企業活動の意義等について学び、知的好奇心を喚起し、実際に起業家を生み出すことが必要である。③アメリカにおいて起業家精神が旺盛な要因の一つには、宗教(カルヴァン派)との関係、神と個人との関係の在り方があるなどの応答がありました。その後各グループに分かれてTAのサポートの下に討議。昼食は、高等研の近くのオムロン㈱・京阪奈イノベーションセンタの社員食堂で摂り、午後1時からは「科学・技術」分野の学習。冒頭、モンゴル滞在の小長谷有紀先生からオンラインでショートレクチャー。モンゴル草原などの今を映像でご報告いただくとともに、受講生から予め寄せられた質問に答えて、梅棹忠夫の情報社会を見通した人間のパーソナルな情報発信力、ローマ字表記の有用性に関する見識は、自分自身の知的な欲望に忠実に、妄想と実践を行きつ戻りつしながら歩んだことで、その未来が見えたのではないか、などのお話がありました。その後各グループに分かれてTAのサポートの下に意見交換。午後4時から7時半過ぎまで、「造形作品の共同創作を通じて体得する「もう一つの知、身体知」」をテーマとする体験学習(心身の学)プログラム。MI(マルチプル・インテリジェンス)研究者の村上忠幸先生のご指導の下にMI手法に基づき5グループのドリームチームを編成。その後、人形作家の岡本道康先生のご指導の下に、各チームで街づくりをテーマに共同創作。最後に村上先生のご指導の下に、「デボノの帽子」の手法を用いて省察。自己と向き合う時間を持ちました。共同創作の後は、夕食を兼ねての全体交流。その後、更に、最終日のまとめに向けて夜遅くまで意見交換を続けました。
3日目
午前9時から10時30分過ぎまで全体討議。この全体討議は、前日までのグループ討議の内容をグループ間で共有し論点を深める場で2グループに分かれ、各班相互に質疑応答交わしながら意見を深めました。10時30分過ぎからは、午後のレポート報告に備えて各グループに分かれ各自の考えを整理。午後1時30分から、TAの司会の下でのレポート報告。セミナーに参加して学んだこと、考えたことなどを受講生一人ひとり、グループ単位に発表。異口同音に、IIAS塾では、普段の学校生活では得られない物事を深く考える機会に恵まれ、心置きなく意見交換でき、討論がとても楽しかった。考えの幅を広げ、新しい自分の発見にも繋がった。特に、体験学習プログラムで実施した他者から見た自分の評価では、新たな自己発見があり新鮮であった。などの発言がありました。
最後に、講師(田中康二・齋藤憲先生)から講評をいただきました。受講生の学びに対する積極的姿勢を大いに評価したうえで、グループ討議を聴くに付け、卓越した一人の意見も去ることながら衆知を集めて考えを深めていくことの大切さ改めて感じた。などのお言葉をいただきました。閉講に当たって、和氣弘明 国際高等研究所専務理事(IIAS塾ジュニアセミナー開催委員会委員長 松本紘先生代理)から各人に「受講証」の交付が行われ、その後、閉講の挨拶。文理にわたる幅広い学びを続け、激動する現代において、適切に対応できる実力を養ってほしい旨の餞の言葉がありました。閉講式の後、和氣専務理事、田中・齋藤講師、児玉TA代表を囲んで、各受講生、TAなど参加者全員で集合写真に納まりました。
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グループ討議の様子 -

交流の様子(休憩時間にお庭にて) -

体験学習の様子 -

3日目全体討議の様子 -

集合写真 -

受講生、TA揃っての昼食
参加者の声
- 自分の視点を広めることができる他に、自分の将来をより豊かにするようなものだった。
- 高2男子
- 講義や討論以外でも天体観測など普段できないことを友達とする貴重な経験ができた。
- 高1女子
- まったく知らない人と共同生活を行い、 1日中議論をする機会は中々無く、 とても有意義な時間であり 人生のなかでも上位の思い出になった。
- 高1男子
- 今回のセミナーでは、お互いの学園祭を見に行くなど、今後も関わっていきたいと思うメンバーに出会えました。同年代の人と真剣に議論したり雑談したりなどして絆を深められたのがよかったです。
- 高1女子
- 全体的に様々な面でとてもいい機会になったと思います。事前学習の大切さ、当日講義で求められる理解力、そしてみんなと深く議論する楽しさを学びました。
- 高1女子
- 高校一年生の夏は宝物になりました。本当に本当にありがとうございました。
- 高1男子
開催概要
講師とテキスト主題

田中 康二
- 皇學館大学文学部教授
- メインテキスト
- 「本居宣長」に学ぶ ―「もののあはれを知る」と「漢意」、その多義性と先駆性―
- サブテキスト
- 田中 康二「本居宣長―文学と思想の巨人」中公新書(2014年)
1965年大阪市生まれ。神戸大学文学部卒業。同大学院文化学研究科文化構造専攻退学。博士(文学)。
富士フェニックス短期大学専任講師・助教授、神戸大学文学部助教授、同大学院人文学研究科教授を経て、2018年皇學館大学文学部教授。
2001年第27回日本古典文学会賞(財団法人日本古典文学会)受賞。
著書に、『村田春海の研究』『江戸派の研究』(以上、汲古書院)、『本居宣長の思考法』『本居宣長の大東亜戦争』『本居宣長の国文学』(以上、ぺりかん社、宣長論三部作)、『国学史再考―のぞきからくり本居宣長』(新典社選書)『本居宣長―文学と思想の巨人』『真淵と宣長―「松坂の一夜」の史実と真実』(以上、中央公論新社、宣長伝三部作)など。
本居宣長とは何者か。日本古典文学の研究を大成した先達であると同時に、実証的に日本の優位性を主張した初めての日本人でもある。前者は国文学者の顔であり、後者は思想家の顔である。宣長は二つの顔を持つヤヌス(双面神)であった。それゆえ、どちらか一方だけを見ると、その実像をとらえ損なってしまう。評論家はそれに「宣長問題」というレッテルを貼って神棚に上げてしまった。
そこで、本講演では宣長の書いた文章に即して、国文学者としてのプロフィールを「もののあはれを知る」説を通じてとらえ、思想家としてのプロフィールを「漢意」を通して考えてみたい。いずれも宣長学を考える上で必要欠くべからざるキーワードであるにもかかわらず、かならずしも正しい理解が行きわたっているわけではない。グローバル(国際化)が合言葉である21世紀こそ、宣長の提唱した「もののあはれを知る」説を正しく理解、運用し、排他的ではない「漢意」排斥の精神を習得する必要があるということを確認したい。

齋藤 憲
- 専修大学名誉教授
- メインテキスト
- 「大河内正敏」に学ぶ ―「科学主義工業」こそ、産学連携「理研モデル」の核心―
- サブテキスト
- 『評伝 大河内正敏 -科学・技術に生涯をかけた男』日本経済評論社 (2009年)
1947年、東京都生まれ。専修大学名誉教授。
早稲田大学商学部卒、同大学院商学研究科博士課程満期退学。横浜商科大学教授、関東学院大学経済学部教授、専修大学経営学部教授、同大学経営学研究科科長などを歴任。
『新興コンツェルン理研の研究 大河内正敏と理研産業団』(1987年 時潮社 )で早稲田大学商学博士、日経経済図書文化賞受賞。その他著書に『稼ぐに追いつく貧乏なし 浅野総一郎と浅野財閥』(1998年 東洋経済新報社)など。
産学連携とは、新技術の研究開発や新事業の創出を目的として、教育機関や研究機関と民間企業が連携することなのは、現在よく知られている。しかし、そこに至るためには、多くの時間を必要とした。明治以降、外国から工業・技術を導入して産業を育成し、近代国家を目指した日本にあっては、自身の手で新技術を研究開発し、新事業を創出することなど思案の外にあった。研究開発するための教育・研究機関は不十分だったし、それを工業化する技術を持った民間企業もないに等しかった。そうした時代にあって、工学に物理実験を導入して工学教育を前進させ、「外国の模倣」を脱皮するため生まれた理化学研究所の所長に就任して同所を再建し、研究資金獲得と発明の工業化を実践するために理研コンツェルンを創った男がいた。彼の活動とその背景を概観し、合わせて産学連携を促進できる諸条件を皆さんと一緒に考えてみたい。

小長谷 有紀
- 国立民族学博物館名誉教授
- メインテキスト
- 梅棹忠夫」に学ぶ ―「文明論」的視点を持って物事を考える。「旅」はその基盤-
- サブテキスト
- 梅棹忠夫『文明の生態史観ほか』中公クラシックス(2002年)
1957年大阪府生まれ。1979年に、日本人女性として初めて、社会主義下のモンゴルへ留学し、以来、遊牧民たちの生業技術から儀礼まで幅広く研究してきた。1987年にはまだ文化大革命の傷が深く残る内モンゴル社会科学院に留学し、文献学の研鑽を積む。近年では、中国およびモンゴル国で口述史を収集し、社会主義化前後のリアルな記憶を鮮やかにうつしとることに成功している。長年、国立民族学博物館に勤務し、1998年には特別展「大モンゴル展」を、2011年には特別展「ウメサオタダオ展」を企画運営した。2013年春に紫綬褒章を受章した他、モンゴル国から2007年に友好勲章、2022年に北極星勲章を受章した。
梅棹忠夫の山歩きや探検の記録は、ほぼすべて国立民族学博物館に残されており、「梅棹アーカイブズ」と総称されている。それらは現在も整備中であり、随時、公開されている。講演者は国立民族学博物館に勤務した最初の仕事として、梅棹著作集第2巻『モンゴル研究』の編集を任され、没後には、著作集に関わった最年少者であったため、追悼展を担当した。その際に、モンゴルに限らず、アフリカ、ヨーロッパなど世界中に出かけた彼の足跡を資料で追いかけ、「梅棹アーカイブズ」の全容を調査しなければならなかった。この時の経験は、拙著にまとめてあるのでぜひご参照いただきたい。今回の講演では、とりわけ「文明の生態史観」に関連する資料を取り上げ、綿密な観察と記載、素朴な発見を経て、大まかな見取り図が完成する様を確認しよう。また、そうした思索の旅の原点がモンゴル調査であったこともぜひ追認しておきたい。

岡本 道康
- 人形作家 森のねんど研究所代表
- メインテキスト
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体験学習―心身の学 テーマ:『造形作品の共同創作を通じて体得する「もう一つの知、身体知」』
人形を共通言語にコミュニティの場をつくる活動をしている。2012年/木くずを使ったねんどの開発に着手。2014年/「森のねんどの物語」をコンセプトに「森のねんど」を考案。地域デザイン研究員に任命され「生きた博物館構想」を研究課題とする。自然と共に生きる社会をテーマに「森のねんどのまちづくり」ワークショップを全国各地で開催。2019年/地域コミュニケーションの場づくりのために「森のねんど研究所」を、奈良県大和郡山市井戸野に開設。2022年/奈良県建築士会主催の「場を生むデザイン賞」にて最優秀賞を受賞

村上 忠幸
- 京都教育大学名誉教授
- メインテキスト
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体験学習―心身の学 テーマ:『造形作品の共同創作を通じて体得する「もう一つの知、身体知」』
兵庫県生まれ。広島大学大学院生物圏科学研修科修了。博士(学術)1984年から兵庫県高等学校教諭(化学)を15年間勤めたあと、1999年から京都教育大学助教授、2007年から教授、2022年名誉教授。アゲハチョウの化学生物学、理科教育(探究学習)、教師教育(リフレクション)を研究。探究プロセス、マルチプル・インテリジェンス、省察、コーチングなどを研究・実践している。2005年から毎年オランダを訪問し、調査や研究を実施。オランダの教員養成、学校教育、イエナプランなどにも精通している。
募集要項
| 募集対象 | 高校及び大学の学生で、IIAS塾ジュニアセミナー開催委員会において、受講を認めたもの概ね20名。 |
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| 応募対象 | 申込フォーム(Googleフォーム)より必要事項を記載のうえ送信。ただし、高校生にあっては、当該高等学校の教員の推薦及び保護者の同意を得たうえで「推薦書・同意書」を郵送またはE-mailにて送付。いずれも提出締め切りは、2024年6月16日(日) |
| 受講決定 | 選考結果は、2024年6月下旬、応募者本人宛て、「申込フォーム」に入力された住所へ郵送により通知。 |
| 開催日 | 2024年8月7日(水)~8月9日(金) |
| 開催場所 | 公益財団法人国際高等研究所 (京都府木津川市)アクセスマップ |
| 宿泊場所 | 国際高等研究所の施設内にある宿泊棟(予定) |
| 参加費用 | 無料 (ただし、宿泊食事代の1万円は参加者負担) |
| 問い合わせ・申込先 | 公益財団法人国際高等研究所 IIAS塾ジュニアセミナー開催委員会事務局 〒619-0225 京都府木津川市木津川台9-3 Tel:0774-73-4000/Fax:0774-73-4005 E-mail:iias19-2015@iias.or.jp URL:http://www.iias.or.jp/ |
| 共催、後援、協力 | 【主催】公益財団法人国際高等研究所(IIAS塾ジュニアセミナー開催委員会) 【後援】京都府・奈良県・滋賀県・和歌山県の各教育委員会(予定) 【協力】京都大学、大阪大学 |
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