2025年春季IIAS塾ジュニアセミナー
当日の様子
「IIAS塾ジュニアセミナー」が3月26日から28日の2泊3日の合宿型で開催されました。参加者は、高校生・大学生19名。参加校は12校(うち新規校8校)でその地域は、京都、大阪、奈良、兵庫の他、東京、愛知、岡山、山口と広域からの参加でした。学習テーマは「人物学習型」で、「ベルクソン」、「岩倉使節団」、「化学者たちの京都学派」を取り上げました。また、「体験学習(心身の知)」として「アート思考への誘い」を実施。リベラルアーツを旨とし、「思想・文学」「政治・経済」「科学・技術」「体験学習」の4分野で、講義、グループ討議、全体討議、レポート報告などが行われました。グループ討議は、大学院生を中心とするTAのサポートを得て運営しています。
【第1日目】
19名の受講生と8名のTAが参加しました。ガイダンスと施設案内の後、開講式では、IIAS塾ジュニアセミナー開催委員会委員長代理で当研究所の和氣弘明専務理事より、分野横断的な学び、正解のない課題への挑戦、地域・学校を超えた交流などを挙げ、セミナーの特色について話がありました。また、これまでの卒塾生が約70校から360名を超えていることにも触れ、受講生たちに知的刺激を得て、学びを深め、広げて欲しいと激励しました。
開講式後には、「思想・文学」分野の学習が行われ、瀧一郎先生が事前に寄せられた質問に答える形でショートレクチャーを実施。①哲学と科学について、②人間の認識について、③芸術と哲学について、④人間について、⑤教育と教養についての説明がありました。
続いて、TAのサポートによるグループ討議が行われ、「直観」をテーマに活発な意見交換がなされました。
その後、TAによる研究紹介が行われ、受講生たちは多様な分野の研究に触れ、知的刺激を受けました。夕食はバイキング形式で交流しながら食事を摂り、引き続きグループに分かれ、第一日目の討議内容をまとめ、意見交換を行い、初日を終えました。
【第2日目】午前中は「政治・経済」分野の学習が行われ、瀧井一博先生が、日本の近代化の歪みと是正、田中角栄の「日本列島改造論」、大平正芳の「政策研究会」の提言などを紹介し、21世紀の岩倉使節団のあり方について講演しました。グループ討議では、都市と地方の格差や自己のアイデンティティの育成などについて議論されました。
午後は、【体験学習―心身の学】として、「アート思考」への誘いをテーマに、「対話型鑑賞」と「哲学対話」が行われました。寺元静香先生と戸澤幸作先生の指導の下、参加者はグループに分かれ、当研究所内の絵画や工芸品を鑑賞し、その気づきを問いかけの形で発表。「赤はなぜ生命を連想させるのか」「どこからどこまでが芸術作品か」などの問いかけから、作品鑑賞を通じて自己と向き合う時間を持ちました。
その後、「科学・技術」分野の学習が行われ、古川安先生が喜多源逸の「研究・教育」観や「コンタクトゾーン」の重要性、異分野の学びの有効性について講演。グループ討議では、「リベラルアーツ」や「学問への道」について、各自の問題意識と経験を交えて意見が交わされました。
夕食時には全体交流会が開かれ、受講生は講師やTAと親睦を深め、夜遅くまで最終日のまとめに向けた意見交換を行いました。
【第3日目】
最終日。午前中は全体討議が行われ、グループ間の報告と質疑を通して議論を深め、午後のレポート発表に向けて各グループで考えを整理しました。
午後のレポート発表では、セミナーでの学びや考えを受講生一人ひとりが発表。普段の学校生活では得られない深い学びや活発な意見交換の機会に恵まれたという声が多く上がりました。特に、「対話の哲学」というキーワードが見出され、IIAS塾の理念「独立自尊」の志に繋がる試みもありました。TAからは、知識だけでなく「好奇心」と「勇気」を持って学びを広げて欲しいとのコメントがありました。
講師からは、学ぶことの意義や、一流の人物・文物との出会いの重要性、AIやジェンダー問題など、今後の課題についてのお話がありました。
閉講式では、和氣弘明専務理事から受講証が授与され、異分野交流の意義や幅広い学びを継続して欲しい旨の餞の言葉がありました。
最後に、参加者全員で記念撮影を行い、3日間の学習プログラムを終え、今後の交流を誓い合って閉講となりました。
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グループ討議の様子(D班) -

グループ討議の様子(C班) -

夕食の様子 -

体験学習の様子 -

体験学習の様子(当研究所内の絵画を鑑賞中) -

3日目全体討議の様子 -

講評の様子 -

集合写真 -

受講証授与
参加者の声
- 集まったメンバーが1 人1 人それぞれの考えを持ち、それを共有する場が与えられていることで有意義な対話をすることができた。
- 高2女子
- 様々な、物事についての考えやアプローチ方法などの特徴が異なる同年代の方々と一人で取り組むにしては少し難解なテーマを楽しく受講することができた。
- 高1男子
- 実際に先生や仲間と会ってコミュニケーションを重ねることによる、学びの相乗効果が凄かった。
- 高3女子
- どの分野についても対話を通じてどんどん新たな視点が生まれていったことがとても良かった。自分の考えを超えてくるもの、変えてくれるものに出会えるこんな機会は貴重であった。
- 高1女子
- 高校生だと普段あまり哲学に触れる機会がないため、自分の世界が著しく広がった感じがして面白かった。
- 高1男子
- TA さん達の存在が、私にとってとても良い刺激になった。学問に対して誠実で、話してくださる内容には学びが多くて、私達の対話を支えてくださる姿勢は丁寧だった。だから私もTA さん達のような大学院生になりたいと強く思った。
- 高1女子
開催概要
講師とテキスト主題

瀧 一郎
- 大阪教育大学名誉教授
- メインテキスト
- 『「ベルクソン」に学ぶ―「直観」の哲学 ~ 世界の平和と人類の幸福のために ~』
- サブテキスト
- ベルクソン著、平山高次訳『道徳と宗教の二源泉』岩波文庫(1953年)
1959年東京生まれ。開成中学・高校卒業。東京大学大学院人文科学研究科美学芸術学博士課程修了。1995~1997年フランス政府給費留学生としてパリ第I大学(哲学科哲学史博士課程)に留学。大阪教育大学名誉教授。文学博士(東京大学)、DEA(パリ第I大学)。専門は、美学、芸術学。(公財)天門美術館理事、(特非)文語の苑理事。主要著作に、『ベルクソン美学研究-「直観」の概念に即して-』東京大学大学院人文社会系研究科 博士文学ライブラリー, コンテンツワークス, 2002.「想像と類比―ベルクソン的直観の論理」『美學』224, 2006など。
アンリ・ベルクソン(Henri Bergson, 1859-1941)はフランス・スピリチュアリスムの哲学者で、科学の実証性を重んじながら、経験に即して自然と精神との根拠を問う生命の形而上学を提唱した。哲学者として国際連盟の知的協力委員会の議長を務めるなど、思索の人として行動し、行動の人として思索する理論家にして実践者であった。「エラン・ヴィタール」の起源を求めて「愛」としての「神」へと導かれる最後の主著『道徳と宗教の二源泉』(1932)は、未曾有の危機に立つ現在の人類に託された希望の書である。二十世紀に始動した世界戦場化がテロリズムによって拡大され、迫り来る全面核戦争の危機を杞憂とばかり楽観できない今日、闘争本能を人間の本性と認めて、戦争は殆ど不可避と考えるベルクソンが、それにもかかわらず、人類の未来に絶望することなく世界平和への希望を語りうるのはいかにしてか。その哲学的遺言とも言うべきメッセージに耳を傾けてみよう。

瀧井 一博
- 国際日本文化研究センター教授
- メインテキスト
- 『岩倉使節団150年を機に「日本文明」の再興を考える ~ 受容する文明から需要ある文明へ ~』
- サブテキスト
- 瀧井一博著『文明史のなかの明治憲法』ちくま学芸文庫(2023年)
1967年福岡県生まれ。京都大学大学院法学研究科博士後期課程を単位取得のうえ退学。博士(法学)。神戸商科大学商経学部助教授、兵庫県立大学経営学部教授などを経て、現在、国際日本文化研究センター教授。専門は国制史、比較法史。角川財団学芸賞、大佛次郎論壇賞(ともに2004)、サントリー学芸賞(2010)、フィリップ・フランツ・フォン・シーボルト賞(2015)受賞。主な著書に『伊藤博文』(中公新書)、『大久保利通』(新潮選書)、『増補版 文明史のなかの明治憲法』(ちくま学芸文庫)他多数。
今から150年前、岩倉具視を大使とする総勢100名を超える日本人が、1年半以上の長きにわたって欧米諸国巡遊の文明視察の旅に出た。岩倉使節団である。それから150年の歳月が経過し、その間、日本は急速な近代化を遂げたが、21世紀に入って日本は明治維新にも匹敵するような国家と社会の再編成の時に直面している。日本は今、新たな岩倉使節団を必要としているのかもしれない。21世紀の岩倉使節団に求められているもの、それは、日本の文化的遺産を受け継ぎながら、世界の変化を学び取り、それに適応した新たな文明のあり方を国際的に発信する知的冒険である。

古川 安
- 総合研究大学院大学客員研究員
- メインテキスト
- 『「応用をやるなら基礎をやれ」化学者たちの京都学派 ~ 福井謙一をはじめとする喜多源逸の後継者たち ~』
- サブテキスト
- 古川安著『化学者たちの京都学派―喜多源逸と日本の化学』京都大学学術出版会(2017年)
1948年静岡県生まれ, 神奈川県育ち。1971年東京工業大学卒業。米国オクラホマ大学大学院博士課程修了。Ph.D.(科学史)。帝人株式会社を経て, 東京電機大学教授, 日本大学教授, 化学史学会会長を歴任。専門は科学史。主著に『科学の社会史―ルネサンスから20世紀まで』(ちくま学芸文庫), Inventing Polymer Science (University of Pennsylvania Press), 『化学者たちの京都学派―喜多源逸と日本の化学』(京都大学学術出版会),『津田梅子―科学への道,大学の夢』(東京大学出版会)がある。2001年日本産業技術史学会賞, 2004年化学史学会学術賞, 2018年英国化学史学会モリス賞, 2022年毎日出版文化賞, 2024年日本科学史学会特別賞受賞。
戦前から戦中にかけて京都大学工学部工業化学科教授の喜多源逸は、「化学の京都学派」と呼ばれる学派をつくり、独自の学風を植え付けた。その門下からは、 桜田一郎、兒玉信次郎、古川淳二、小田良平から、ノーベル化学賞受賞者の福井謙一、野依良治、吉野彰らへと連なる才気あふれる化学者の一群が輩出した。理学部ではなく工学部でありながら「応用をやるなら基礎をやれ」という喜多の理念のもと、「化学の京都学派」は高分子化学、有機合成化学、量子化学など関連基礎分野の開拓とその研究者養成に顕著な役割を果たした。本講演では、とくに創始者の喜多源逸(1883-1952)とその弟子で日本初のノーベル化学賞受賞者の福井謙一(1918-1998)の研究者・教育者としての生き方、考え方に注目することで京都学派の学風を考え、科学技術における創造性や人材育成のあり方を考えるヒントを探って頂きたい。

戸澤 幸作
- 京都市立芸術大学 美術学部 講師
- メインテキスト
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1987年東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。同大学院文学研究科博士課程単位取得。トゥールーズ第2大学(フランス)博士課程修了。博士(哲学)。現在、京都市立芸術大学 専任講師、高崎商科大学、学校法人マノ学園 真野美容専門学校、慶應義塾大学 非常勤講師。専門・関心領域は20世紀以後のフランス哲学、特にジル・ドゥルーズの哲学、哲学プラクティス。主要論文として、「「信じる」という概念の彫琢――『食人の形而上学』から『シネマ』へ」(『哲学』三田哲学会、第151号、2023年)など。
哲学することを通して、「ともに考える」喜びを分かち合うことを何より大切にしています。

寺元 静香
- 公益財団法人大原芸術財団 研究員・エデュケーター
- メインテキスト
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倉敷にある大原美術館で、未就学児から大学生までの学生団体の受け入れを担当しています。幼少期からアートやミュージアムに親しむ機会を提供することを目指し、来館される学生の皆さんに向けた鑑賞プログラムの提案・実施を行っています。特に、作品の解説にとどまらず、観察と対話を繰り返しながら鑑賞を深める「対話型鑑賞」を基点としたプログラムを取り入れています。
このプログラムでは、作品を自分の目で観察し、気づいたことや感じたことを他者と共有し対話することで、作品の見え方や自分自身の視点にも変化が生まれるかもしれません。こうした「気づき」や「発見」の体験を通じて、美術館という空間で新たな学びと感動を提供しています。
経歴:2013年、都留文科大学 文学部 社会学科環境・コミュニティ創造専攻卒業。同年、公益財団法人大原美術館 社会連携課スタッフとして勤務。2024年~公益財団法人大原芸術財団にて研究員・エデュケーターとして勤務。
募集要項
| 募集対象 | 高校及び大学の学生で、IIAS塾ジュニアセミナー開催委員会において、受講を認めたもの概ね20名。 |
|---|---|
| 応募対象 | 申込フォーム(Googleフォーム)より必要事項を記載のうえ送信。ただし、高校生にあっては、当該高等学校の教員の推薦及び保護者の同意を得たうえで「推薦書・同意書」を郵送またはE-mailにて送付。いずれも提出締め切りは、2025年1月19日(日) |
| 受講決定 | 選考結果は、2025年1月下旬、応募者本人宛て、「申込フォーム」に入力された住所へ郵送により通知。 |
| 開催日 | セミナー:2025年3月26日(水)~3月28日(金) プレミーティング(オンライン):3月16日(日)17~19時 |
| 開催場所 | 公益財団法人国際高等研究所 (京都府木津川市)アクセスマップ |
| 宿泊場所 | 国際高等研究所の施設内にある宿泊棟(予定) |
| 参加費用 | 無料 (ただし、宿泊食事代の1万円は参加者負担) |
| 問い合わせ・申込先 | 公益財団法人国際高等研究所 IIAS塾ジュニアセミナー開催委員会事務局 〒619-0225 京都府木津川市木津川台9-3 Tel:0774-73-4000/Fax:0774-73-4005 E-mail:iias19-2015@iias.or.jp URL:http://www.iias.or.jp/ |
| 共催、後援、協力 | 【主催】公益財団法人国際高等研究所(IIAS塾ジュニアセミナー開催委員会) 【後援】京都府・奈良県・滋賀県・和歌山県の各教育委員会(予定) 【協力】京都大学、大阪大学 |
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