第98回 けいはんな「ゲーテの会」
開催概要
「新しい文明」の萌芽を探る日本と世界の歴史の転換点で、転轍機を動かした「先覚者」の事跡をたどる
第98回
思想・文学奈良の仏教をめぐって ー唯識 こころの哲学を中心にー
- 【講演者】
- 興福寺 寺務老院
- 【講演者経歴】
- 法相宗大本山興福寺寺務老院(責任役員)
同寺菩提院住職
奈良県奈良市出身。1969年に立命館大学文学部哲学科心理学専攻を卒業。その後、入寺。執事や副住職を務め、1989年からは興福寺貫首(代表役員)に就任、2019年に退任した。貫首在任中は法相宗管長を務め、また中金堂再建など、伽藍の復興に精力的に取り組んだ。貫首退任後も責任役員を務め、引き続き境内整備や伽藍復興などの事業に取り組んでいる。
また、法相宗の理論である唯識や仏教文化論の普及につとめ、執筆や講演活動なども積極的に行なっている。能や詩などにも関心が深い。
- 【講演要旨】
- 唯識は、日本仏教ではいわゆる南都六宗の一つ、「法相(ほっそう)宗」の教義として、7世紀に導入されて以来学ばれている。
唯識は西暦4~5世紀、インドのアサンガ(無着)とヴァスバンドウ(世親)とによって大成されたいわゆる大乗仏教の一つである。唯識教義による心の構造とそのはたらきについて、概要をお話したい。
- 開催日時
- 2026年5月15日(金)18:00 ~20:00
- 開催場所
- 公益財団法人国際高等研究所
- 住所
- 〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
- 参加費
- 今回は無料
- 定員
- オンライン 100名 会場参加40名(先着順・定員になり次第締め切り)
- 締切
- 2026年5月13日(水)必着
当日の様子
2026年5月15日(金)午後6時から第98回「満月の夜開くけいはんな哲学カフェ「ゲーテの会」」が国際高等硏究所コミュニティホールで開催されました。演題は「奈良の仏教をめぐってー唯識 こころの哲学を中心にー」、講師は多川俊映先生 (興福寺 寺務老院・元貫首)。
なお、今回の「ゲーテの会」は、2026年度の〈「新たな文明」の萌芽、探求を!〉プロジェクトの一環として、その共通テーマ「人間論―意識・無意識の謎を探る」の皮切りとして開催されたもので、全国からon-line参加者を含めて200名を超える方から参加申し込みがあるなど広く関心を呼びました。
お話では、仏教史にも触れ、「唯識」の学理は、古代インドで5世紀末には完成の域に達し、玄奘三蔵などによって中国にもたらされ、その後日本の留学僧の手によって7~8世紀ごろ、奈良時代にかけて日本に伝えられた。「法相宗(唯識)」は当初、各寺で「南都六宗」などと呼ばれる他の学理と共に学ばれたが、興福寺では早くから「唯識」が宗旨とされた。
仏教は元々「こころ」に深く関心を寄せる宗教であり、表層意識(眼、耳、鼻、舌、身)としての前五識(いわゆる五感)と第六織(いわゆる意識)について論じられてきた。ただ、その探究が順次進み、その表層領域の下に深層意識として第七識(末那識)、更にその下にそれらの本となり、かつ、生存基盤でもある第八識(阿頼耶識)の存在が明らかにされるに及んで「唯識」の学理は完成を見た。「唯識」の考え方は、「すべてを心の要素に還元して考える立場」とされる所以でもある。
第八識の「阿頼耶識」は「蔵・保持する」を意味するサンスクリット語「アーラヤ」の音写である。人間の全ての行為行動はそこに蓄えられ、種子(しゅうじ)となり、未来永劫消えることはない。人間はこの種子(これまでの行為行動)を背負って新たな行為行動の臨み、それがまた種子となる。因となり果となり展転する。ここに「唯識」の本質がある。
そして「阿頼耶識」の認識対象は、「種子(これまでの行為行動)」と「肉体(五感の基である身体)」と「器界(自然、環境など我が身を取り囲むもの)」。肉体が朽ち果てると器界は消滅する。残るは「種子」。「生の欲望」にも集約される「種子」。世々代々引き継がれ、世代を超ええ永続する「種子」。ここに「唯識」の本質が宿る。
質疑応答では、「唯識」は仏教の中の一宗派を超えた広がりを持つ教理であり、他宗の方でも仏教の核心である「心」の理解を求めて基本教理として学修されている。フロイトの無意識と「唯識」の深層意識(阿頼耶識)とは、前者は認識可能、後者は認識不可能、その認識・操作性の可否に決定的違いがある。宗教の世界では、正否を問う客観世界と異なり、「誤り」は幾らでもある。自己の感覚に照らして納得できる教えであれば、ともかく受け入れて学修してみることだなどと、人生の在り方にも触れて活発な質疑が交わされました。
(文筆:「ゲーテの会」事務局)
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多川俊映先生 -

講演会場風景 -

質疑応答




