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第57回 けいはんな「ゲーテの会」

開催概要

未来に向かう人類の英知を探る- 時代の裂け目の中で、人々は何に希望を見出してきたか -

57

思想・文学

永井荷風と日本のまちづくりー日本の近代化の是非を問うー

【講演者】
高橋 義人平安女学院大学教授、京都大学名誉教授
【講演者経歴】
 1945年栃木県生まれ。京都大学名誉教授、平安女学院大学教授。国際ゲーテ協会元理事、国際異文化交流独文学会前副会長。主著に『形態と象徴』(岩波書店)、『ドイツ人のこころ』(岩波新書)、『魔女とヨーロッパ』(岩波書店)、『グノーシス 異端と近代』(共著、岩波書店)、『グリム童話の世界』(岩波新書)、『10代のための古典名句名言』(共著、岩波ジュニア文庫)、ゲーテ『色彩論 完訳版』(共訳、工作舎)などがある。
【講演要旨】
 明治維新以降、日本は西欧から多くのものを学んできたが、学びそこなったものも数多い。そのひとつが「まちづくり」である。たとえば京都は日本でも最も美しい町のひとつと言われるが、その京都を訪れた西欧人の多くは、京都で美しいのは金閣寺・銀閣寺などの神社仏閣だけで、町は美しくない、古都の面影の多くが失われてしまっている、と言っている。
 日本ではいかに「まちづくり」すべきか、まるで真剣に考えられていない。そのことを誰よりも深く憂慮したのは永井荷風だった。彼は西欧かぶれした日本人であり、西欧の眼で日本を眺めた。彼はまた山の手出身の東京人であり、それゆえ東京の下町に強く憧れた。
 荷風の考える下町は江戸情緒の残る町だった。ところが東京の町から江戸情緒は年々失われていく。その喪失感は関東大震災と第二次大戦によって加速されるばかりだった。
 荷風は「明治の文明」に「江戸の文化」を対峙させ、日本の近代化を激しく批判した。だが彼は、自分自身がじつは西欧かぶれした近代日本人のひとりであり、日本の町の荒廃に手を貸していることをよく知っていた。そんな彼は、ある日、ベルリオーズの『ファウストの劫罰』の歌劇版を見て、劫罰を受けるファウストを自分自身と重ね合わせずにはいられないのだった。
 日本のまちづくりの問題点、特に関西学研都市のまちづくりの問題点についても、みなさんと一緒に意見交換したいと思っている。
開催日時
2018年3月29日(木)18:00~20:30
開催場所
公益財団法人 国際高等研究所
住所
〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
参加費
2,000円(交流・懇談会費用を含む)
定員
40名(申し込みが定員を超えた場合は抽選)
締切
2018年3月25日(日)必着

当日の様子

平成30年3月29日(木)18時から国際高等研究所で、第57回 『満月の夜開くけいはんな哲学カフェ「ゲーテの会」』が開催されました。本日のテーマは、「永井荷風と日本のまちづくり―日本の近代化の是非を問う―」で、高橋義人先生(京都大学名誉教授)から、「江戸情緒はつとに失われ―永井荷風と反近代―」と題してご講演いただきました。
永井荷風は、長期のアメリカ留学の後、1908(明治41)年、フランス滞在を経て日本に帰国。その時荷風は、近代化著しい日本の変わり果てた風景を目の当たりにする。その時の情況、心情が、小説『ふらんす物語』『すみだ川』『濹東綺譚』などに描かれている。「巴里」の街、あるいは「セーヌ川」のたたずまいへの憧れ、かつての情緒あふれる「江戸」社会への憧憬、「隅田川」の風情への回顧など。
その描写を取り上げ、荷風が懐いた日本の急速な近代化への違和感、「荒廃した江戸」の風景を見ての喪失感、そして反近代の立場に立ちながら近代化を進める親の助けを借りて口を糊していることへの葛藤、またそれに立ち向かおうとしない自己を「卑怯者」とする自己意識などについて解説。また、旧いものを生かそうとするヨーロッパ、新しいものを第一とする日本、その彼我のまちづくり現況の違いなども紹介していただきました。
質疑では、日本の無秩序な都市開発は、近代化への欧米の文物の学びの過程で「まちづくり」にかかる項目を欠落させたことに遠因があるのではないか、現在、AIなどの技術発展が著しい反面、それを支える人間の精神性の希薄化が危惧される。「心を培う」ことが重要ではないかとの指摘、さらに自然豊かで歴史文化に恵まれた「けいはんな」地域での、その風土を生かしたサイエンスシティとしての学研都市の発展のあり方などについて興味深い意見が交わされました。(文責:国際高等研究所)

  • ソプラノ 大嶋愛奈
    ピアノ  岩田真実
    (マイリズム音楽事務所)
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