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第89回 けいはんな「ゲーテの会」

開催概要

「新しい文明」の萌芽を探る日本と世界の歴史の転換点で、転轍機を動かした「先覚者」の事跡をたどる

89

思想・文学

保田與重郎「絶対平和論」への軌跡

【講演者】
前田 雅之明星大学人文学部教授
【講演者経歴】
1954年下関生まれ。
早稲田大学文学研究科博士後期課程日本文学専攻単位取得中退 博士(文学)
東京女学館短期大学教授、東京家政学院大学教授を経て、2008年より明星大学人文学部日本文化学科教授。
高校時代のある段階で、役に立たないことを学ぼうと決意して、インド哲学に進むことを考えておりましたが、残念ながら、滑り止めの早稲田大学教育学部国語国文学科に入学してしまい、二年次、前期をインド旅行などをして留年しながらも、結局、国文学に落ち着き、インドの説話(一角仙人)が日本でどのように展開したかを卒論に出して、大学院に進みました。大学院では、『今昔物語集』を中心に研究し、『今昔物語集の世界構想』(笠間書院、1999年)で博士号を取得しましたが、その後は、日本における古典や古典的公共圏の意味を考えるようになりました。保田與重郎に興味をもったのも、彼が古典復興を主張し、実践していたからです。
【講演要旨】
保田與重郎の戦後における重要な仕事として「絶対平和論」(1950年)があります。そこでは、徹底的に技術を伴う近代を否定することが平和への道と説かれています。当時の論壇からは空想論として無視されましたが、なぜ保田がかかる主張を展開したのかを考えるために、一つは、戦前から「文明開化の論理の終焉について」(1939年)等で展開されていた近代批判とそれに伴う「偉大な敗北」論、さらに、もう一つとして、保田が近代批判の一環としてとりわけ重視したゲーテ論(『ヱルテルは何故死んだか』、1939年)を軸に考えて行く予定です。とりわけゲーテの読み替え(これが正しい読解であるとは限りませんが)を通して、保田におけるポスト近代を見通してみたいと思います。
開催日時
2022年1月21日(金)18:00~20:00
開催場所

【重要なお知らせ】今回はオンラインと会場参加のハイブリッド開催となります。

公益財団法人国際高等研究所
住所
〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
参加費
オンライン 1,000円/人  会場参加 2,000円/人
定員
オンライン 100名  会場参加25名(先着順・定員になり次第締め切り)
締切
2022年1月19日(水)必着

当日の様子

2022年1月21日(金)18時から国際高等研究所主催の第89回満月の夜開くけいはんな哲学カフェ「ゲーテの会」が開催されました。テーマは、『保田與重郎「絶対平和論」への軌跡』。講師は前田雅之先生(明星大学人文学部教授)。
今回は、コロナ禍に配慮しつつも、対面方式と遠隔方式を併用したハイブリッド方式での開催となり、一年振りに対面方式が実現しました。

ご講演の趣旨は、保田與重郎の思想の根底にある日本の文芸(古典的精神世界)への憧憬から紡ぎ出された「近代批判」論、それを基軸に戦中・戦後へと連なる保田の「偉大な敗北論」「絶対平和論」の形成に関してのお話であった。

特に、日本文学史上の最大の文人・詩人と目される後鳥羽院の悲劇(隠岐の島流罪)、あるいは、ナポレオンの悲劇(セント・ヘレナへの流罪)にも触れながらの「本当の敵と戦う前に、低い戦いをせねばならなかった」「彼の敵に価せぬものに敗れて、その首を検された」との紹介・解説。

また、ゲーテの思想にも触れながら、「彼(ゲーテ)が「近代(因果律に蹂躙された新しいヨーロッパ)」の宿命を暗示し、これに代わる原理を「東洋」に求めた事実を知って、故人に対する尊敬をさらに深くした」と、保田がゲーテへの尊敬の念を表明していたとの紹介・解説は、「偉大な敗北論」「絶対平和論」への道を論じて圧巻であった。
だが、国土計画に触れての保田の主張「国土計画の根本になる思想は「完全耕作」にある」と言い、日本人、アジア人に農耕民族として生き抜くことを求め、「これが平和生活の最低主張」などとの言説は、晩年、都市生活に浸かる保田自身の生活実態に照らしても、あるいは現代生活の実情に照らしてもリアリティを欠き、本質的かつ多面的議論を行わない限り、ある意味で荒唐無稽さを拭えないものであった。

とは言え、今回、紹介・解説のあった保田與重郎の思想(近代批判)は、現在掲げている「ゲーテの会」の共通テーマ「新しい文明の萌芽を探る」を論ずる上で避けて通れないものであり、参加者にとって刺激的で、更に深い論議への欲求を掻き立てるものであった。

質疑応答では、古典への関心に関わって、それが薄れていった大正期(新聞紙上から「漢詩壇」が消えたことが象徴的)以降、日本人の精神性の劣化が進んでいったのではないかとの指摘もあり、興味深いものがありました。(国際高等研究所)

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