第95回 けいはんな「ゲーテの会」
開催概要
「新しい文明」の萌芽を探る日本と世界の歴史の転換点で、転轍機を動かした「先覚者」の事跡をたどる
第95回
思想・文学「直観」から勇気をもらう ー 自然研究者ゲーテがスピノザに学んだこと
- 【講演者】
- 吉田 量彦東京国際大学商学部 教授
- 【講演者経歴】
- 1971年、茨城県水戸市生まれ。慶應義塾大学文学部、同大学院文学研究科を経て、ドイツ連邦共和国ハンブルク大学にて学位取得(哲学博士)。現在、東京国際大学商学部教授。専門は、ドイツ語圏を中心とする17・18世紀の西洋近代哲学。近著に『スピノザ 人間の自由の哲学』(講談社現代新書)、訳書にスピノザ『神学・政治論』(光文社古典新訳文庫、全2巻)がある。他論文、翻訳多数。近年はスピノザ哲学のドイツ語圏での受容史・影響史に関する論文が多い。
- 【講演要旨】
- ゲーテはある手紙の中でスピノザの『エチカ』と、そこで語られる「直観の知」なるものに言及し、自分はこの思想から「私の全生涯を事物の観察に捧げる勇気」をもらったと語っている。その長い生涯のさまざまな時期・さまざまな機会にスピノザへの共感を示していたゲーテだが、どこにどう共感しているのかは大抵の場合ぼんやりしており、このように具体的な典拠を明らかにして語っているテクストは貴重といえる。
スピノザのいう直観の知とはどのような知のあり方か。なぜ、そしてどのような勇気をそこからゲーテはもらったのか。その勇気はスピノザ自身の思想から無理なく導出されたものなのか、それともゲーテがやらかしたある種の(すこぶる生産的な結果を生んだにせよ)誤解・誤読の産物なのか。ゲーテの生涯にわたる自然研究を支えた「直観」の虚実について、わたしが今考えていることをお話ししてお集まりの皆さまのご高評を仰ぎたい。
- 開催日時
- 2025年2月13日(木)18:00~20:00
- 開催場所
- 公益財団法人国際高等研究所
- 住所
- 〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
- 参加費
- 今回は無料
- 定員
- オンライン 100名 会場参加40名(先着順・定員になり次第締め切り)
- 締切
- 2025年2月11日(火)必着
当日の様子
2025年2月13日(木)18時から第95回「満月の夜開くけいはんな哲学カフェ「ゲーテの会」」が国際高等研究所(コミュニティホール)で開催されました。今回のテーマは『「直観」から勇気をもらうー自然研究者ゲーテがスピノザから学んだこと』。講師は吉田量彦先生(東京国際大学商学部教授)。会場には約20名の方が、onlineでは全国から100名を超える方の参加がありました。
ゲーテの著作物で、スピノザに関わる記述は書簡文など極めて限られた箇所においてである。今回、それらを辿り、スピノザの言う「直観」とはどういうものか、ゲーテが勇気をもらったとする「直観」の理解はどのようなものであったか。また、いかなる理解の下にどのような「勇気」をもらったのかなどについて、独自の論証を踏まえてのご講演をいただきました。参加者の多くに深い感銘を与えるものでした。
スピノザの言う「直観」は、デカルトの言う分析的な「知」の観念ではない。言わば、分析過程を経ずとも計算式が解れば、つまり理路が了解できれば分かったとする「知」の観念である。自然研究者ゲーテが「勇気」をもらったとする「直観」の理解もそのようなものではなかったか。
つまりは、スピノザの言う「神=実体」、そしてその下にあるあらゆる「個物」は、「属性」(精神、物質等)を備えたその「様態」であるとする考えは、その研究対象たる自然のデカルト的客観的分析を経ずとも、また、ヤコービの言う研究対象の外に神を見るのでもなく、観察を突き詰めることにより、研究対象たる個物そのものに内在する「神=実体」に迫り得るとの信念を抱かせたこと、そのことがゲーテをして「僕の全生涯を・・・僕に届き得る限りの、そしてその形相的本質について僕が何らかの十全な観念を形成できると望みうる限りの、いっさいの事物の観察に捧げる勇気」と言わしめたのではないか、とのお話でした。
質疑応答では①スピノザの言う3種の認識(想像的、理性的、直観的認識)の関係について、それらは対立するものでなく併存するとの理解である。②「直観」(見神)と仏教思想、神道的八百万の神には関連を論議する余地はあるが、「神」の在り様について同一視することはできないであろう。③「直観」と科学技術、特に人工知能の発展とシンギュラリティ等との関係については議論を深める必要があるのではないかなど、会場の内外から多くの質疑があり、スピノザ哲学への関心の広がりを感じさせるものがありました。
そして、ご講演の最後に挙げられた言葉「神の直観的認識から生じる心の安らぎこそ、幸福に他ならない」(『エチカ』第4部付録4項)」。これが、スピノザのすべてを語っているように思えました。
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吉田先生 -
講演風景 -
質疑応答の風景