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第64回 けいはんな「ゲーテの会」

開催概要

未来に向かう人類の英知を探る- 時代の裂け目の中で、人々は何に希望を見出してきたか -

64

思想・文学

島崎藤村『夜明け前』から見た明治維新

【講演者】
猪木 武徳大阪大学名誉教授、国際日本文化研究センター名誉教授
【講演者経歴】
1945年生まれ。大阪大学名誉教授、国際日本文化研究センター名誉教授。専門は、近現代の経済思想・経済史。著書に『経済思想』(岩波書店)、『自由と秩序』(中央公論新社)、『大学の反省』(NTT出版)、『戦後世界経済史―自由と平等の視点から』、『経済学に何ができるか』(中公新書)などがある。
【講演要旨】
藤村の『夜明け前』は、幕末の黒船出現から明治中期までの日本を、木曽路・馬籠宿の本陣、問屋、庄屋を務めた青山半蔵(藤村の実父)と周辺人物たちの思想と行動を通して描いた大作である。特に第一部は、脇本陣、年寄役の「大黒屋」大脇兵右衛門信興が40年以上にわたって書き続けた日記を主に用いて、幕末期の日本の社会状況と人々の経済生活を具体的に書き留めた点を特徴としている。講演では、この大作の中から、主要人物を取り上げて、経済活動と宗教(国学と神道)の問題、過激派思想の動き、神仏同体説などに焦点を当てつつ、「御一新」と「明治維新」が近代日本社会に何をもたらしたのかを考える。

【参考図書】ご講演の内容の理解を促進するために次の図書が有益です。
島崎藤村『夜明け前』岩波文庫

どなたでもご参加いただけます。ぜひ、お誘いあわせの上ご参加ください。
開催日時
2018年10月23日(火)18:00~20:30
開催場所
公益財団法人国際高等研究所
住所
〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
参加費
2,000円(交流・懇談会費用を含む)
定員
40名(申し込みが定員を超えた場合は抽選)
締切
2018年10月22日(月)必着

当日の様子


2018年10月23日(火)18時から第64回「満月の夜開くけいはんな哲学カフェ「ゲーテの会」」が国際高等研究所で開催されました。テーマは、「島崎藤村『夜明け前』から見た明治維新」。講師は、猪木武徳先生(大阪大学名誉教授)。

江戸末期、社会は内憂外患の下にあった。黒船襲来、治安劣化、財政破綻。それに備えての国防海防、警察力の強化、資金調達力の涵養が喫緊の課題となった。それをよくするのは経済力。つまるところ資金調達。幕府は改鋳に走り、各藩は藩札を乱発し資金を捻出。海外貿易では洋銀の大量流入と金(大判小判)の流出。西洋の餌食となる。当然インフレとなる。社会は次第に機能不全に陥っていく。

ところで、幕末の人口は3,100万人程度で安定していた。しかし、内訳をみると、都市(江戸、大阪、京都等)は人口減、西南雄藩(薩摩、土佐、長州等)は人口増。そこに経済力の差が生じる。教育力の格差が生じる。それは次代を開く人物の輩出力の差となって現れる。そこに知識人、平田国学の門人など尊王攘夷思想の徒のネットワークが生まれる。王政復古、御一新(明治維新)が目前となる。

御一新(明治維新)は、政治的には不連続な変革であったが、経済的発展は連続的であった。藤村は、こうした江戸末期の動乱の状況を克明に描いていく。それができたのは、交通の要衝、また情報の結節点であった「街道」(木曽路/中山道)に居を構え、本陣、脇本陣本陣、問屋、庄屋職等を勤めた人々の克明な記録、いわゆる『大黒屋日記』があったからである。同時に、観察ポイントが「街道」であったが故に、都会(江戸、大阪、京都等)からの報告とは異なり、西南雄藩の動向、京都から江戸に至るまでの広範囲にわたる社会の動きを活写することができた。そこから経済学的統計数字の分析では表せない当時の社会の雰囲気が伝わってくる。

質疑応答では、激動の幕末社会の荒波に襲われ、翻弄される当時の人々。主人公、青山半蔵もその例外ではない。山林に生きる地元民の生活を思って官有林の解放に身を捧げたが、明治新政府に拒否され、逆に官職(戸長)を解かれる。八方ふさがりの中で精神を病み、座敷牢で「狂人」扱いされながら最後を迎えるかつての地域の長、青山半蔵。その純な平田国学の徒に、救済の道はあったのか。用意できなかったのか。現代は、そこから何を学ぶべきなのかとの、興味深い問い掛けもあった。(文責:国際高等研究所)

  • バリトン:秦幹治、ピアノ :林晃弘(OneNote音楽事務所)
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