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第74回 けいはんな「ゲーテの会」

開催概要

「新しい文明」の萌芽を探る日本と世界の歴史の転換点で、転轍機を動かした「先覚者」の事跡をたどる

74

思想・文学

人類に託した希望の書『道徳と宗教の二源泉』を 著した大哲学者「ベルクソン」

【講演者】
瀧 一郎大阪教育大学教育学部教授
【講演者経歴】
1959年東京生まれ。開成中学・高校卒業。東京大学大学院人文科学研究科美学芸術学博士課程修了。1995~1997年フランス政府給費留学生としてパリ第I大学(哲学科哲学史博士課程)に留学。大阪教育大学教授。文学博士(東京大学)、DEA(パリ第I大学)。専門は、美学、思想史。(財)天門美術館理事、文語の苑理事。主要著作に、『ベルクソン美学研究-「直観」の概念に即して-』東京大学大学院人文社会系研究科 博士文学ライブラリー, コンテンツワークス, 2002.「想像と類比―ベルクソン的直観の論理」『美學』224, 2006など。
【講演要旨】
 アンリ・ベルクソン(Henri Bergson, 1859-1941)はフランス・スピリチュアリスムの哲学者で、科学の実証性を重んじながら、経験に即して自然と精神との根拠を問う生命の形而上学を提唱した。哲学者として国際連盟の知的協力委員会の議長を務めるなど、思索の人として行動し、行動の人として思索する理論家にして実践者であった。「エラン・ヴィタール」の起源を求めて「愛」としての「神」へと導かれる最後の主著『道徳と宗教の二源泉』(1932)は、未曾有の危機に立つ現在の人類に託された希望の書である。二十世紀に始動した世界戦場化がテロリズムによって拡大され、迫り来る全面核戦争の危機を杞憂とばかり楽観できない今日、闘争本能を人間の本性と認めて、戦争は殆ど不可避と考えるベルクソンが、それにもかかわらず、人類の未来に絶望することなく世界平和への希望を語りうるのはいかにしてか。その哲学的遺言とも言うべきメッセージに耳を傾けてみよう。
開催日時
2019年8月20日(火)
開催場所
公益財団法人 国際高等研究所
住所
〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
参加費
2,000円(交流・懇談会費用を含む)
定員
40名(申し込みが定員を超えた場合は抽選)
締切
2019年8月19日(月)必着

当日の様子

2019年8月20日(火)18時から国際高等研究所において、第74回満月の夜開くけいはんな哲学カフェ「ゲーテの会」が開催されました。テーマは「人類に託した希望の書『道徳と宗教の二源泉』を著した大哲学者「ベルクソン」」。講師は、瀧一郎先生(大阪教育大学教授)。

ベルクソンに関心を寄せた日本の哲学者・思想家としては、西田幾多郎、九鬼周造などが挙げられる。禅など東洋哲学と通底するところがあるのはつとに知られたところである。

ベルクソン哲学のキーワードは何と言っても「持続の直観」である。ものを外部から眺める相対的認識、つまり科学的分析的態度ではなく、ものの内部に入り込んで変化して止まない生の直接把握、絶対的認識にこそその核心があると言う。

第ニのキーワードは「生命の飛躍」。人という知性体の構成する「人間社会」においては、宗教が静的宗教として、知性の暴走に由来する「人間社会」の崩壊を防御する役割を果たす。ただこの「社会」は「生命の飛躍」により「開かれた社会」へと跳躍する。 そこでは宗教が動的宗教として人間を人類愛へと駆り立てる。

ベルクソンは、人間社会は「知性」を本体としつつも、その上下に「直観」と「本能」の世界を措定する。機械的作動を旨とする「本能」の世界はさておき、「直観」の世界は、身体的・物質的な快楽と利便を求めて止まない「知性」の世界と異なり、歓喜に溢れる魂の躍動する精神性豊かな世界である。

世界の平和と人類の幸福は、物質主義に絡め取られた近代合理主義を脱し、精神主義を旨とする簡素ながらも心豊かな社会を志向するところに開けてくるのではないか。科学も産業も、そして生活も「物質」から「精神(スピリチュアルなもの)」へと目を転じることが肝要ではないか。

質疑応答では、ベルクソンの「直観」と仏教哲理等との関係、また「直観」をいかにして身に付けるか、また、地球環境問題等にいかに応答していくかなど、参加者の日頃の問題意識に引き寄せての質疑がありました。

さらに、「空間(体)」に先立って「時間(魂)」があるとするのがベルクソンの思想である。「見えるもの」のみを本体としている現代人の世界観の限界にも触れて、「見えないもの」こそが実体であるとする世界観があるなどの説明もあり、パラダイム転換をも予感させる興味深い応答が続きました。(文責:国際高等研究所)

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