• 高等研ライブラリー
  • 高等研報告書
  • アーカイブ
  • 寄付

第76回 けいはんな「ゲーテの会」

開催概要

「新しい文明」の萌芽を探る日本と世界の歴史の転換点で、転轍機を動かした「先覚者」の事跡をたどる

76

思想・文学

吉本隆明『共同幻想論』をつうじて、国家・社会の実像に迫る

【講演者】
先崎 彰容 日本大学危機管理学部教授
【講演者経歴】
1975年東京都生まれ。東京大学文学部倫理学科卒業。東北大学大学院日本思想史博士課程単位取得終了(文学博士)。この間、文部科学省政府給費留学生としてフランス国社会科学高等研究院に留学(2006‐2007年、国際日本学専攻)。
現在、日本大学危機管理学部教授。
著書に『ナショナリズムの復権』(ちくま新書2013年6月)、『未完の西郷隆盛』(新潮選書2017年12月)、全訳・解説『文明論之概略』(角川ソフィア文庫2017年9月)他。
【講演要旨】
『共同幻想論』は、吉本隆明の主著であり、また難解で知られる吉本の著作群でも一・二を争う難解な書物です。刊行当時の学生時代、周囲に促されて読んだけどよく理解できなかった。あるいは2000年代に入ってから吉本に入門しようと最初に手に取ったが、よく理解できなかった。若者から年配の方まで、こうした意見をよく聞きます。
 本講座では、難解で知られる名著の内容と、それが書かれた背景を解説することで、精読するためのきっかけをつかんでもらうことを目標とします。
開催日時
2019年11月12日(火)
開催場所
公益財団法人 国際高等研究所
住所
〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
参加費
2,000円(交流・懇談会費用を含む)
定員
40名(申し込みが定員を超えた場合は抽選)
締切
2019年11月11日(月)必着

当日の様子

2019年11月12日(火)18時から国際高等研究所で、第76回満月の夜開くけいはんな哲学カフェ「ゲーテの会」が開催されました。テーマは「吉本隆明『幻想共同体論」をつうじて国家・社会の実像に迫る」。講師は先崎彰容先生(日本大学危機管理学部教授)

『共同幻想論』が世に出たのは1968年。吉本隆明が本書を書いた背景には強烈な「戦争」体験があった。1945年8月15日、一夜にして善悪の価値観が崩壊。混沌状態に陥った自己と世界の関係を再構築することを迫られた。そこには、国家意志の下に主観的には善と信じて客観的には悪を容易に行うという人間の性に対する深刻な反省もあった。

その国家とは何か。古事記などを紐解き日本神話にまで立ち返ることによって、西洋由来のものとは異なる日本独自の国家論を試みた。それが『共同幻想論』である。

吉本隆明は、その中で、国家等の「共同幻想」、男女関係(セクシャリティ)等の「対幻想」、芸術等の「個人幻想」を提起し、対幻想が共同幻想に転化する過程を論じ、また、その共同幻想(国家等)に対決し得るものとして、個人幻想(芸術等)を論じた。それは、エンゲルスの『家族、私有財産、国家の起源』を強く意識し、それに異論を唱えるものでもあった。

ところで、吉本隆明は「付和雷同」を嫌悪した。戦中の「神の国」万歳、戦後の「民主主義」万歳、ここに国民の精神構造における同質性を見ていた。とは言え、共同幻想を全面的に否定したわけではない。当然ながら、共同幻想に対峙する個人幻想としての自律の精神を強く希求したことは当然としても、共同幻想の範疇にある愛国的国家批判には理解を示していた。
ともかく、「共同幻想」を乗り越えるに当たって重要なのは、現場に身を置かない知識人の知性ではなく、そうした人たちの大仰な議論でもない。それらを横目に、黙々と日々の生業に励む市井の職人堅気の人たちにこそリスペクトすべきものがある。その「大衆」の「沈黙の意味性」を知識人自らがその思想に「くりこむ」ことが肝要である。そこに未来を見ようとしていた、というものであった。

質疑応答においては、新規性を求めて止まない資本主義経済社会の本性と対比して、時間軸を置いて歴史に学ぶことの重要性、古今和歌集と新古今和歌集に見られる日本人の心性の違いにも話が及び、知的刺激の多いものでした。(文責:国際高等研究所)

  • 講演の様子
  • 講師
  • 質疑応答の様子
最新に戻る