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第81回 けいはんな「ゲーテの会」

開催概要

「新しい文明」の萌芽を探る日本と世界の歴史の転換点で、転轍機を動かした「先覚者」の事跡をたどる 

81

科学・技術

『「無意識の哲学」により文化と思想に大きな影響を与えた人物、フロイト』 ―「精神分析入門」―

【講演者】
北山 修九州大学名誉教授
【講演者経歴】
1972年、京都府立医科大学卒業後、ロンドンのモーズレイ病院およびロンドン大学精神医学研究所にて2年間研修。1980年、北山医院(現・南青山心理相談室)を開設。精神分析家・心理療法家として活動する。1991年、九州大学教育学部助教授に就任。1994年、同教授。1998年、九州大学大学院人間環境学研究院教授。2001年より同大学院医学研究院教授を兼任。2010年3月、九州大学を定年退職。2010年4月白鴎大学教育学部特任教授。2011年、国際基督教大学教養学部客員教授。現在九州大学名誉教授。『劇的な精神分析入門』、『最後の授業』、『意味としての心』(みすず書房)など著書多数。


当研究所では新型コロナウィルス感染防止のため、感染予防対策を実施したうえで本イベントを開催いたします。
詳しくは下記をご覧ください。皆さまのご理解とご協力をお願いいたします。


≫「第81回ご案内」
≫「国際高等研究所交流事業新型コロナウイルス感染防止ガイドライン」
【講演要旨】
 精神分析はメタサイコロジーや深層心理学と言われるが、「メタ」が「高次の」という意味となるなら実に偉そうなので,私は深層心理学という言葉が好みである。深層とは高いところにはなく、裏側や奥であり、それは本人にすら気づかれていないことである。時には闇に隠れたもので「うがった見方」をしないと見えないのだが。例えば症状には無意識の意味があると考え、報告された夢の話はいつも加工されているので夢も潜在夢こそが本当に見られた夢だと言われることになる。その心の在り方を地図のように考え、広がりや空間のような捉え方をするなら,無意識,前意識,意識の3つの領域にわかれるとフロイトは考えた。日本語でも言うように、本音と建前,表と裏と分けてその間があるという発想である。次いで力関係から見た無意識というのは,その裏側にあるものがダムのようにせき止められている、抑圧されていると捉えられている。特に蒸気機関を眺めていた時代の人々は、押さえつけられたものには何かエネルギーがあり、管理に失敗すると暴走をし始めるというイメージを共有していた。
開催日時
2020年8月24日(月)
開催場所
公益財団法人国際高等研究所
住所
〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
参加費
2,000円(お釣りの無いようご協力ください)
定員
25名(先着順)
締切
2020年8月23日(日)必着

当日の様子

2020(令和2)年8月24日(月)18時から、国際高等研究所において、第81回満月の夜開くけいはんな哲学カフェ「ゲーテの会」が開催されました。テーマは、『「無意識の哲学」により文化と思想に大きな影響を与えた人物、フロイト―「精神分析入門」』。講師は、精神分析家であり音楽家でもある北山修先生(九州大学名誉教授)。

フロイトは、「無意識の世界」の探究者として夙に知られている。彼自身は自然科学者をもって任じていたが、その著作物は芸術的価値の高いものであって、それ故にその文章は「ゲーテ賞」の栄に浴し、長く語り継がれるものとなった。

無意識は人間を突き動かす、いわゆる欲動を司るものである。精神分析は、人間理解の方法であり、その無意識を把握し、操作可能とし、より良き「人生物語」を紡ごうとするものである。そのためのツールの柱は「言語」。隠喩(メタファー)により、得体の知れない無意識の心の状況に名を与え、第三者化し客観化し、自己認識を可能とする。そしてそれは「人生物語」再構成の縁(よすが)となる。

精神分析的思考には、個人的で内的・主観的体験重視の傾向がある。それに対して社会的で外的・環境主義的観点からの批判がある。しかし、それは精神分析の発祥の地である欧米と、日本とでは、人間を取り巻く自然的、社会的環境が異なり、例えば、狩猟民族か農耕民族かの文明論的違いが精神の在り様の違いとなって現れるような、そうしたことの反映ではないかとの意見もある。

したがって、集団主義的な日本人の精神の在り様についても、個人主義的欧米基準のみからの評価ではなく、むしろ、こうした日本人固有の精神の在り様も、人間精神の在り様の一類型として、世界に向かって説明すべきであろう。

質疑応答では、精神分析に当たっては、自己を照らす鏡として、文学作品なども含めて第三者の介在が不可欠である。親子の関係を含む子育てにおける彼我の違いは、依存心など精神発達の違いとなって現れる。身体的性差が人間精神の在り様、つまり能動的か受動的かに及ぼす影響も無視し得ないものがあるのではないかなど、興味深い意見交換が行われました。(文責:国際高等研究所)

  • 講演の様子
  • 講師:北山修先生
  • 質疑応答の様子
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