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第85回 けいはんな「ゲーテの会」

開催概要

「新しい文明」の萌芽を探る日本と世界の歴史の転換点で、転轍機を動かした「先覚者」の事跡をたどる

85

思想・文学

日本人の実像を求めて旅した民俗学の祖「柳田国男」

【講演者】
鶴見 太郎早稲田大学教授
【講演者経歴】
1965年生。京都府出身。早稲田大学教授。 専攻は日本近現代史。京都大学文学研究科博士課程修了。博士(文学)。京都文教大学助手、早稲田大学文学部講師、助教授、准教授を経て現職。主な著書に『柳田国男とその弟子たち』(人文書院 1998年)、『橋浦泰雄伝』(晶文社 2000年)、『或る邂逅 柳田国男と牧口常三郎』(潮出版社 2002年)、『民俗学の熱き日々』(中公新書 2004年)、『座談の思想』(新潮選書 2018年)など。
 高校時代のある段階で、役に立たないことを学ぼうと決意して、インド哲学に進むことを考えておりましたが、残念ながら、滑り止めの早稲田大学教育学部国語国文学科に入学してしまい、二年次、前期をインド旅行などをして留年しながらも、結局、国文学に落ち着き、インドの説話(一角仙人)が日本でどのように展開したかを卒論に出して、大学院に進みました。大学院では、『今昔物語集』を中心に研究し、『今昔物語集の世界構想』(笠間書院、1999年)で博士号を取得しましたが、その後は、日本における古典や古典的公共圏の意味を考えるようになりました。保田與重郎に興味をもったのも、彼が古典復興を主張し、実践していたからです。


【重要なお知らせ】政府による緊急事態宣言を受け、本会合を延期とさせていただきます。お申込みいただいた皆様におかれましては、ご理解のほどどうぞよろしくお願いいたします。

【講演要旨】
こんにち、柳田国男の民俗学はしばしば日本民俗学と同義に捉えられることが多い。それは一体何に起因するものなのだろうか。少なくともその理由の一端は、柳田の安定した循環構造を持つ神観念と、地方の郷土史家を連ねるようにして形成された研究組織網に求められるといっていい。加えて柳田によって論じられる素材は多くの読者にとって、そうした事例は自分の身の回りにも起こり得ると受け止められ、追体験への道を開くものでもあった。その意味で折口信夫の直観力、南方熊楠の博覧強記にみられるような、読者を圧倒する世界は柳田の採るところではなかったといえる。本報告では大正末から昭和初年にかけてを中心に、柳田の民俗学がどのような形で地方へと浸透していったか、その実像について考えて行きたい。
開催日時
2021年5月26日(水)18:00~20:00
開催場所

【重要なお知らせ】今回はオンライン開催のみとなります。

住所
今回はオンラインのみ
参加費
今回は無料
定員
40名(先着順・定員になり次第締め切り)
締切
2021年5月25日(火)必着

当日の様子

 2021年5月26日(水)18時から第85回満月の夜開くけいはんな哲学カフェ「ゲーテの会」がオンラインで開催されました。テーマは『日本人の実像を求めて旅した民俗学の祖「柳田国男」』。講師は鶴見太郎先生(早稲田大学文学部教授)。今回は、コロナ禍に配慮しZOOM(ウエビナー)を活用して開催したこともあり、全国から定数を超える多くの方の参加がありました。
 
 柳田国男の生涯をたどりながら、日本民俗学の形成過程とその特徴について解説がありました。柳田国男の時代は、文学と政治と学問が未分化の状態にあった。そのことが柳田の事績を特徴づけるものとなっている。柳田民俗学の形成過程での特記は、1920(大正9)年から翌年にかけての沖縄紀行である。官僚としてのキャリアを終えてからのことである。沖縄の祖霊信仰の習俗に触れ、そこに日本人の生活文化の祖型を直観的に把握した。それが日本民俗学の形成の起点となった。沖縄紀行は柳田の思想の転換点でもあった。沖縄の前では日本人は複合民族との認識であったが、沖縄の後では均質的な民族との認識を持った。

 柳田の民俗学の特徴として、「無名の人」に着目したことが挙げられる。民謡、口承文芸などに代表される無名の人々が数百年にわたって積み重ねてきた中で生まれた作品は、一人の天才が創った文芸よりもはるかに価値がある、と柳田は考えた。前近代的「群れ」に価値を見出そうとする。近代「俳句」より、それ以前の「俳諧」に、また、連衆によって生活の中から紡ぎ出される「連歌」に価値を見出している。
 
質疑応答では、柳田民俗学の宗教、特に仏教や儒教への評価に関して、仏教については、例えば葬式仏教のように、民間習俗の中に根を下ろしたものについては、これに関心を寄せていた、あるいは柳田自身は農政官僚時代の経世済民志向に見られるように、もともと士大夫的な倫理観の持ち主であったとの説明。柳田民俗学へのユングの影響に関して、同時代人ではあるが人的交流はないものの、集団的(無)意識など思想内容においては極めて近いものがあるとの説明。更にキリスト教的西洋文明の相対化(近代の超克)に対する柳田民俗学の有効性・可能性など興味深い話題が提起されました。

 最後に、民俗学を学ぶ意義に触れ、より良き「公民」として生きることにあるのではないかとのコメントがあり、参加者からの評価もいただきながら初めてのリモートによるWEB「ゲーテの会」を終えました。(文責:国際高等研究所)

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